第二 公序良俗違反論

一 宗教法人法第六条第二項

1 公益事業
 宗教法人の主たる目的は「教義を広め、儀式行事を行い、信者を教化育成する」ことである(宗教法人法−以下表示を省略する−第二条)。
 宗教法人は宗教活動の外に公益的事業やその他の事業を行うことができるが、これらは付随的におこなうべきものなのである。
 「宗教法人は、公益事業を行うことができる。」(第六条第一項)
 公益事業とは宗教法人の主たる目的以外の公共の利益を図る目的のために営まれる事業で、かつ、営利を目的としないものをいう。

2 公益事業以外の事業
 宗教法人はその本質から(本来、俗事の典型である営利事業とは無縁である)、また公益法人の一種であることから、公益事業以外の事業を行う能力は制限されている。
 「宗教法人は、その目的に反しない限り、公益事業以外の事業を行うことができる。この場合において、収益を生じたときは、これを当該宗教法人、当該宗教法人を包括する宗教団体又は当該宗教法人が援助する宗教法人若しくは公益事業のために使用しなければならない」(第六条第二項)との規定が設けられたのは、宗教法人が第二次大戦後、農地解放により財政的基盤を喪失するとともに、戦後の経済的、社会的混乱の中で貨幣価値の下落、寄付金収入の減少などの事情があったので、宗教法人の財政的基盤の安定・確保を図るためであった(新宗教法人法 その背景と解説 中根孝司 第一法規 四二三頁)。
 公益事業以外の事業とは、中間的事業及び営利事業であり、中間的事業とは公益、営利のいずれにも属さないものであって、構成員の相互扶助事業などがその主たるものである。

3 目的に反しない限り
 宗教法人のおこなう営利事業は宗教法人の目的に反しない場合に限り行うことができる。宗教法人の目的に反する事業とは、宗教法人の目的を達成するための業務と矛盾し、またはその業務に支障を生じさせる事業をいうとされている。

4 営利事業の手続
 宗教法人が営利事業を行うには、その宗教法人での機関決定を経た上で、所轄庁で規則の変更について認証を受け、規則変更の登記手続を行い、監督官庁があるものについてはその許認可を受け、納税地の税務署に収益事業開始届出書の提出が必要である。

5 行政処分
 所轄庁は宗教法人に第六条第二項違反の疑いがあると認めるときには「当該宗教法人の業務又は事業の管理運営に関する事項に関し、当該宗教法人に対し報告を求め、又は当該職員に当該宗教法人の代表役員、責任役員その他の関係者に対し質問させることができ」(七八条の二)、宗教法人が行う公益事業以外の事業について第六条第二項の規定に違反する事実があると認めたときは「当該宗教法人に対し、一年以内の期間を限りその事業の停止を命ずることができる」(第七九条)。

6 刑事処分
 右の停止命令に反して事業を行ったときには、その宗教法人の代表役員は処罰される(八八条)。

7 税法上の優遇措置
 宗教法人が行う営利事業については公益法人と同じく税法上の優遇措置がある。

8 公序良俗違反
 したがって、宗教法人法第六条第二項の規定は公の秩序を構成しているというべきであり、同項に違反する行為は公序良俗違反の行為として民事上無効なのである。

二 第六条第二項違反の場合
1 種類、規模、搾取、利益の使途
 法第六条第二項の規定に違反する場合とは、次のような場合をいう。
@宗教法人の目的に反する種類の事業を行う場合、例えば投機的な事業、風俗営業に該当する事業など
A宗教法人の目的を逸脱する事業形態である場合、例えば宗教法人の本来の事業に支障が生ずる場合、本来の事業に比して著しく過大な場合や、宗教名目に信者を無償労働に従事させている場合など
B公益事業以外の事業から生じた収益を制限された使途(例えば当該宗教法人、当該宗教法人を包括する宗教団体、当該宗教法人が援助する宗教法人または公益事業)以外に使用している場合など
をいうとされている。

2 被告統一協会の場合
 被告統一協会の行ってきた営利事業はその規模が宗教法人としてはあまりに巨大であること、過大な利益の追求を求めて通常の売価よりも著しく高価に商品を販売していること、「献金」は対象者の資産を把握しその資産の大部分を拠出させる目標を持って行われること、社会問題化しているため宗教法人本来の事業に支障が生じていること(このことは、被告統一協会が勧誘の当初に自己を秘匿せざるをえないことから明らかである)、利益の使途が法に違反していること、信者を宗教の名において無償労働に従事させていることなどから明らかに第六条第二項に違反するものである。
 したがって、統一協会の営利事業のために第三者と交わされた法律行為は無効なのである。

三 行政庁の見解
古い時代の、すなわち現在よりも規模の小さな事業についてさえも収益事業にあたるとの見解である。

平成一〇年四月二四日 岡村信夫 証言調書 六九頁
今までの統一協会と都庁との関係なんですが、統一協会と東京都庁が関係したことについて簡単に言ってもらえますか。
三回か四回ぐらい、都庁からの重要な指導を受けたことがございます。まず第一番目は一九七七年でしょうか。当時、信者の間で行われていた人参茶販売、これが鹿児島教会のほうで薬事法違反の問題に問われました。そのときにあまりにも信者さんの間でそういう人参茶販売、それに鹿児島教会の教会長が関与するというようなことがありましたので、法人の収益事業として正式に人参茶販売を御許可いただけないかということで都庁に相談に参りました。しかし、その規模が大きすぎるとかいろんなことが理由で、それに対しては許可しないと、こういう御指導を受けたことがあります。第二番目は、同じようにしてやはり信者さんの間で七〇年代から行われていたビデオによる伝道、これを、きちんとした建物を借りて、維持運営のために受講料を取って、そして運営すると。そういうビデオ受講施設、これを法人として行えないかというようなことをまた御相談に参りました。これは八○年代の初めですが、これに対しても収益事業にあたってしまうというようなことで、これはちょっとやめたほうがいいんじゃないかというようなことを言われました。

 以下証拠によって統一協会の営利活動の実体を明らかにして、それが宗教法人法違反であることを明らかにする。

四 精誠の現れとして
 統一協会員に対しては、精誠をつくして献金をすべきである、万物復帰と称する経済活動を行わなければならないと、説教されている。
 信者達は自己について罪人であると自覚させられ、その罪を清算して永遠に生きるべき霊界において幸せな「人生」を送るためには、メシアである文鮮明による祝福を受ける以外道がないと教え込まれて信じさせられており、祝福を受けるためには経済活動や献金をしなければならないと信じさせられているのであるから、次の説教などは信者に対して強制力を持つのである。

1 文鮮明→私たちは一〇〇パーセント

甲A第六号証 ファミリー(一九八二年九月号) 一三〜一五頁
 統一教会の会員は必ず万物復帰をしなければなりません。万物復帰をすることによって、皆さんは神に万物を献祭するのです。この世の人々は十一条(十分の一)捧げればよいと言っていますが、私たちは十一条でなく百パーセント捧げます。それを三年間しなくてはならないのです。
 イエス様の時代に、アナニヤという人がいました。彼は資産を売った代金の全部を捧げなければなりませんでしたが、それをごまかし、隠しておいたために不運を招いて打たれて死んでしまったのです。同じように、皆さんも万物復帰をするとき、自分勝手に使ってはいけません。自分のために使ってはいけないのです。かえって、万物復帰したものに、自分のものを少しでもプラスして捧げるのです。それが私たちの精神なのです。
 このような原則を中心として生活しなければならないのです。この道を行くには、借りてでも天に捧げようとする心がなくてはなりません。精誠の限りを尽くしたにもかかわらず、それでも不足している場合には借りてでも補うような気持ちが大切なのです。
 万物復帰をするべきですか。それともするべきではないですか。(するべきです)。そうです。たとえ死ぬようなことがあったとしても、それに合格しなければならないのです。

2 統一協会幹部→一〇〇パーセントを神に

甲A第八号証 ファミリー(一九八二年一〇月) 一六頁
小山田秀生聖日礼拝
「愛の復権」と題する説教で「今までキリスト教は、長い間十分の一献金と言う発想をしてきました。自分の中の十分の一を神に返すというのです。しかし今はもうそういう悠長なことをやっていられないのです。今では百パーセント神に返さなければならないのです。その内容は何かというと、結局宗教の精神を示すために経済を通してやるという道なのです。これが第一段階になってくるのです。

3 万物復帰→汗と涙を流して

甲第二九七号証 『復帰摂理と万物』 三〇頁
七年路程で復帰すべき内容
@旧約時代(万物復帰)
 最初の三年ないし三年半期間の前半は、歴史的にいえば旧約時代に該当する期間です。したがって、旧約時代の人々が万物を神にささげることによって自らを神のみ前に復帰した、そのような段階を再創造する期間であるといえるのです。確かに万物を復帰する道はそう簡単ではありません。多くの汗と涙を流してはじめて復帰できるのです。しかしそうした歩みの中で経験する一つ一つの体験はいつまでも私達にとって忘れることのできない貴重なものとなり、環境が厳しければ厳しいほど思い出の頂点に立つものとなるのです。

4 もてる限りを尽くし、精一杯神に捧げる精神が必要

乙ハ第一三号証 『信仰生活と献金』 七頁
 献金とは、教会を通して神の人類救済の摂理、すなわち神の復帰摂理の目的である地上天国建設という神の御業のためにささげられる献金(金銭)である。

乙ハ第一三号証 『信仰生活と献金』 一三頁
 地上天国実現という神の働きに力をつくして協力し、そのために惜しみなく献金する事がいかに重要な事であるかをといている。

乙ハ第一三号証 『信仰生活と献金』 一八頁
 将来の理想世界では、税金は三〇%であると文鮮明は言っている。

乙ハ第一三号証 『信仰生活と献金』 一九頁
 持ち物すべては、もともと神に帰属するもの。もてる限りを尽くし、精一杯神に捧げようとする精神が必要。

乙ハ第一三号証 『信仰生活と献金』 二〇頁〜
 統一協会は、初代教会の原型と精神、万物に対する一切の執着をすて、持ち物のすべてを一旦神の前にささげ、しかるのちに、それらの物を公平に分かちあった、そう言った精神をもっとも忠実に踏襲し、それを、現実の教会生活に出来る限りいかしていけるようつとめる。

5 かぎりを尽くして万物を捧げよう

乙ハ第八号証 岡村信夫 陳述書 三八頁
 具体的な実践としては、統一教会においては、それは献金を神に捧げる際に真心を尽くし、神への精誠を尽くし、信仰を尽くし、愛のかぎりを尽くし、感謝のかぎりを尽くし、その精誠の現れとしての、万物を捧げていきましょうという教えになります。

6 万物復帰→全身全霊完全投入

甲第一五五号証 実践トレ受講ノート 三七頁
万物と旧約時代
神:宇宙(経済基盤)→全身全霊を投入、完全投入して造った。これをサタンが奪った。したがってこれを再創造しなければならない。神と、宇宙共同再創造者→旧約時代の歴史的負債の精算→万物復帰→万物の再創造の条件(涙、汗、苦労、心情、犠牲)→霊界動員、犠牲の生活、奉仕精神。

7 やらねば死んでしまう心で

甲A第三五号証の二 ○○○○○陳述書B 一六頁
S展、M展のタワー室等には、「やらなければ死んでしまうという真剣勝負の心が必要。気狂いの如くやってみよ!み旨の為死んだ覚悟で飛び込め!そうすれば生きる。絶対的信仰を持ってやれば、後の責任は神が持つ。」などという文鮮明の言葉が掲示され、協会員は皆、その言葉を繰り返し繰り返し、叩き込まれていました。

8 実績のない自由はない。

甲A第二七号証 統一協会の基本的組織の二重構造 三頁
実績のよって信仰が測られるので、実績の無い自由は無いとすら言われるのである。

被告証人K 証人調書 八〇頁
成長したら、やらなきゃいけないことというのは伝道と経済ですよね。実績のない自由はないということがありますね。
うん、それよく言われる言葉ですね。

9 月一〇〇億でもたりない。命がけで取り組め。

乙ハ第二八号証の二 ○○○○ 平成六年七月四日 証人調書 一二〇頁
六ページの終わりから四行目から「アフリカの災害、或いはドイツの機械、中共のハイウェイ、或いは、水産、南米のカウサ、ワシントン・タイムズ、こんなものを、全部維持していくためにはね、TV、一〇〇ぐらいでは、足りないですよ。」と、こういうことを言ってますよね。
はい。
中共のハイウェイとかワシントン・タイムズ、カウサ、これはあなたのおっしゃる統一運動のことでしょう。
そうですね。
そうすると、それを全部維持していく為にはTV一〇〇、要するにこれ月一〇〇億円だと思うんですけど、それじゃ足りないと、こうおっしゃっているんでしょう。
そうですね。
こういう話しもしてたわけでしょう。
はい。

乙ハ第二八号証の二 ○○○○ 平成六年七月四日 証人調書 一二一頁
次に、八ページ目の終わりから五行目から四行目にかけてを見て下さい。「そこまでしてでも、命がけで取り組んで勝利すべきものがTVだったんです。」と、こういうふうに言ってますね。
はい。
結局、信者に対してTVに関しては命がけで取り組めと、こういうふうに話したんでしょう。
命がけで取り組んで勝利しましょうということですね。

10 結果としての献金額の例

被告証人P 証人調書 三一頁
これは、答えたくなければ結構なんですが、統一原理を聞いていろいろ購入したり、献金したりしたと思うんですが、大体の金額の合計は、どのくらいになります。
はい、母親とも一緒ですけども七、八千万ぐらいになります。

被告証人P 証人調書 七三頁
○○○○さんという方は知ってますね。
はい。
○○○○さんは、いわゆる篤志家といわれてる方でしたね。
そうですね。
高額献金者。
そうですね。
あなたが、Aトーカーとして担当されましたね。
はい。

・・・・・・

間接的に聞いて、○○さんは、幾らの献金をしましたか。
○○さんは、三〇〇〇万だったでしょうかね。
そうでしたね。
ええ。

被告証人K 証人調書 三頁
お母さんは献金をしたことはありますか?いくらですか?
八〇〇〇万です。(八六年一二月)

被告証人K 証人調書 二九頁
八〇〇〇万のお金は、ガラスの修繕をしているお店、そこの土地、五〇〇坪一億二千万、三千万で売った。税金分を除いた全額。それ以外の財産は無い。

被告証人K 証人調書 三〇頁
母のやった事は、天に宝を積むだとか、万物を経過して神様の元に戻るとか、うらみとか怨念がお金にこもっているとか、そんなこととか、それに近い内容だとは思っています。

原告証人c 平成一〇年二月二〇日付 証人調書 六五頁〜六七頁
あなた自身は統一協会に対して合計どれぐらいの献金をしていますか。
私自身は二、三百万ぐらいだと思います。
商品としてはどんなものを買っていますか。
ミネクール、男女美化粧品、下着、人参、CB展では指輪、ペンダント、コートなどを買っております。
商品代金でどれぐらいになりますか。
計算はしたことないんですけど、一〇〇万まではならないんじゃないかなと思います。
もちろん御主人には内緒ですね。
はい。
御主人のお金には手をつけられない状態ですか。
工面しますから、当然主人の収入の中からも。
家計の中から出すわけですか。
はい。
御親族の中で献金をさせた人はいますか。
はい、母親にさせました。
幾らぐらい。
純粋な献金は五〇〇万ぐらいだったと思いますけど、三〇〇万を貸すという形で。
合計八○○万。
はい。
お母さんにはどんな商品を買わせましたか。
人参、毛皮のショール、あと私のコートも買ってもらいましたし。
サウナなんかは。
ああ、サウナも。
代金でどれぐらいになりますか。
六、七十万じゃないかと思いますけど。
そういうふうに統一協会の活動をしていくと、献金をしたり物を買ったりして、結局はどういうふうになっていきますか。人によっては全財産なくなってしまうんじゃないですか。
はい、そうです。

以下統一協会の商行為を、具体例によって検討する。


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