青春を返せ訴訟第2陣2次訴訟・控訴審判決
控訴審判決→ゴシック体・青   1審判決→明朝体・黒

平成25年10月31日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官 村井
平成24年(ネ)第332号 損害賠償請求控訴事件(原審・札幌地方裁判所 平成16年(ワ)第1440号,平成18年(ワ)第1799号,平成21年(ワ)第968号,平成22年(ワ)第2921号)
口頭弁論終結日 平成25年7月18日

判             決


当事者の表示    別紙当事者目録記載のとおり

主             文

1(1) 原判決主文第1項中,被控訴人■■■■,同■■■■,同■■■■■,同■■■■,同■■■■,同亡■■■■訴訟承継人■■■■,同亡■■■■訴訟承継人■■■■,同本人兼亡■■■■訴訟承継人■■■■■,同亡■■■■訴訟承継人■■■■,同亡■■■■訴訟承継人■■■■,同■■■■,同■■■■,同■■■■,同■■■■■,同■■■■,同■■■■■,同■■■■,同■■■■■及び同■■■■に関する部分を取り消す。
(2) 上記被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
2 原判決主文第1項及び第2項中,被控訴人本人兼亡■■■■訴訟承継人■■■■に関する部分を次のとおり変更する。
(1) 控訴人は,上記被控訴人に対し,57万2000円及びこれに対する平成5年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 上記被控訴人のその余の請求を棄却する。
3 控訴人のその余の本件控訴をいずれも棄却する。
4 控訴人と第1項の被控訴人らとの間における訴訟費用は,第1,2審とも第1項の被控訴人らの負担とし,控訴人と第2項の被控訴人との間における訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを5分し,その1を控訴人の負担とし,その余を第2項の被控訴人の負担とし,その余の被控訴人らに関する控訴費用は控訴人の負担とする。
5 この判決は,第2項(1)に限り,仮に執行することができる。

事 実 及 び 理 由

第1 控訴の趣旨
1 原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。
2 上記部分に係る被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。

第2 事案の概要
 本判決における用語・略語については,原判決の「用語・略語の説明」(原判決2頁ないし7頁)を引用し(ただし,原判決7頁の「「承継原告ら、という場合」の欄の「34,35」を「33ないし35」に改める。),これに従う。
 本件は,統一協会の元信者,その近親者(友人を含む。)又は近親者の相続人である被控訴人ら(事件被控訴人ら)並びに原審相原告■■■■,同亡■■■■■訴訟承継人■■■■,同亡■■■■■訴訟承継人■■■■,同亡■■■■■訴訟承継人■■■■,同■■■■,同■■■■,同■■■及び同■■■■(以下「原審相原告ら」という。)が,統一協会の信者らによる違法な伝道・教化活動等により損害を被ったとして,控訴人に対し,民法709条又は715条に基づき,原判決別表C記載のとおりの損害賠償を求めた事案である。
 原審は,事件被控訴人ら及び原審相原告らの請求について,原判決別表B(ただし、平成24年6月20日付け更正決定による更正後のもの)記載のとおり認容し,事件被控訴人らのその余の請求及び原審相原告らの請求をいずれも棄却した。これに対し,控訴人が,上記敗訴部分を不服として,本件控訴を提起した。

第3 当事者の主張
T 次のとおり補正し,次項に当審における控訴人の補充主張及びこれに対する事件被控訴人らの反論を加えるほか,原判決の「事実」欄の第2章ないし第4章に記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,原審相原告らに関する部分を除く。)。


U 当審における控訴人の補充主張及びこれに対する事件被控訴人らの反論
1 近親者被控訴人らの被控訴人らに対する物品の買与えについて
(1) 控訴人の主張
 原判決は,被控訴人らは,自由な意思決定を侵害されて受け入れた信仰の影響下で,万物復帰や摂理の名の下,物品を購入することが求められていたのであり,近親者被控訴人らが被控訴人らに対して物品を買い与えるために支出した代金相当額は,被控訴人らの物品購入代金を肩代わりして支払ったものと評価することができるから,信者の不法行為と相当因果関係に立つ損害と認めるとする。しかし,近親者被控訴人らの物品購入の動機は何であれ,物品購入時に,信者から近親者被控訴人らに対して何ら違法な働きかけはなかったのであるから,上記代金相当額を信者の不法行為と相当因果関係に立つ損害ということはできない。原判決は,近親者被控訴人らが自分自身又は被控訴人ら以外の第三者のために物品を購入した場合については,近親者被控訴人らに対して害悪の告知等の詐欺的・恐喝的な方法をとっていなかったことを理由として,支出した代金相当額は信者の不法行為と相当因果関係がないとして損害と認めていないが,この判断と上記判断は矛盾している。

(2) 事件被控訴人らの主張
 控訴人の主張は,違法性の問題と相当因果関係の問題を混同したものであり,相当でない。

2 消滅時効について
(1) 控訴人の主張
 原判決は,被控訴人らにとっては,前回訴訟の判決の確定によって初めて,信徒会や連絡協議会ではなく,統一協会こそが賠償義務者であると理解することが可能となり,控訴人に対する不法行為に基づく損害賠償請求が可能な程度に損害及び加害者(賠償義務者)を知ったものと解するのが相当であるとして,事件被控訴人らについては,前回訴訟の判決の確定日から損害賠償債権の消滅時効が起算されるとする。しかし,被控訴人らは,脱会後,統一協会に対し,内容証明郵便等で損害賠償請求をしてきており,また,本件と同様の性質の前回訴訟が行われており,この段階で,控訴人と加害者の使用関係等の事実を認識し,控訴人に対する損害賠償請求が可能であることを認識していたもの,すなわち,損害及び加害者(賠償義務者)を知っていたものと解すべきである。したがって,被控訴人■■■及び同■■■■を除く本件被控訴人らは,遅くとも,被控訴人らの脱会時又は前回訴訟の各提起時ないしは本件と同種の裁判が提起されていた時期には,損害及び加害者(賠償義務者)を知っていたものというべきである。とりわけ,被控訴人■■■■■,同■■■■,同■■■■■,同■■■■■,同■■■■及び同■■■■は,前回訴訟において,証人として証言したり,陳述書等の証拠類を提供したりしているから,少なくとも,これらの被控訴人らについては,消滅時効が完成している。

(2) 事件被控訴人らの主張
 前回訴訟の判決は,予想に反する原告全面勝訴の判決であり,その内容は歴史的,画期的なものであった。したがって,事件被控訴人らが統一協会に対して損害賠償請求することができることを知ったのは,上記判決の確定日である。また,被控訴人■■■■■らが,前回訴訟において,証人として証言したり,陳述書等の証拠類を提供したりしているとしても,統一協会の布教・教化課程が不法行為であることは,裁判上争われている最中のことであり,かつ,その判断が極めて困難な部類の裁判だったのであるから,上記被控訴人らが前回訴訟の証人尋問で統一協会に騙されていたなどの証言をしていても,それはいまだ上記被控訴人らの被害者としての感性的な認識の発露にとどまり,損害等を知っていたと評価することはできない。

第4 当裁判所の判断
1 当裁判所は,近親者被控訴人ら及び承継被控訴人らの請求については,不法行為が成立しないことから,また,被控訴人らのうち被控訴人■■■■■,同■■■■及び同■■■■■の請求については,消滅時効が完成していることから,いずれも理由がなく,その余の被控訴人らの請求については,いずれも原判決主文第1項の限度で理由があるものと判断する。その理由は,次のとおり補正するほか,原判決の「理由」欄の第1章ないし第4章第9に記載のとおりであるから、これを引用する(ただし,原審相原告らに関する部分を除く。)。

注:控訴審判決6頁〜11頁 T-1〜63を省略(但し、T-6、T-10、T-23を除く)
  当HPに公開していない箇所の訂正部分であるため


T-6 一審判決71頁26行目の「支部」の次に以下を加える。
3 献金
 統一協会のブロックや支部
「(後記第4章第6で説示するとおり,連絡協議会又は信徒会は,控訴人の一部を構成すると認められるものであり,ここでいう支部は,連絡協議会等の組織における支部を指すものである。以下同じ。)では、伝道活動の目標(コース決定や各種セミナーの参加人数)意外に、物品販売活動や献金伝道活動の目標金額が設定されており、個々の信者ごとに目標金額が定められることもあった。
 献金については、摂理として献金目標が設定されることも多く、信者は、摂理が失敗すれば日本に大地震が起こるなどと説明され、目標達成が強く求められた。

T-10 同76頁7行目の「信者が」を以下に改める。

第1 伝道活動及び教化活動の意味
1 請求原因第1ないし第3の事実は当事者間に争いがない。また、信者が「請求原因第4及び第5の活動を控訴人の信者一般が行っていたものか,控訴人の信者の一部が任意に組織した連絡協議会ないし信徒会において行っていたものかについては争いがあるが,ほかならぬ統一協会の信者が」、主に若者を対象として請求原因第4のとおりの手順を踏んだ伝道・教化活動を行っていた事実、主に壮婦を対象として請求原因第5のとおりの手順を踏んだ伝道・教化活動を行っていた事実は争いがない。

T−23 同107頁13行目から14行目にかけて,113頁14行目,116頁6行目,137頁23行目,178頁25行目から26行目にかけて,181頁21行目から22行目にかけて,189頁7行目,192頁18行目,199頁24行目,219頁4行目,222頁18行目,226頁3行目及び238頁12行目の各「世界基督教統一神霊協会」をいずれも「世界基督教統一神霊教会」に改める。

【以下、一審判決240頁以降に控訴審判決を組み込む形で掲載。削除又は改められた箇所についてはリンク先を参照又は取消線で対応している箇所あり】

第4章 被告の損害賠償責任
第1 宗教活動の自由の限界
64 同240頁11行目冒頭から242頁20行目末尾までを,次のとおり改める。
「一般に,宗教団体あるいはその信者が,信者でない者を勧誘・教化する行為や,信者を宗教活動に従事させたり,信者に献金や物品の購入等の経済的出損を勧誘したりする行為は,信教の自由により保障された宗教活動であって、社会通念上,その行為が社会的にみて正当な目的に基づくものであり,かつ,その方法及び結果が相当である限り,違法ではない。しかしながら,宗教団体あるいはその信者の行う行為が,利益獲得等の不当な目的に基づく場合,あるいはその方法が,宗教団体であることを殊更に秘して勧誘し,いたずらに害悪を告知して相手方の不安をあおり困惑させるなど,相手方の自由意思を制約する不当なものである場合,さらに,その結果が,相手方の資産等に比して不当に高額な財産の出損をさせる場合など,その目的,方法,結果が社会通念上相当な範囲を超える場合には,もはや正当な行為とはいえず,違法であり,不法行為が成立するというべきである。そこで,以下,統一協会の信者による被控訴人らに対する伝道・教化活動について検討する。」


2 統一協会の伝道・教化活動の特徴
1 第3章において個別に認定したところから明らかなとおり,原告らは,第2章に認定したのと同様の伝道活動を受けて,統一協会の信者となったものである。
 そして,第2章及び第3章に認定したところからみて,原告らに対して行われた伝道活動及び教化活動には,以下のとおりの特徴がある。

2 伝道における宗教性の秘匿
(1) 多くの原告らは,
@ 自己啓発セミナーであると説明を受け(原告■■■■■,原告■■■■,原告■■■■■,原告■■■■,原告■■■■■,原告■■■■、原告■■■■,原告■■■■,原告■■■■,原告■■■■,原告■■■■,原告■■■■,原告■■■■),
A 世界情勢の勉強であると誘われて(原告■■■■,原告■■■■),
B 社会問題を勉強する場所であると説明を受け(原告■■■■,原告■■■■),
C 人生の転換期に差しかかっていて行動次第で運勢が大きく変化する時期だから,運勢を良くするための勉強が必要であると説明され(原告■■■■,原告■■■,原告■■■■),
D カルチャーセンター,
サークル活動の研究発表,教育講座等であるとの趣旨の説明を受け(原告■■■■,原告■■■■,原告■■■■,原告■■■■■),
それぞれ,ビデオセンターでの受講を開始している。
(2) また,他の原告らは,
@ 占い及び家系図の専門家と称する者(信者)から,兄の■■■■■病は先祖の因縁(殺傷因縁)によるもので因縁を断ち切る必要があると説明され(原告■■■■■),
A 占いの専門家と称する者(信者)から,様々な不幸の原因は先相の
悪い因縁によるものであると告げられ(原告■■■■),
B 信者
の知人から誘われて姓名判断を受けたところ,殺傷因縁があると指摘され(原告■■■■■),
C 家系図鑑定士と称する者(信者)から,先祖の悪い因縁を清算する必要があると告げられ(原告■■■■),
D 親族に癌により亡くなった人が多いことを告げると霊的に問題があることが原因であると告げられ(原告■■■■),
D 家系図鑑定士を名乗る女性から,このままでは離婚することになるとか,離婚経験があり若くして亡くなった母親が未だに成仏しておらず助けを求めているなどと言われ(原告■■■■),
E 家系図鑑定の専門家を名乗る人物から因縁と霊界に関する話をされ(原告■■■■),
F 姓名判断の専門家を名乗る信者から,弟が心臓病の手術を受けたことは,先祖が武士であったことによる殺傷因縁が原因であると説明され,交通事故の線が出ているとも指摘され(原告■■■■■),
G 家系図鑑定の専門家を名乗る人物から,幼くして兄弟が亡くなったことや母親が手術をしたことは,いずれも先祖の因縁が原因であると指摘され(原告■■■■■),
H 先祖が真理を勉強させたがっていると説明され(原告■■■■■),
I 姓名判断の結果,家族を救うための勉強が必要であるとされ(原告■■■■),それぞれ,先祖や因縁に関する真理を学ぶ,あるいは,先祖の因縁を清算するための勉強をしたいという気持ちになってビデオセンターでの受講を開始している。
71 同244頁19行目の「その上で」から245頁2行目末尾までを,次のとおり改める。
「ビデオセンターでは,旧約聖書を題材にした講義ビデオや霊界に関する講義ビデオにより,人間が原罪を受け継ぎ堕落した罪深い存在となったことが説明され,また,霊界というものが実在し,先祖の犯した罪が因縁となって現世に生きる子孫に悪影響を及ぼしていることが説明される。そして,実在する害悪(原罪や霊界・因縁)が生じたメカニズムを知り,それに対処する方法を学ぶため,ビデオセンターで勉強を続けるよう勧められる。」


(4) ビデオセンターのスタッフや霊の親は,原告らの家庭環境,性格,悩みや尊重は,問題意識など様々な情報を把握した上で、原告らの情緒と統一原理が共鳴するよう和動していたということができる。
原告らの情緒と統一原理を共鳴させる手段として,統一原理と関係のない運勢鑑定(手相・姓名判断,家系図鑑定)が用いられることもある。そこでは,一信者が運勢鑑定の専門家を装うなどして,原告らの悩み,本人や先祖・家族の病歴その他不幸な出来事を巧みに聞き出した上で,先祖の因縁が根本原因であると説明し,因縁を清算しなければ子孫も不幸になるとして不安を煽り,原告らが,原罪や霊界・因縁が実在すると考えるよう仕向けるのである。
(5) このようにして,原告らをして,統一原理を浸透させるため周到に計画された一連の教育課程を進ませるのであるが,原告らに対しては,教育課程の一定段階(ライフトレーニングの後半)に至るまで,統一協会という名称はおろか宗教の伝道活動であることすら秘匿される。原告らから,宗教活動ではないのかなどと尋ねられた際にも,これを明確に否定し,あるいは巧妙にはぐらかすのである。

72 同245頁19行目冒頭から22行目末尾までを削る。

 そして,宗教性を秘匿するため,宗教団体として世間一般で認知されている「統一協会」という名称は完全に伏せられるし,原告らが近親者や友人から宗教性を示唆される事態を防ぐため,ビデオセンターでの勉強内容を他人に話さないよう言葉巧みに受講生を口止めするものと考えられる。

73 同246頁1行目冒頭から22行目末尾までを削る


(6)
 ライフトレーニングの後半には,受講生が,原罪や霊界・因縁の実在を信じて疑わない状態に達し,それに対処するための答えを望むようになるため,この段階で,初めて,統一協会の名が明らかにされる。
「主の路程」の講義の後に,受講生が信者から「メシアを明かされておめでとう。霊界で先祖たちも大喜びしているよ」と歓迎するのは,受講生が,実在する害悪に対処する答え(文鮮明とつながることで原罪や先祖の因縁が清算できるという答え)を得たことを祝福しているのであるが,受講生も,答えを得て素直に喜ぶから,もはや,宗教団体と知らされないで宗教団体のセミナーを長らく受講していたことに疑問を抱くことができない。
 原告■■■■■は,ライフトレーニングまでの教育が統一協会という宗教団体の活動だったことを知り,嘘をつかれていたことについて抗議しているが,それでも,信者から「宗教であることを事前に告げていたらここまで勉強を続けることはなかったのであるから,統一原理という真理に導くためには最初の段階で宗教であることを隠すのは必要なことである」と説明を受けると,これに納得し,その後,入信している。これは,同原告が,原罪や霊界・因縁の実在そのものは信じて疑っていなかったことを示すものということができる。
(7) 上記のように,統一協会の伝道活動は,原告ら及びその他の受講生が,原罪や霊界・因縁という害悪が実在するとして信じて疑わない状態になるまで,伝道の宗教性を完全に秘匿することに大きな特徴がある。
このような伝道活動で信者となった原告らは,宗教団体の活動であると告げずに,手相判断,姓名判断,先祖の因縁の説明といった手段で新たな信者を獲得することにも全く疑問を抱かない。
 例えば,原告らは,壮婦を対象に手相判断や姓名判断を用いて先祖の因縁を指摘し,因縁を清算する方法を学ぶためと称してビデオセンターを受講させ(原告■■■■■),殺傷因縁があると言ってビデオセンターの受講を決定させ(原告■■■■,資産のある壮婦を対象に,姓名判断を交えながら相手方の悩みを聞き出し,先祖の因縁が原因であるなどと話して家系図の鑑定を行う信者を紹介し,ビデオセンターの受講につなげるという伝道方法を実践し(原告■■■■),手相を見ながら「転換期である」と指摘して伝道活動をし(原告■■■■,原告■■■■■,原告■■■■),壮婦を対象に,姓名判断や家系図鑑定を用いて先祖から続く悪い因縁の存在を指摘し,因縁を清算しなければ悪い出来事が繰り返されるなどと話し,不安を煽って伝道する(原告■■■■■)といった活動を繰り返したのである。

3 入信後の宗教的実践内容の秘匿
(1) 統一協会は,他の宗教と同様,宗教的実践として毎日の祈りを求める。禁欲的生活を求める点では他の宗教よりも厳しいのではないかと思われる。しかし,統一協会は,わが国にみられる他の宗教と大きく異なり,次の@ないしCのとおりの特異な宗教的実践を信者に求める。
@ 心情解放展での「罪の清算」としての多額の献金
前記のとおり,これは,新生トレーニングの時期に,いきなり求められるものであり,信仰を得た直後に,その時点で保有する金銭のすべてを献金するよう求められるのである。
A 実践トレーニング直後からの献身
前記のとおり,統一協会では,信者となって間もなくの時期に献身することを求められる。献身すると,自宅を離れてホームで生活しながら,宗教的実践として伝道活動や経済活動に没頭するようになり,正常な社会生活を送ることがなくなる。また,経済活動の中でもマイクロ活動は肉体的に極めて過酷なものである。
B 公式7年路程と祝福
 前記のとおり,統一協会の信者になると,好きな結婚相手を自分で見付けることができなくなるばかりか,諾否の自由がある見合い結婚とも異なり,文鮮明が指定した相手と合同結婚式で結婚することが求められる。また,祝福に至るまでにも多額の献金や公式7年路程が求められる。
C 様々な経済法動
 前記のとおり,統一協会の信者は,文鮮明が定めた摂理を達成するため,献金及び物品購入並びに他人に対する献金及び物品購入の勧誘など,経済活動を行うことが要求される。しかも,物販活動では,ボランティア活動である等の嘘をついてまで統一協会の資金集めをしようとするのである。
(2) 統一協会の信者は,普通の社会生活を送りつつ,一定年月にわたり信仰を維持・深化させ,その後に,他人に信仰を説いたり他人から浄財を集めるという段階を踏むわけではない。
 統一協会に入信すると,入信後間もない時期から,普通の社会生活を二の次にし,伝道と経済活動に膨大なエネルギーを注ぎ,そのような生活を続けた後に,合同結婚式で結婚するという人生をたどることになる。
(3)第3章において個別に認定したとおり,原告らも同様であって,献身状況等を整理した別表Gのとおり,過半数の原告らは実践トレーニング後,若くして,正常な社会生活を止めて献身者となり,その多くは過酷なマイクロ活動に従事している。
 原告ら(合計40名)と近親者原告ら(合計23名)が,本件において,教育関係費,献金及び物品購入費として拠出した金銭の合計は実に1億6000万円を超えている。この金額は,信者であった原告ら40名の頭数で除すると一人当たり約400万円に達する。原告らの入信年齢が比較的若く,最初の勧誘から脱会まで6ないし7年程度しかないことに照らせば,この金額は異常に高額なものといわざるをえない。
 また,原告らは,次の第3においてみるとおり,客観的にみれば,いわゆる霊感商法の被害者あるいは加害者となり,異常としか言いようのない統一協会の経済活動にのめり込んでいるのである。
(4)ところが,伝道の段階では,宗教性が秘匿されている時点においてはもちろんのこと,宗教性を朋らかにした時点においてさえ,上記のような宗教的実践が求められることが秘匿されている。
 ライフトレーニングの後半ではメシアが文鮮明であると明かされ,原告らは,信仰を得て,文鮮明の教えに従って一定の修練・鍛錬を積み,原罪や霊界・因縁という実在する害悪に対処するため信者になろうと思ったはずであるが,多額の献金や経済活動,合同結婚式といったことが要求されることになるとは分からなかったはずである。
 教化活動として27日間の長期にわたる合宿形式で行われる新生トレーニングの後半(心情解放展)において,原告らは,初めて,罪の清算として多額の献金が必要であると教えられ,さらに,その後の教化活動として行われる実践トレーニングにおいて,原告らは,初めて、祝福や公式7年路程が必要であると教えられるのである。
(5) 特異な宗教的実践(自分の人生と財産を差し出し,経済活動に従事することが要求されると予め分かっていたなら,多くの人は,その信仰を得ることに疑いを抱くであろうし,伝道は功を奏さないことが多いと思われる。
 逆にいうと,できるだけ多くの人に特異な宗教的実践をさせようとすれば,その内容は,後戻りできない状態の信仰が植え付けられた段階まで秘匿する必要がある。統一協会の信者が行う伝道・教化活動は,信仰を得ることによる内面的救済が主目的ではなく,できるだけ多くの人に特異な宗教的実践をさせることが主目的となっているが故に,その内容が秘匿されるものと解される。
 このことは,宗教性の秘匿と同様,あるいはそれ以上に,不公正である。

4 教化活動における隔離
(1) 信仰を得させるという伝道活動は,倫理観・価値観の転換を促すということであり,信者になった者の信仰を深めさせるという教化活動は,転換した倫理観・価値観を固定化するということである。
(2) 統一協会の場合,伝道活動とは,信者でない者の倫理襯・価値観を転換させ,全ての人間は原罪及び先祖の因縁(遺伝罪)を受け継いでおり,それら罪を清算することができるのは文鮮明だけであり,人類の救済活動として地上天国の完成を目指す文鮮明に金銭を届けることが罪の清算につながるとい倫理観・価値観を植え付けることであり,教化活動とは,その倫理観・価値観を固定化することである。
(3)もともと,人間の倫理観や価値観は,幼少時には家庭内で家族から影響を受け,その後,学校生活や社会生活を経験し,自分が属する共同体からの影響を受けながら形成される。倫理観や価値観は,説諭の言葉や文字を理解して論理的に身に付くというよりも,むしろ,家族,教師,友人から,叱られたりほめられたり,家族,教師,友人が喜んだり悲しんだりする姿を見るなど,感情を伴った出来事が繰り返し記憶され,それら出来事が意識されることのない記憶として定着することによって形成されるものと考えられる。感情の共有(共感)を抜きにして倫理観・価値観が形成されるとは考えられないのである。
 したがって,統一協会の信仰としての倫理観・価値観を植え付けた後,それが揺るがないようにするためには,信者が信者以外の者と感情を共有しないように仕向けるのが効果的である。特に,信者と感情を強く共有する家族は,統一協会の倫理観・価値観を揺るがせることができる大きな存在であるから,家族と感情を共有しないよう仕向けることが最も効果的である。

(4)統一協会においては,教化活動の一環とし,原告ら全員に対し,家族は,サタンとつながっており,サタンの支配下にあるため,信者を「拉致監禁」して無理矢理に棄教を迫る存在であると教え込み,そう信じ込ませていた。そして,次の@ないしFの原告らについては,家族が脱会を説得するのではないかと危惧された結果,周囲の信者は,原告らと家族との交流を遮断するため,原告らに身を隠させ,「対策」と称して,家族が原告らに接触できないようにした。「対策」のためなら,勤務先を強制的に退職させることも全く躊躇されない。
@ 原告■■■■■は,家族に「拉致監禁」される恐れがあるとして,平成5年3月以降,居場所を転々と移した。
A 原告■■■■は,知人の■■■■が脱会したことから,近く「拉致監禁」により棄教を強いられる恐れがあるとして,勤めている会社を退職して献身するよう指示され,指示に従って勤務先を退職し献身者となった。
B 原告■■■■■は,平成2年12月,統一協会の指示により,
勤務先を無断欠勤した上で退職し,平成3年1月,家族に知らせずに自宅のあった札幌から出奔して稚内に移り,勤務先を無断欠勤した上で退職してしまい,その後,各地を転々としていた。
C その姉である原告■■■■も,平成3年1月,家族に知らせずに自宅のあった札幌から出奔して稚内に移り,その後,各地を転々としていた。
D 原告■■■■は,平成9年3月,韓国人相対者と暮らすため渡韓しようとする直前に家族に保護されたが,家族はサタンとつながっており,信者を「拉致監禁」して無理矢理に棄教させられると教え込まれていたため,大きな恐怖を感じ,家族の元から逃げ出して身を隠し,その後,平成9年11月ころに渡韓した。
E 原告■■■■は,近親者が保護する準備をしているとの情報が入ったことから,伝道活動を止め,平成9年3月以降,信者が営む植木屋でアルバイトをして身を隠していた。
F 原告■■■■は,昭和63年2月ころ,母親が心配して東京まで会いに来たが,「拉致監禁」を避けるため,隙を見てその場から逃げ出し,それ以降,統一協会の方針により,家族には居場所を知らせずに「■■■■」という偽名を使って生活するようになり,外出も自由にできなくなったため,勤めていた会社を退職した。
(5)統一協会が求める宗教的実践は,人生と財産を差し出し,経済活動に従事するという非常に特異なものである。何の拘束もなければ,隷属を嫌う人間の本質からみて,普通の人は,このような宗教的実践に疑問を感じ,それから逃れようとするはずである。それが分かっているから,統一協会においては,信者が特異な宗教的実践から逃れようとすることを阻止するため,教化活動において,心理的及び物理的に社会から信者を隔離しようとするものと考えざるをえない。
5 実践の不足が信仰の怠りであるとする教化活動
(1)前記第1章ないし第3章の事実認定から明らかなとおり,原告らは,伝道を受けて入信した後,いずれも,再臨の救世主である文鮮明と同じ時期に自分が生きていることは奇跡であり,真理である統一原理を知った自分は選ばれた存在であるという使命感を持つようになり,たとえ,真理を知らない家族や知人の理解が得られなくとも,神と文鮮明のために尽くすことこそあるべき生き方であると感じるようになっている。
 原告■■■■■や原告■■■■■に至っては,文鮮明が再臨の救世主であるとの教義にさほど惹かれなかったにもかかわらず,霊界や因縁に関する教義に強く拘束され,自分が先祖の因縁を清算しなければならないという使命感は確信するようになり,先祖の救いのためと思って献金や物品購入をしていたのである。
(2)その使命感は,万物復帰と罪の清算(自分の原罪及び先祖の因縁を清算する使命を実践する使命感である。その使命の実践は,結局,伝道と集金によって行われる。
(3)伝道や集金が目標に達しない場合,信仰が足りない(信仰の怠りがある)とされ,原告らは,使命を果たしていないと感じるよう教化される。原告らは,自分が使命を果たさない場合,自分自身はもとより家族や先祖も救われないことになると教え込まれていたため,伝道や集金が思うようにできないことは,原告らにとって不安や恐怖をもたらすことになる。
 この不安や恐怖が,さらに伝道や集金の動機付けとなっていることも明らかである。

第3 統一協会の経済活動の特徴
1 信者以外の者にも多額の金銭を拠出させること
78 同254頁2行目の「統一協会」から7行目末尾までを,次のとおり改める。
「統一協会の伝道活動においては,先祖の罪は因縁として子孫に受け継がれると説明されている。先祖の全てが何らの罪も犯していない人がいるとは通常考えられないから,人は全て因縁を背負っており,その因縁を清算しなければ救済されないことになる。」

(2)そのことから,信者は,信者でない者に金銭を拠出させることも,結局,その者の救済になると信じており,原告らも全員がそう確信していた。
 その確信が,信者以外の者に対しても献金や物品購入を勧誘する原動力となる。
その際,因縁を説くことは統一協会の教義に照らせば何ら奇異なことではないのである。
(3)いわゆる霊感商法は,裁判例によって違法行為であると認定され,昭和62年ごろ以降,社会問題としては下火になっているが,因縁を説いて金銭を拠出させる行為が宗教的実践として行われる以上,これが容易にすたれるということはない。
 実際にも,原告らは,宗教的実践として,家系図を用いて因縁を指摘し壮婦に献金させるといった活動をしたり(原告■■■■■),戸別訪問をして姓名判断や手相判断を行い,殺傷因縁等を指摘して相手方の不安を煽った上で,その不安を取り除くためとして印章や念珠を販売し(原告■■■■),壮婦を主な対象として戸別訪問し,子孫に苦労をさせないためとして家系図の鑑定を勧めて鑑定後に献金をさせ(原告■■■■),家系図鑑定を用いて因縁の話をし,その因縁を清算する方法として物品を買わせる(原告■■■■,原告■■■)などしている。

2 性急で過剰な金銭拠出が躊躇されないこと
(1) 金銭を拠出させることが宗教的実践(救済)であるとすれば,拠出は早ければ早いほど良く,拠出させる金銭は多ければ多いほど良いということになる。統一協会の信者は,他人に金銭の拠出を求める場合,相手方が蓄えを失って困るのではないかとの配慮をしない。
 原告らについてみても,次のとおり,入信前の段階で,信者から多額の金銭の拠出を強く迫られ,罪の清算のためとして多額の拠出をしている。
@ 原告■■■■■は,ビデオセンターに通っていた際,「ハンヨウ先生」と呼ばれる人物から,兄が同原告の身代わりに亡くなったこと,兄も祖父も地獄で苦しんでいること,霊界で苦しんでいる先祖を救うためには,すぐに用意できる金銭を全て差し出して念珠などの購入に充てる必要があることを告げられ,昭和62年10月及び11月,合計1100万円もの代金を拠出して念珠や弥勒菩薩像を購入したほか,その翌月の12月には300万円もの献金をしており,実に,入信前に1400万円の大金を統一協会に納金した。
A 原告■■■■■の母親(亡■■■■)は,信者ではないが,昭和63年4月(原告■■■■■入信後1年余りが経過した時期)に,悪い因縁の家系を救うためとして500万円もの大金を統一協会に献金した。
B 原告■■■■は,
入信前の昭和63年11月(上級トレーニング中),悪い因縁を断ち切り,罪を清算するためとして,400万円を献金した。
C 原告■■■■は,入信前の平成元年2月(上級トレーニング中),355万円もの大金を罪の清算として献金した。
D 原告■■■■■は,平成4年1月ころ,因縁を持ち出して未亡人の初老の壮婦に献金を勧め,その壮婦の老後の蓄えから300万円もの献金をさせた。
D
 原告■■■■は,入信直前の平成4年12月ころ(ファイブデイズセミナーのころ),霊能者だと名乗る女性から,全てを捧げて先祖の悪い因縁を清算する必要があるといった説明をされ,恐ろしくなり,定期預金を解約して224万円を献金した。

3 嘘をついて物品を販売すること
 従前の裁判例でも,マイクロ活動等の経済活動において,統一協会の資金集めであるとは言わずに物品販売が行われていたと認定されているが,本件の原告らも同様の活動をしている。
原告■■■■■や原告■■■■は,会社の研修であると嘘をついてマイクロ活動として珍味を販売していたし,原告■■■■■は,統一協会という名前は出さないよう指示されて訪問販売し,病院を訪問する場合には,病院の許可は取らずに病室に入って販売活動をし,許可があるのか開かれたら「許可されている」と嘘をつくようにと指示されていた。
 原告■■■■や原告■■■■は,学費を稼ぐためのアルバイトであると嘘をついてマイクロ活動をしていたし,多数の原告らが,慈善活動であると嘘をついて募金活動やマイクロ隊での物販をしていた(原告■■■■,原告■■■■,原告■■■■,原告■■■■,原告■■■■,原告■■■■,原告■■■■,
原告■■■■,原告■■■■)。
 マイクロ活動などの訪問販売活動や募金活動において,統一協会の資金集めという目的を隠すことは,販売実績や募金実績を上げるために必要なこととして,組織的に行われているとみられる。このよう販売活動や募金実績は,詐欺的な行為であるが,原告らは,万物復帰の教えの実践として販売活動を行う以上,嘘をついてでも多額の実績を上げることの方が,嘘を躊躇することよりも重要であるとの宗教的確信に基づき行動していたものと考えられる。

第4 統一協会の信者の伝道・教化活動
の違法性
87 同256頁23行目冒頭から258頁15行目末尾までを削る。

 統一協会の信者による伝道活動について
(1)既に見たとおり,統一協会の信者が原告らに対し組織的に行った一連の伝道活動は,宗教性を秘匿しながら,手相,家系図,姓名判断などの運勢鑑定を用いたり,霊界や因縁を語って恐怖心を煽ることをも厭わないで,原罪や霊界・因縁が実在する
害悪であり,統一原理が教義ではなく真理である害悪であると信じ込ませる手法で行われている。
(2)また,入信後は,人生と財産を差し出し,経済活動に従事するとの特異な宗教的実践が求められ,多額の集金に成功することが信仰の証しであるとされる組織体系に組み入れられることになるが,原告らに対しては,そのことを知らせないで,とにかく統一協会の信仰を持つよう伝道がされた。
(3)前記第1章及び第3章の事実認定からも明らかなとおり,統一協会の信者が原告らに行わせたマイクロ活動は,客観的にみれば,労働基準法を無視した過酷な労働環境の下,虚偽の事実を告げて物品を販売するというものである。さらに,前記第3に説示のとおり,統一協会の信者が求める金銭の拠出は,性急かつ過剰であり,相手方の経済状啓を考慮しないという意味で情け容赦がない。マイクロ活動に従事させたり性急かつ過剰な金銭拠出を求める行為は,経済的収奪と言い得るものである。
(4)結局,統一協会の宗教的実践とは,多額の集金が信仰の証しであるとされ,自分自身も経済的収奪を受ける組織体系に組み込まれることを意味するが,原告らは,そのような組織体系に組み入れられることを全く知らされないで信仰を植え付けられ,そのような組織体系に組み入れられることを拒絶することができなかったのである。
(5)被告は,伝道の過程において,いつどのような態様で伝道内容が宗教であることを明かすかは,信教の自由の一内容として,宗教団体が自由に決めて良いのであり,偏見を持たずに統一原理を一通り学んでもらった上で信仰を受け入れるかどうか判断してもらう必要があったから,宗教性を明らかにしないで伝道することも許される旨を主張する。しかし,
既にみたとおり,宗教性を秘匿して人に信仰を植え付ける行為は,自由な選択に基づかない隷属を招くおそれが強い。「統一協会による伝道が善意の下に行われているとすれば,そもそも,その教義を秘匿すべき必要性や合理性はないはずである。しかも,前記認定のとおり,統一協会による伝道は、単に宗教の伝道であることを消極的に秘匿するだけではなく,被控訴人らから,宗教活動ではないのかなどと尋ねられた際には,これを明確に否定し,あるいは巧妙にはぐらかすのであり,かかる態様の伝道が許されるものということはできない。」
 特に,統一協会の場合,入信後の宗教的活動が極めて特異で収奪的なものであるから,宗教性の秘匿は許容し難いといわざるをえない。

 統一協会の信者による教化活動について(1)既にみたとおり,統一協会の信者は,教化活動の様々な場面において,原告らに対し,心理的に,家族や友人・知人との接触を怖れるよう仕向け,必要とあれば「対策」と称して,物理的にも,家族や友人・知人との接触を妨げ,原告らが信者以外の者と感情を共有することを禁じている。心理的に家族との接触を怖れるよう仕向ける方法は,恐怖心を利用したものである、原告らは,先祖の因縁を清算する使命があり,その使命を果たさなければ先祖も現世の家族も苦しみ続けると教えられるが,現世の家族はサタンとつながっている(サタンの支配下にある)ため原告らを棄教させようと企てていると教えられるから,結局,家族との交流を保って棄教させせられると使命が果たせず,先祖も現世の家族も苦しみ続けるとの恐怖心が生じ,家族との健全な交流が断絶させられる結果,情緒の形成が歪められ,信仰を持ち続けるように仕向けられるのである。
(2)また,原告らは,献金や物品購入による金銭拠出の不足が信仰の怠りにつながり,救済(先祖,自分自身及び現世の家族の罪の清算)の否定につながるとする教化活動を継続的に受けていたことが明らかである。原告らは,救済の否定という不安や恐怖に煽られ,献金や物品購入の目標額に不足が生じないよう,自分自身の貴重な蓄えを取り崩したり,嘘をついて家族の蓄えを取り崩させたり,嘘をついて他人に物品販売をしたり,高利金融業者から金を借りるなどしているのである。

 まとめ
 以上のとおりであって,統一協会の信者が原告らに対して行った伝道活動は,宗教性や入信後の実践内容を秘匿して行われたもので,自由意思を歪めて信仰への隷属に導く不正なものであるし,統一協会の信者が原告等に対して行った教化活動は,家族等との交流を断絶させ,金銭拠出の不足が信仰の怠りであり救済の否定につながると教えて信仰を維持させ,特異な宗教的実践を継続させようとする不正なものである。
 そして,前記第2においてみたとおり,これら不公正な伝道・教化活動は,原告らに財産を差し出させ,原告らを集金活動に従事させるという特異な宗教的実践を強制するものであり,客観的にみれば,統一協会が経済的利益を獲得する目的で行われたといわざるをえない。原告らに対する伝道・教化活動と同様の手法で,経済取引の勧誘が行われたとすれば,そのような勧誘はわが国の法律では取締りの対象とさえなるのである。
 したがって,統一協会の信者が原告らに対して行った伝道・教化活動は,社会的相当性の範囲から著しく逸脱する民事上違法な行為であるといわなければならない。

第5 統一協会の
原告ら事件被控訴人らに対する損害賠償責任
1 民法715条による損害賠償責任の存在
(1)前記のとおり,統一協会の信者が原告らに対して行った伝道・教化活動は,社会的相当性の範囲を著しく逸脱する違法なものであり,民法709条所定の不法行為を構成するといわざるをえない。
 そして,信者の不法行為は,統一協会の宗教教義の実践として行われたことが明らかであるから,被告は,民法715条に基づき,信者の不法行為によって原告ら事件被控訴人ら
及び近親者原告らに生じた損害を賠償すべき責任を負う。
(2)被告は,宗教活動は民法715条1項にいう「事業」に該当しないとか,被告の規則に規定されていない活動について事業執行性を認めることはできないなどと主張する。しかし,使用者責任は,被用者を使用することで活動範囲を広げて利益を得ている以上,その活動により生じた損害にも民事責任を持つべきであるという報償責任原理,あるいは,他人を使用することで新たな危険を作出している以上,その危険が実現化して生じた損害についても民事責任を負うべきであるという危険責任原理に由来するものである。報償責任原理及び危険責任原理のいずれに照らしても宗教活動が「事業」から除外されると解すべき理由はなく,被告が,信者の不法行為について民法715条所定の使用者責任を免れる理由はない。
(3)原告ら
及び近親者原告らが賠償を受くべき損害は,違法な伝道・教化活動によって拠出を余儀なくされた教育入教関係費,物品購入費,献金関係費といった財産的損害(被害表1ないし3の損害),違法な伝道・教化活動によって献身するよう仕向けられ,家族や社会から隔離された生活を余儀なくされ,あるいは肉体的に極めて過酷なマイクロ活動に従事させられたことによって原告らに生じた肉体的・精神的苦痛(非財産的損害)である。

2 原告らの金銭拠出と相当因果関係
(1)原告らの金銭の拠出は,個々の拠出の場面だけを切り取って観察すれば,自発的に行われているが,違法な伝道・教化活動がされなければ原告らが被害表1ないし3
(第3で認定した金額)の拠出をしなかったであろうと推認することができるから,これら金銭の拠出は信者の不法行為と相当因果関係に立つ損害ということができる。「控訴人は,入教関係費のうち,被控訴人■■■■,同■■■■及び同■■■■の入教費,入居費及びホーム費は,家賃・水道光熱費及び食費等に充当される実費であり,一般に生活していても同額程度の実費はかかるから,それを損害ということはできない旨主張するが,ホーム等は,統一協会が統一協会員を親等から切り離して,信仰を不当に維持させるための施設であり,違法な教化活動のためのものであるから,そこに入居するために支出した各費用は,信者の不法行為と相当因果関係があるというべきである(なお,ホーム等の上記機能に照らすと,一般に生活していてもかかる費用について,損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として損害賠償額から控除することもできないというべきである。)。」以下,若干の個別的な検討を行う。
(2)原告■■■■は,第3章に認定のとおり,原告らの中で唯一,最初に勧誘された時点で統一協会の伝道活動であることを認識しており,統一協会に対する批判的な目線を持ちながらも納得の上で統一原理の信仰を持つに至り,昭和57年8月以降いったん原理研究会から離れたが再度復帰したものである。このような同原告の入信経過に照らせば,信者が伝道活動によって同原告に統一協会の信仰を得させたこと自体を違法行為と評価することは困難である。したがって,同原告が拠出した
教育入教関係費,献金関係費及び物品購入費は,それらの拠出が宗教性を秘匿した伝道活動とは別の違法行為による損害と認められない限りは,違法行為により被った損害ということはできない。
 そこで検討すると,同原告。)金銭拠出のうち,被害表2の番号6及び7の合計225万円については,拠出当時の同原告の生活状況に照らせば,金銭拠出の不足が信仰の怠りであるとの教化活動に影響されてのものと認めることができるから,違法な教化活動による損害ということができるが,それ以外の拠出については,不法行為による損害と認めることはできない。
(3)原告■■■■は,第3章において認定したとおり,原理研究会での活動を続けるため学生を続けるよう先輩信者から言われ,在籍していた短期大学に編入することを決め,父親である亡■■■■がその編入費用を支払ったのである。
 原告■■■■は,違法な伝道活動によって信仰を受け入れ,その信仰の影響下で上記編入に至ったものであり,上記編入に要した学費は,違法な伝道活動による損害というべきである。
(3)原告■■■■■の被害表2の番号9記載の祝福感謝献金のうち20万円については,祝福の相対者である男性が拠出したものであるから,同原告の損害とは認められない。
(4)原告■■■■■の被害表3の番号1記載の物品購入費22万2680円及び原告■■■■の被害表3の番号1記載の物品購入費10万円については,同原告らがビデオセンターに誘われる前に拠出したものである。原告■■■■■の被害表3の番号1記載の物品購入費40万円についても,同原告が入信する前に,健康によいという理由で高麗人参茶を購入したものである。
 また,原告■■■■の被害表3の番号5の物品購入費49万4400円については,同原告は既に統一協会の活動から離れていた時期のものであって,原告■■■■に申し訳ないという気持ちから拠出されたものである。
 これらは,いずれも,原告らの自由な意思決定に基づく拠出であるから,違法な伝道活動による損害とは認められない。
101 同263頁17行目冒頭から264頁25行目末尾までを削る。
 献身損害について
(1)原告らは,実際に献身をした者について,献身しなければ得られたはずの賃金相当額として貸金センサスをもとに算出した逸失利益(献身損害)が損害であると主張し,その賠償請求を求めているので,その主張について検討する。
(2)献身をした原告らは,信者の違法な伝道・教化活動により,自由な意思決定によらずに統一協会の信仰を持ち,その信仰から抜け出ることができず,その結果,一般社会に出ることなく献身するに至り,あるいは,勤務先を退職して献身することを選択したのである。そして,献身した原告らは,献身期間中,ホームにおいて信仰中心の極めて禁欲的な生活を送り,毎月の達成目標に向けて過酷な無償労働(伝道活動,経済活動)に従事し,棄教の罪深さや先祖の因縁に対する恐怖心も相俟って,献身を止めて一般社会で働くという行動に出ることが精神的に困難な状況に追いやられていたということができる。
(3)しかし,献身した原告らは,信者の不法行為によって意思決定の自由を侵害されたのであり,労働能力を侵害されたわけでも,一般社会で働くことが物理的に不可能な状態に置かれたというわけでもない。
 賃金センサスによる逸失利益の認定は,死傷による労働能力の喪失という事態が生じた場合の逸失利益の認定手法として,わが国の裁判実務で定着してはいるが、死傷によらないで正常な労働が阻害された事態にも通用するものかどうかは疑問である。
 献身によって正常な労働が妨げられ,正常な労働ができたなら得られたはずの収入を失ったとして逸失利益を認定する場合には,やはり,献身がなければ得られたであろう収入がどの程度であったのかを個別的に考え,その収入との対比で逸失利益を認定するしかないものと思われる。ところが,献身した原告らについて,その献身前の就労状況,献身期間中の年齢,学歴などから,献身期間中,少なくともこれだけの収入が得られたはずであるとの事実認定は極めて困難であり,結局,献身によって生じた財産的損害としての逸失利益を一定金額をもって認定することは不可能であるといわざるをえない。
(4)したがって,献身によって正常な家庭生活や社会生活を送ることができず,あるいは身体的に過酷なマイクロ活動に従事させられたことによって生じた損害は,精神的苦痛あるいは肉体的苦痛として,慰籍料によって償われる損
害とするのが相当である。

 慰籍料について
(1)原告らは,統一協会の信者による違法な伝道・教化活動の結果,自由な意思決定によらないで統一協会の信仰を持つに至り,教義の実践のためだと信じ,献金や物品購入を通じて多額の金銭を拠出させられたばかりか,宗教教義の実践として,近親者や友人に統一協会が推奨する物品を購入させるとともに,伝道活動により同種の被害者となりうる信者を再生産させられ,その過程で,私生活を犠牲にし,近親者や友人との関係をも損なったのである。
(2)また,献身をした原告らは,心身ともに過酷で無償の伝道活動や経済活動に従事して貴重な時間を費やすことも余儀なくされ,正常な社会との関わりを失うに至ったのである。
(3)合同結婚式に参加した原告らは,自由な意思によらないし、結婚を余儀なくされたし,原告■■■■■,原告■■■■及び原告■■■■は,実際に,慣れない韓国での家庭生活で辛酸を舐めながらも,文鮮明が選んだ理想の相手であるという理由で,意に沿わない結婚生活から抜け出ることができなかったのである。
(4)原告らは,それぞれに事情は異なるものの,いずれも,違法な伝道・教化活動に囚われ,財産的損害のてん補だけでは償えない深刻な精神的・肉体的苦痛を受けたことが明らかであり,その苦痛は慰藉料をもって償われるべきである。
(5)原告■■■■については,前記2(2)に認定のとおり,入信したこと自体を違法行為に基づくものと認めることはできないが,入信後に献身を求められることや,原罪を清算する唯一の方法が祝福であるとの理由で自由な意思によらない結婚を余儀なくされることを告げられた上で入信したものとは認められない。したがって,同原告は,献身者として活動し,あるいは合同結婚式に参加したことによって,財産的損害のてん補では償えない精神的・肉体的苦痛を受けたと認めるべきであるから,その限度で,他の原告らと同様に慰籍料・を認めるべきである。
(6)原告らが被った苦痛を慰藉するための慰藉料については,次のとおり,入信期間等の長さに応じて一定額の金額を定めた上(1か月に満たない月も1か月として期間を計算),特に深甚な苦痛を受けたとみられる原告らについては個別に加算して金額を定めるのが相当である。
@ 入信期間1か月当たり1万円を基礎とし(ただし,原告■■■■については入信期間は考慮しないこととし,原告■■■■については,その入信経過から,平成6年3月までを慰藉料を認めるべき入信期間とした。
A 献身期間については1か月当たり3万円を加算し,
B マイクロ活動に従事した原告らについては従事期間1か月当たり4万円を加算し(ただし、原告■■■■については考慮しない。)
C 過酷な海外宣教活動に従事していた原告ら(原告■■■■,同■■■■,同■■■■■,同■■■■)ついては従事期間1か月当たり5万円を加算
D 宗教教義の実践として本意でない入籍を余儀なくされた原告ら(原告■■■■■,同■■■■,同■■■■,同■■■■■,同■■■■,同■■■■,同■■■■■,同■■■■,同■■■■■,同■■■■,同■■■■)については,その事情を考慮して加算し,
E 実際に「対策」と称して社会から身を隠して逃亡生活を余儀なくされた、原告ら(原告■■■■■,同■■■■、同■■■■,同■■■■■,同■■■■,同■■■■)については,その事情を考慮して加算し,
F 宗教的実践の過程で病気や怪我をし,特に苦痛を受けた原告ら(原告■■■■■,同■■■■,同■■■■,同■■■■■)については,その事情を考慮して加算し、
祝福を受けた後,実際に相対者と同居しての家庭生活で辛酸を舐めた原告ら(原告■■■■■,同■■■■,同■■■■)については,その事情を考慮して加算し,原告らそれぞれにつき、別表Gの「慰籍料」欄に記載のとおり,支払われるべき慰籍料を定めるのが相当である。

 弁護士費用について
原告ら
及び近親者原告ら全員について損害額の1割を信者の不法行為と相当因果関係に立つ損害と認めるのが相当である。

106 同268頁14行目の次に行を改めて,次のとおり加える。
6 統一協会の近親者被控訴人らに対する損害賠償責任
 近親者被控訴人らは,悪い因縁の家系を救うためなどとして献金をしたり,被控訴人■■■■が原理研での活動を継続するために統一協会の指示で短期大学の別の学科に再入学したことによりかかった卒業までの学費を支払ったりし,また,被控訴人らに買い与えるため,あるいは自ら又は被控訴人ら以外の第三者のために物品を購入したものである。
 事件被控訴人らは,近親者被控訴人らに対する物品販売活動等は,近親者被控訴人らの財産を収奪するとともに,あわよくば,それをきっかけに統一協会の教育課程に引き入れ,更なる財産の収奪と無償労役の享受,被害者の再生産を行うという不当な目的の下,統一協会の活動であることを秘匿しつつ組織的,目的的,体系的に行われる経済活動であって,宗教法人法6条2項にも違反しており,その手段は相当性を逸脱しているから,統一協会の信者らが,被控訴人らを指導し,あるいは自らが行動して,近親者被控訴人らに物品購入あるいは献金をさせたことは,近親者被控訴人らに対する不法行為を構成する旨、また,統一協会の信者が被控訴人らに対し違法な伝道・教化活動を行った結果,被控訴人らがした物品販売活動等によって近親者被控訴人らが出捐を余儀なくさせられたから,控訴人が近親者被控訴人らに生じた損害をも賠償すべき責任を負う旨主張する。
 しかしながら,統一協会の信者は,被控訴人らに対する場合とは異なり,近親者被控訴人らに対して前記認定の伝道・教化活動等を行っているものではなく,したがって,その自由な意思決定を阻害し,罪の清算や万物復帰の実践のために,献金をしたり,費用を支払ったり,物品を購入したりするという心理状態にさせた上で上記献金等をさせたものとは認められないのであって,統一協会の信者による近親者被控訴人らに対する上記献金等の勧誘等が社会通念上相当な範囲を超えた違法行為であるということはできない(なお,仮に統一協会の信者の行為が宗教法人法6条2項に違反することがあるとしても,そのことが直ちに物品購入等の相手方に対する不法行為となるものでもない。)。したがって,近親者被控訴人らとの関係においては,統一協会の信者に不法行為が成立するということはできない。
 また,統一協会の信者が被控訴人らに対し違法な伝道・教化活動等を行ったことと近親者被控訴人らの上記献金等の間に因果関係(条件関係)が認められるとしても,そのこと故に近親者被控訴人らとの関係において統一協会の信者に不法行為が成立するといえないことは明らかである。
 なお本件において主張はないが,近親者被控訴人らの上記献金等について,統一協会の信者の被控訴人らに対する不法行為による被控訴人らの損害とみる余地がないかを検討してみても,上記のとおり,近親者被控訴人らの自由意思が介在している以上,統一協会の信者の被控訴人らに対する不法行為と上記献金等との間に相当因果関係を認めることはできない。

7 まとめ
 以上に説示の原告ら
及び近親者原告らが賠償を受くべき損害を整理すると,
別表G本判決別表Gのとおりとなる。

第6 伝道・教化活動の活動主体に関する被告の主張について
1 連絡協議会及び信徒会について
(1)被告は,ビデオセンターでの伝道活動を含め,これまで認定判断してきた信者による伝道・教化活動,原告らを含む信者が行っていた経済活動は一部の信者による任意の信徒団体(連絡協議会又は信徒会)が行っていた活動であって,統一協会は一切関与していないし,統一協会には献身制度はなく,原告らは信徒団体に献身していたにすぎないと主張するので,この主張について検討する。
(2)連絡協議会又は信徒会が被告とは別個独立の信徒団体であったとすれば,その信徒団体は極めて多数の信者により構成され,全国で活動していたはずであるから,団体の運営に関する基本的な事項を定めた規約が存在するはずであり,連絡協議会の収支を示す書類なども当然作成されていたはずであるが,そのような資料は,一切,被告から提出されていない。また,経済活動については,売上目標が毎月設定され,目標達成が非常に重視されており,その売上目標はかなり高額であったにもかかわらず(例えば,甲第98及び第104号証によれば,旭川支部のある月の目標は,経済活動全体で1500万円であったことが認められる。),連絡協議会と信徒会はいずれも,それらの収支に関して税務申告を行っていなかった(その事実は証人■■■■及び証人北村公樹の各証言から明らかである。)。
(3)さらに,連絡協議会の北海道ブロック岩見沢地区の活動拠点の建物(名称は「アイカム」)の賃借人が「婦人サークル
教会協会連合会」という団体であり(乙11,乙13の1,証人■■■■の証言),連絡協議会の北海道ブロック旭川地区の出発決断式の主宰団体が「統一運動推進連合協議会(ときわの会)」という団体とされており(甲137)、連絡協議会が活動主体として対外的に表示されるのが自然であると考えられる場面において,実体不明の団体名が主体として現れている。
(4) 横浜信徒会の代表者であったという証人■■■■は,乙第9号証及び証人尋問において,横浜における連絡協議会及び信徒会の活動をまとめた冊子として「神奈川統一運動史(甲40)を作成し,平成19年3月に完成させたと供述する。
 しかし,同冊子には,被告と連絡協議会・信徒会各々の部署や構成員が混在して記載されており,むしろ両者が同一組織であることを推認させる内容となっている。すなわち,同冊子には,信徒会とされる組織が「横浜教会」や「横浜西教会」などと表記され,「横浜教会」の部署として,信徒会の部署とされる教育部,実践部などが挙げられている上,「横浜教会」の一部署という位置づけで,被告の公認教会である横浜教会が「教会」として記載されている(甲40の81ないし88頁)。他方で,連絡協議会・信徒会の組織を記載するのであれば一部署として記載されるべきビデオセンターが「友好団体」とされている(甲40の89頁)。
 また,被告歴代会長,横浜を管轄するリージョンの歴代会長,教区の歴代リーダーという被告の幹部が掲載されたすぐ後に,「歴代信徒代表」として■■■■を始めとする連絡協議会又は信徒会の責任者が掲載されている上,教区歴代リーダーとして掲載されている7名のうち2名は,連絡協議会の幹部とされる人物である(甲40の30ないし32頁)。
 「横浜教会年表」と題する年表の中には,連絡協議会又は信徒会の役職とされる信徒代表などの人事と,被告の役職とされる教区長の人事が区別なく記載されている上,連絡協議会が発足したとされる昭和57年の前年の欄に,連絡協議会の役職とされるブロック長の人事が記載されている(甲40の58ないし70頁)、さらに,被告の職員である高橋康二中央神奈川教区長が巻頭言を述べているが,その内容は,別組織である信徒会の運動史完成を祝うものと理解するのが困難であり,むしろ,被告中央神奈川教区が主導して同冊子を作成したというものとなっている。そして,そのことを裏付けるように,同冊子に掲載されたメッセージの中に「発行に際し,企画主管された高橋教区長」とか「第二地区,中央神奈川教区として統で運動史を発刊することができた恵みを感謝申し上げます」という記載がある(甲40の35,97頁)。
(5)入信した原告らは,例外なく,自分の活動は,連絡協議会や信徒会としての活動ではなく,統一協会の宗教教義の実践であったと供述している,それだけではなく,現在も信者として活動している被告側の証人らも,自身の所属する団体の正式名称を長らく知らずにいたと証言しており(例えば,証人■■■■は,昭和60年に献身者となったが,連絡協議会という名称を知ったのは今から約10年前であると証言している。),自分が献身して活動する団体の正式名称を知らないというのは余りにも不自然である。
(6)伝道活動や経済活動の出発決断式には,会長を始めとする被告の幹部や教会長などがたびたび出席しており(甲137ないし139,甲リ50,証人■■■など),被告の会長(当時)が自ら経済活動の目標金額を提示したことが認められるほか(甲220),連絡協議会の役職であるはずの管区長が文鮮明に直接会うこともあり,信者は,そのことを根拠に史上最高の実績を出すよう言われたことが認められる(甲224)。
 さらに,文鮮明は,連絡協議会の最高責任者とされる古田元男に対して献金の指示を出していたし(甲リ49,65),被告の会長(当時)に対しては,日本からの金銭拠出が少ないことを叱責する趣旨で「エバ国から,はずして欲しいんだったら,今,言いなさい。すぐ,外してやるよ」などと厳しく迫ったことや,その場にいた高橋康二が「11月29日までに100やります」と決意表明しているのである(甲40の23ないし24頁)。
(7)連絡協議会の岩見沢地区の組織図には,教会長や副教会長という役職が記載されており(甲A43の1),また,旭川地区の組織図には,「神」「真の父母」とある下に「会長」「社長」と記載され,その下に管区長など連絡協議会のものと主張されている役職が記載されている(甲99)。
(8)人事面においては,証人■■■は,北神奈川教区長を務めていた佐藤信次郎が教区長を辞めた後に川崎信徒会の信徒代表に就任し,信徒代表を辞めた後に再び教区長に就任したと証言しており,その証言内容を前提としても被告と信徒会が人事面で密接に連携していたことがうかがわれる上,甲第186号証によれば,佐藤信次郎が信徒代表を務めていたとされる時期には,教区の運営本部長も務めていたことが認められる。また,証人北村公樹は、信徒会の教育部長を務め,その職を退いた翌年の平成8年から教会長に就任したと証言するが,甲第221及び第223号証によれば,同人は,信徒会の役職に就いていた平成6年の時点で教会長に就任していたことが認められる。
 会計面においては,岩見沢地区において,統一協会に上納すべき献金の一部が地区の収入とされていたことが認められ,るほか(甲A43の2ないし16),川崎支部においても,統一協会において最も基本的な献金である月例献金の一部を支部の経費に使っていたことが認められる(甲180)。
(9)以上の諸事情にかんがみれば,宗教団体である被告の組織とは別個独立に,連絡協議会又は信徒会という信徒団体が組織されていたとは到底認めることができず,被告が連絡協議会又は信徒会として主張する組織は被告の一部を構成するものであって,第1章及び第2章において認定した信者の活動は,すべて被告の宗教活動として行われていた事実を左右すべき事情は何ら見当たらない。

2 全大原理研について
 被告は,全大原理研と被告との間に指揮命令関係がないと主張する。しかし,前記のとおり,連絡協議会は被告の一部であると認められるところ,第1章及び第2章において認定したとおり,原理研究会の伝道活動や実践活動の態様は,ビデオセンターを設置運営していること,合宿形式の修練会を設けて再臨の救世主を明かすこと,勧誘当初は統一協会の伝道活動であることを隠すこと,家族に話さないよう口止めをすること,実践活動としてマイクロ活動を行うことなど様々な点において,連絡協議会の活動とされるものと類似しており,活動目的も共通していたものと認められる。そうすると,全大原理研や原理研究会が,宗教団体である被告の組織の一部を構成しているという事実関係までは認めるに足りる証拠がないものの,一連の伝道活動や実践活動が被告の指揮命令なしに独立して行われていたと考えることは困難である。よって,被告と全大原理研の間に指揮命令関係が存在すること自体は否定することができないところである。

3 天地正教について
被告は,天地正教は統一協会とは別個独立の宗教法人であり,指揮命令関係はないと主張する。しかし,教主である川瀬カヨが文鮮明を救世主として信奉していたこと(争いのない事実),壮婦信者の中には天地正教の活動に従事する者もいたこと(A事件の認定事実),被告の教区が主導して作成したと認められる甲第40号証には,平成11年に天地正教が統一協会と事実上吸収合併したとの記載があること,天地正教の信者に献金をした原告■■■■■は,統一協会の信者から献金の勧誘を受け,霊界解放と称して念珠や弥勒菩薩を購入した家庭で当該献金を行っており,その際のトーカーは統一協会の献身者であったこと(第3章の認定事実)などの事情に照らせば,平成11年以前においても,被告と天地正教の間には少なくとも指揮命令関係があったと認めるのが相当である。

4 海外宣教について
 被告は,原告らの一部が参加した海外宣教について,世界平和家庭連合が主催したものであって被告は関与していないと主張する。しかし,被告の部署として世界宣教部があること(証人北村公樹),平成8年から平成9年にかけて行われた修練会において,高橋康二が文鮮明から6000名の海外宣教師を出すようにと直接指示されたこと(甲40),原告■■■■■が海外宣教に行く際の案内文書には,南米の世界平和家庭連合からの要請に応えてボランティア活動として行く「事とする」と記載されており(甲エ23),同原告が現地の人に活動目的を説明するために作成した原稿には,文鮮明のみ言を受けて摂理のために来たという目的が明確に記載されていること(甲エ33)などの事情にかんがみれば,海外宣教は統一協会の活動として行われていたことが明らかである。したがって,被告の主張は採用できない。

第7 消滅時効の成否について
109 同273頁26行目冒頭から275頁10行目末尾までを,次のとおり改める。
1 控訴人は,被控訴人■■■及び同■■■■を除く被控訴人らについては,民法724条の3年の消滅時効が完成している旨主張するので,以下検討する。
2 民法724条は,不法行為に基づく法律関係が,未知の当事者間に,予期しない事情に基づいて発生することがあることに鑑み,被害者による損害賠償請求権の行使を念頭に置いて,消滅時効の起算点に関して特則を設けたのであるから,同条にいう損害及び加害者を知った時とは,被害者において,加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況の下に,その可能な程度にこれらを知った時を意味するのと解するのが相当であり,同条にいう被害者が損害を知った時とは,被害者が損害の発生を現実に認識した時をいうと解するのが相当である(最高裁昭和45年(オ)第628号同48年11月16日第二小法廷判決・民集27巻10号1374頁,平成8年(オ)第2607号同14年1月29日第三小法廷判決・民集56巻1号218頁参照)。また,民法715条において規定する使用者の損害賠償責任は,使用者と被用関係にある者が,使用者の事業の執行につき第三者に損害を加えることによって生ずるのであるから,この場合,加害者(賠償義務者)を知るとは,被害者において,使用者並びに使用者と不法行為者との間に使用関係がある事実に加えて,一般人が当該不法行為が使用者の事業の執行につきなされたものであると判断するに足りる事実をも認識することをいうものと解するのが相当である(最高裁昭和40年(オ)第486号同44年11月27日第一小法廷判決・民集23巻11号2265頁参照)。
3 前回訴訟や本件訴訟と同種の控訴人を被告とする損害賠償請求事件について,前回訴訟以前においては,広島高裁岡山支部平成12年9月14日判決(甲246)が,控訴人の使用者責任を認めた唯一の判決であった。上記判決の控訴人(原告)は1名であったが,平成13年6月29日の前回訴訟の判決(甲1)は,20名が提起した集団訴訟であって,統一協会の信者による伝道・教化活動及び経済活動並びに連絡協議会と統一協会の関係性について詳細に認定した上,統一協会の信者による上記活動が違法であり、統一協会は信者の不法行為について使用者責任を負うとして,原告のうち十数名について,その請求する入教関係費,献金関係費,慰謝料及び弁護士費用の一部を認容したものであった。そして,前回訴訟の判決が確定したのは,平成15年10月10日であった。
 一般に,宗教団体の信者は,その団体の活動に疑問を抱いて脱会した後であっても,自らに対する信者の伝道・教化活動等が違法であって不法行為が成立し,入教関係費等の損害が発生していると認識することは極めて困難であるというべきであり,また,控訴人は,第1章及び第2章において認定した一連の活動について,統一協会とは別個独立の様々な団体(連絡協議会,信徒会,原理研究会,世界平和家庭連合,野の花会,しんぜん会・北翔クレインなど)が行っているという建前をとっているところ,それらの団体と統一協会との関係性については一般人からみても複雑であって必ずしも明白なものではなく,取り分け,統一協会への信仰を持っていた被控訴人らにとっては,脱会後においても,控訴人の上記見解を否定し,控訴人に対する損害賠償債権の行使が可能であると判断することは極めて困難であったというべきである。
 そうすると,控訴人が消滅時効の完成を主張しない被控訴人■■■及び同■■■■を除く被控訴人ら(ただし,被控訴人■■■■を除く。)において,民法724条にいう損害及び加害者(賠償義務者)を知った時点は、特段の事情のない限り,多数の元信者について控訴人の使用者責任を認めた前回訴訟の判決確定時である平成15年10月10日と認めるのが相当である。そして,次項において検討するとおり,上記被控訴人らのうち,被控訴人■■■■■,同■■■■及び同■■■■■については、上記時点以前において損害及び加害者(賠償義務者)を知っていたというべき特段の事情が認められる(その余の被控訴人らについては,控訴人がとりわけ消滅時効の完成が明らかである旨主張する被控訴人■■■■■らを含め,上記特段の事情があるとまでは認めることができない。)。

4(1)被控訴人■■■■■について
ア 証拠(甲B279,甲D4,甲ナ1)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
 被控訴人■■■■■は,平成5年12月に保護され,平成6年3月に統一協会を脱会したが,その時点で統一協会の間違いや嘘に気付いた。
 被控訴人■■■■■は,前回訴訟における原告側の書証として提出するために平成10年1月30日付けで陳述書を作成し,その後、同年2月20日,前回訴訟において原告側の証人として尋問を受けたが,同被控訴人は,その証人尋問の中で,次のとおり供述した。すなわち,統一協会についてはどういうふうに思っているかとの質問に対しては,「自分の深い心の中にまで入り込んで,罪意識という恐怖を持たせて,がんじがらめに縛りつけられた,そしてその中でロボットのように働かされたということ、そんな集団であるということを今でも許せない気持ちで一杯です。」と,統一協会を訴えようと思わなかったかとの質問に対しては,訴えたいと思っていた旨,前回訴訟の原告に加わらないかと誘われたことはないかとの質問に対しては,訴えているという事実は聞いたが,誘われたことはない旨,前回訴訟に加わりたいと思わなかったかとの質問に対しては,脱会した当初はそこまで思っていなかった旨それぞれ供述し,脱会後もずっと前回訴訟に加わりたいと思わなかったかとの質問に対しては,沈黙した。
イ 上記認定のとおり,被控訴人■■■■■は,前回訴訟において,原告側の書証として提出するために陳述書を作成したり,原告側の証人として尋問を受けたりしているところ,陳述書の作成や証人尋問に当たっては,前回訴訟の原告代理人らから事前に同訴訟の内容について具体的な説明を受けているであろうことは容易に推認されること,これに加えて,平成6年3月に統一協会を脱会した時点で統一協会の間違いや嘘に気付いていたことや被控訴人■■■■■の上記認定の供述内容を総合すれば,同被控訴人は,損害及び加害者(賠償義務者)の認識に関しては前回訴訟の原告と変わらない立場にあったというべきであり,遅くとも,上記尋問が実施された平成10年2月20日には,前回訴訟の原告がそうであるように,損害及び加害者(賠償義務者)を知っていたものと認められる。なお,前回訴訟と本件訴訟とでは請求している損害の範囲は違うが,前回訴訟における統一協会の伝道・教化活動及び経済活動に関する主張内容は本件訴訟と同様のものであり,前回訴訟と本件訴訟とで請求している損害の範囲自体が違うことは,被控訴人■■■■■において損害の認識があったとの認定を左右する事情とはならないものというべきである(このことは,後記被控訴人■■■■及び同■■■■■についても同じである。)。

(2)被控訴人■■■■について
ア 証拠(甲B241,甲D3の1ないし3,甲オ1)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
 被控訴人■■■■は,平成7年1月に保護され,同年2月に統一協会を脱会したが,その時点で統一協会の間違いに気付いた。
 被控訴人■■■■■は,前回訴訟における原告側の書証として提出するために平成9年5月23日付けで陳述書を作成し,その後,同年7月25日及び同年9月26日,前回訴訟において原告側の証人として尋問を受けたが,同被控訴人は,その証人尋問の中で,次のとおり供述した。すなわち,統一協会を脱会する前の自分の行為をどのように思うかとの質問に対しては,「全くの詐欺行為だったと思います。何も救いにもなりませんし,ただお金だけを巻き上げて,結局ものすごい苦労をさせてしまっているので,ひどいことをしてしまったと思います。」と,前回訴訟の内容を知っているかとの質問に対しては,「知っています。統一協会を脱会した元信者が原告になって,統一協会を相手に青春を返せというか,その時間を返せということで裁判をしています。」と、あなたは青春を奪われたかとの質問に対しては,「奪われました。」と,あなたも前回訴訟に原告として加わればよいのではないかとの質問に対しては,「裁判に加わって証言することが自分の中で一番最大限できることなので,証人として出ることにしました。」と,あなたが原告になる気はないかとの質問に対しては,分からない旨,統一協会を憎んでいるわけではないのではないかとの質問に対しては,「統一協会は早くつぶれてほしいです。自分が訴訟を起こすかどうかとかそういうのは,まず自分が生活を立てることが第一で,証人ということしか考えてなかったので,訴訟を起こすどうこうということはまだ全然考えてません。」と,ほかの信者が詐欺に遭っているという理由は何かとの質問に対しては,「自分の考える余地なく統一協会に教育されて,ほかの情報も取り入れながら自分で判断したわけじゃなく,本当に統一協会側から守られているというか,統一協会に囲われている形で,自分で献金をしたいというよりは、家系のためだからとか霊界のためだからというように攻められるようにして献金を出していってるので,それは彼女が普通通常で,本当に何もない状態で家庭のためだけに千何百万も出すだろうかというふうに思うと,多分そんなふうにしないだろうなと思いますので,統一協会から教育されなければ,そういう献金は彼女は出してないと思うので,詐欺行為だと思います。」とそれぞれ供述した。
イ 上記認定のとおり,被控訴人■■■■は,前回訴訟において,原告側の書証として提出するために陳述書を作成したり,原告側の証人として尋問を受けたりしているところ,陳述書の作成や証人尋問に当たっては,前回訴訟の原告代理人らから事前に同訴訟の内容について具体的な説明を受けているであろうことは容易に推認されること,これに加えて,平成7年2月に統一協会を脱会した時点で統一協会の間違いに気付いていたことや被控訴人■■■■の上記認定の供述内容を総合すれば,同被控訴人は,損害及び加害者(賠償義務者)の認識に関しては前回訴訟の原告と変わらない立場にあったというべきであり,遅くとも,上記各証人尋問のうち,最後の尋問が実施された平成9年9月26日には,前回訴訟の原告がそうであるように,損害及び加害者(賠償義務者)を知っていたものと認められる。

(3)被控訴人■■■■■について
ア 証拠(甲B445,甲エ9,被控訴人■■■■■本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
 被控訴人■■■■■は,平成9年8月に保護され,同年12月に統一協会を脱会したが,その時点で統一協会の間違いや統一協会に騙されていたことに気付いた。
 被控訴人■■■■■は,前回訴訟における原告側の書証として提出するために平成12年8月に陳述書を作成したが,その陳述書の中には,「今まで,文鮮明教祖の言葉を,神様の言葉とすり替えられ,文鮮明教祖の思いのままに振り回されていたことを思うと悔しい思いで一杯です。人権を奪い,人生を狂わし,私たちを弄んでいる文鮮明教祖の心はとても罪深く,到底許すことはできません。このような宗教問題は,処罰することはとても難しいこととは思いますが、統一協会は明らかに,文鮮明教祖の利益のために,信者たちを奴隷のように扱い,経済活動をさせている「えせ宗教団体」です。目的のためなら,手段を選ばないという,そこには,全く神様が存在していない教えです。」と記載されていた。また,被控訴人■■■■■は,本件訴訟の本人尋問において,上記陳述書を作成した当時,同被控訴人に対して色々な悪事を働いた団体が統一協会であることを認識していた旨供述している。
イ 上記認定のとおり,被控訴人■■■■■は,前回訴訟において,原告側の書証として提出するために陳述書を作成しているところ,陳述書の作成に当たっては,前回訴訟の原告代理人らから事前に同訴訟の内容について具体的な説明を受けているであろうことは容易に推認されること,これに加えて,平成9年12月に統一協会を脱会した時点で統一協会の間違いや統一協会に騙されていたことに気付いていたことや被控訴人■■■■■の上記認定の陳述書の記載内容,さらに,同被控訴人の本件訴訟における供述を総合すれば,同被控訴人は,損害及び加害者(賠償義務者)の認識に関しては前回訴訟の原告と変わらない立場にあったというべきであり,遅くとも,上記陳述書が作成された平成12年8月には,前回訴訟の原告がそうであるように,損害及び加害者(賠償義務者)を知っていたものと認められる。
(4) 被控訴人同■■■■■,同■■■■及び同■■■■について
 被控訴人同■■■■■,同■■■■及び同■■■■は,それぞれ平成4年9月,平成5年7月及び平成4年12月に統一協会を脱会し,その時点で統一協会の間違いや統一協会に騙されていたことなどに気付いたことが認められ(甲ト1,甲ル7,甲マ1),また,被控訴人■■■■■に関しては,同人の統一協会脱会前作成に係る書込みのあるカレンダー(甲B117),ノート(甲B118)及びレポート(甲B192)が,被控訴人■■■■に関しては,同人の統一協会脱会前作成に係るノート(甲B144,155)が,被控訴人■■■■に関しては,日誌(甲Bl51)がそれぞれ前回訴訟の原告側の書証として提出されていることが認められる(弁論の全趣旨)が,上記事実をもってしては,上記被控訴人らが,前回訴訟の時点において,損害及び加害者(賠償義務者)の認識に関して前回訴訟の原告と変わらない立場にあったということはできず,損害及び加害者(賠償義務者)を知っていたものとは認められない。
5 前記のとおり,被控訴人■■■■■は平成10年2月20日の時点で,被控訴人■■■■は平成9年9月26日の時点で,被控訴人■■■■■は平成12年8月の時点で,それぞれ損害及び加害者(賠償義務者)を知っていたものと認められるところ,上記被控訴人らが本件訴訟を提起したのが平成16年6月25日であることは当裁判所に顕著であり,これによれば,上記被控訴人らについては,民法724条の3年の消滅時効が完成していることが認められる。
 これに対し,その余の被控訴人ら(ただし,被控訴人■■■■を除く。)については,損害及び加害者(賠償義務者)を知ったのは平成15年10月10日であり,上記被控訴人らが本件訴訟を提起したのが平成16年6月25日又は,平成18年9月5日であることは当裁判所に顕著であるから,民法724条の3年の消滅時効は完成していない。


 なお,原告■■■■については,平成21年3月3月31日に訴訟提起がされているところ,第3章に認定のとおり,同原告は,祝福を受けて韓国に移り住んだが,その後,夫との生活に耐えきれず日本に帰国し,平成17年6月に離婚し,平成20年10月に脱会届を提出したものである。同原告にとって,統一原理に疑問を持ち始めたことが離婚を決意する要因となったのは確かであるが,韓国での夫婦生活に耐えきれず,心身ともに限界を来した結果,日本に帰国し離婚に至ったという事情や,同原告も他の信者と同様に信仰を持った後の棄教の罪深さ教えられていたことにかんがみれば,夫との離婚により直ちに統一協会の信仰を捨てたものと考えることは困難である。第3章において認定した同原告の脱会経過に照らせば,同原告が不法行為に基づく損害賠償請求が可能な程度に「損害及び加害者を知ったのは,信仰を捨てたことが明らかになった時点,すなわち統一協会の脱会届を提出した時点と解するのが相当である。従って,被控訴人■■■■について,民法724条の3年の消滅時効は完成していない。

第8 除斥期間について
 民法724条後段は、不法行為による損害賠償債権の除斥期間を定めたものであり,裁判所は,当事者の主張がなくても,除斥期間による請求権の消滅について判断する必要がある(最高裁判所平成元年12月21日第一小法廷判決・民集43巻12号2209頁参照)。
 同条は,除斥期間の起算点について「不法行為の時から」と規定しているところ,前記第5に認定の損害のうち,損害賠償の除斥期間が経過した損害は存在しない。

第9 被告の損害賠償債務が遅滞に陥る時期について
1 原告■■■■以外の原告らは,その請求債権について,各原告が統一協会において実践活動を開始した時点から遅延損害金を付すべきであると主張するが,不法行為に基づく損害賠償債務は損害発生と同時に遅滞に陥ると解されるから,遅延損者金に関する原告らの主位的主張は失当である。
2原告■■■■以外の原告ら
(ただし,被控訴人■■■■■,同■■■■及び同■■■■■を除く。)に対する損害賠償債務は,遅くとも,原告らが統一協会を脱会した後の日である別表c「附帯請求起算日(予備的)」欄の日には発生し遅滞に陥ったと認められ,原告■■■■に対する損害賠償債務ついても,同様に,遅くとも別表c「附帯請求起算日(主位的)」欄の日には発生し遅滞に陥ったと認められる。
3 近親者原告らについては,遅くとも,最後の金銭拠出の日,すなわち別表C「附帯請求起算日(主位的)」欄に記載の日には発生し遅滞に陥ったと認められる。

第10 結論
 以上のとおり,事件被控訴人らの請求は,本判決別表Bの限度で理由があり,その余はいずれも理由がない。」


U 控訴人は,事件被控訴人らが統一協会の信者の伝道・教化活動等であると主張するものは,統一協会の一部の信者が自主的に組織した連絡協議会ないし信徒会の活動として行われているものであって,統一協会は一切関与していない,また,ある行為の違法性を判断するに当たり,その行為が目的,手段,結果の観点から社会的相当性を逸脱する場合,それは違法と判断されるが,手段自体には何ら脅しや強制等の違法な点はないにもかかわらず,不当な目的があったとして手段を違法とすることは許されない,さらに,統一協会の信者の活動について,信者が文鮮明をメシアと信じ,その信仰に向かって日々研鑽している事実を踏まえた判断をすべきであるなどと,原審におけると同様るる主張するが,これらの主張は,いずれも前記のとおり補正した上で引用した原判決の認定及び判断を左右するに足りるものということはできず,控訴人がその損害賠償責任自体を免れることはできないというべきである。

第5 結論
 以上によれば,原判決は一部失当であり,本件控訴は一部理由があるからその限度で原判決を取消し又は変更し,控訴人のその余の本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

札幌高等裁判所第3民事部
裁判長裁判官  岡  本       岳
   裁判官  佐  藤   重   憲
   裁判官  近  藤   幸   康


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