マインド・コントロール達成の三段階

『マインド・コントロールの恐怖』第4章より抜粋
《スティーブン・ハッサン/著 浅見定雄/訳 恒友出版》

 マインド・コントロールを達成するための三段階の過程は、表面上はごく簡単に見える。私はこの三つの段階を、解凍unfreezing、変革chenging、そして再凍結refreezingと呼ぶ。

「解凍」とは人格を崩壊させる
「変革」とは教え込みの過程
「再凍結」とは新しい人格を作り上げ強化する過程

 今日の破壊的カルトには、毛沢東以来三〇年たった心理学的研究とテクニックの強みがある。今日の破壊的カルトのマインド・コントロールのプログラムは、当時より遙かに効果的で危険なものになっている。現代のマインド.コントロールでは、たとえば催眠の操作がずっと重要になっている。加えて現代の破壊的なカルトは、その手法がずっと柔軟である。いまや彼らは、ひとりひとり性格にあわせてどんどん手法を変え、だましの技術や高度に洗練された特殊用語を使ったり、思考停止の技術や恐怖心に訴える教え込みのような技術を駆使したりする。


解 凍

 だれかに急激な変革を起こさせるのには、まずその人の現実をゆさぶらなけらばいけない。教え込みをする側は、彼を混乱させなければいけない。彼が自分と周囲の状況を理解する思考の枠組みに揺さぶりをかけ、それを壊さなければいけない。現実に対する彼の見方を混乱させれば、彼の防衛本能も武装解除され、いままでの現実を否定するようなカルトの諸概念でも受け入れてしまうようになる。「解凍」はさまざまな手法を使って達成できる。生理的に混乱させることはきわめて効果的である。睡眠を奪うのは、人格を崩壊させるいちばんふつうで強力な技術のひとつである。食事の内容や時間に新しい制限を加えるのも、混乱を起こさせるのに効果がある。あるグループは、低蛋白・高糖度の食事や長期にわたる減食で、その人の情緒的安定を崩す。「解凍」がいちばんよく達成されるのは、人里離れた施設のように完全にコントロールされた環境であるが、ホテルの広間のようなもっと簡単に行ける場所でも、それはできる。

 人を解凍してその防御機構をはぐらかすためのもうひとつの強力な手段は、催眠である。とくに効果的なのは、相手の混乱を利用してトランス(忘我)状態をひきおこす技術である。混乱はふつう、矛盾する情報が一見調和したかたちで伝えられるときに生じる。たとえば催眠術者が権威ある口調で、「私の言っていることを理解しようとすれほするほど、あなたは理解できなくなります。わかりますか」と言う。これは一時的な混乱状態をひきおこす。それでも、この文をくりかえし読んでいると、ついには意味がとおるかもしれない。しかし、もしコントロールされた環境で長期間そのような混乱させる言語と情報を聞かされつづけると、だれでも自分の批判的判断を中止してしまうのがふつうである。そして、ほかの人々がみなやっていると思うものに自分を合わせてしまう。そのような環境では、ほとんどの人は相手よりも自分を疑い、集団の方に従う傾向がある。

 感覚を奪うことと同じように、感覚に過重な負担をかけることもまた、人のバランスを乱させ、その人を暗示にかかりやすくする。感情のこもりすぎた素材を、消化できないほどのはやさで浴びせかけられることもある。すると「圧倒された」という気持ちになってしまう。精神がぷっつり切れて停電状態になり、注ぎ込まれてくる素材を評価することもやめてしまう。新来者は、こういうことが自分の内部で自然に起こっているのだと思うかもしれない。だがグループの方では、意図的にそうなるよう仕組んだのである。

 そのほか、「二重の呪縛 double binds」のような催眠技術もまた、現実感覚を解凍する助けに使われる。二重の呪縛とは、一方で本人がみずから選んでいるのだという錯覚を与えながら、じつはコントロールする側が望んでいることを強制的に行なわせてしまうものである。

 誘導された瞑想、個人的な秘密の告白、祈祷会、激しい体操といった行為、さらにみんなで歌を歌うことさえも、解凍を助ける。典型的な場合、これらの活動はまったく何気ない感じで始まるが、そのセミナ一あるいはワークショップの進行とともに、次第に激しく、またよく管理されたものになっていく。活動は、ほとんど常にグループで行なわれる。これがプライバシーの剥奪を強め、ひとりになって考え反省したいという欲求をくじいてしまう。

 大部分のカルトは、解凍のこの段階で、人々が弱っていくのにあわせ、「自分はひどい欠陥人間だ無能で精神的に病んでいるし、霊的にも堕落している」という観念で彼らを責め立てる。学業や仕事、がよくできないとか、肥満だとか、人間関係でトラブルがあるとかいうように、本人にとって切実な問題なら何でも、途方もなく誇張して、その人がどんなに完全にだめな人間かを証明するのに利用する。グループによっては個人攻撃はすさまじいもので、しばしばグループ全員の前で侮辱をくわえる。

 こうしてひとたび人格が崩壊すると、その人は次の段階へ準備がととのったことになる。


変 革

 変革とは、ある人の古い人格が崩壊したために生じた空白に新しい人格を −新しい行動と思考と感情のセットを− 押しつけて、その空白を埋めることである。解凍の段階で用いられたのと同じテクニックの多くが、この段階にも持ちこまれる。反復、単調、リズム −これらは人をあやす効果のある催眠の律動であり、形式ばった教え込みは、おもにこの律動の中で行なわれる。教材は何度となくくりかえされる。洗練された講師は興味を持続させようとして話に変化を加えるが、趣旨は毎回同じである。

 「変革」の過程では、この反復はみな、いくつかの決まった中心的テーマに集中する。新会員は、世界がどんなに堕落しており、また真理を悟っていない人々はどんなにそれを正す道を知らないか、教えられる。新会員はこう教えられる。「あなたが“新しい真理”を完全に体験するのを邪魔しているのはあなたの“古い”自我です。あなたを引きずり下ろしているのはあなたの“古い概念”です。あなたを素晴らしい進歩から引きもどしているのはあなたの“理性的な”精神です。身をまかせなさい。出発しなさい。信仰をもちなさい」


 新しい行動様式の形成は、最初はこっそり、のちには次第に強引に行なわれる。新しい人格を作りあげる素材は、徐々に、少しずつ、その人が吸収する用意ができたと思えるだけのはやさで与えられる。私が統一教会の講師だったころ、この戦術のことでほかの講師とよく議論した。私たちの操作を正当化するために、こういう「たとえ」を使ったものである。

 「赤ん坊にいきなり分厚いステーキを食べさせるかい。調整ミルクのような消化できるものをやるべきなんだ。そう、この人たち(改宗候補者)は、霊的な赤ん坊なんだ。彼らが扱える以上のことは話すな。さもないと死んでしまう」

 もし新会員が私たちのことを知りすぎて怒りだしたら、その担当者は引きさがってほかのメンバーがかわり、改めて「離乳食」を食べさせるようにしたものである。

 形式ばった教え込みの会は催眠状態を誘発するためなのでとても単調である。これらのプログラムのあいだに人々が眠りこむのは、かなり普通のことである。私がカルトの講師をしていたころ、人々が眠りこむと、彼らを懲らしめて罪悪感を感じるようにした。だが実は、彼らはただ催眠術によく反応したにすぎないのである。睡眠が多くのカルトの典型であることを、私はもっとあとに学んだ。軽く居眠りをしているあいだにも講義の内容は多少なりと聞こえており、しかも通常の知的防衛能力は減退しているため、ちゃんとその影響力を受けているのである。

 質問をたくさんしすぎる人は、すばやくほかのメンバーから隔離される。統一教会では、私たちは新入会員の評価を行なうため、ワークショップ(修練会)のはじめに小グループを編成したものだった。彼らを「羊」と「山羊」とに分け、それぞれのグルーブヘ割り当てた。「羊」とは「霊的に準備のできている」人々だった。「山羊」とは良いメンバーになることが期待できない、頑固な個人主義者たちのことだった。もしも彼らが「砕かれ」ないなら、彼らの「否定性」が羊たちの目にふれないよう、「山羊」チームヘと安全に囲い込まれ、この山羊どもは、時を見て、帰るようにと言われる。私はこの点でも、統一教会を抜けたあと、全然別のカルトが同じことをやっているのを知って驚いた。その技術は私たちが発明したのだとばかり思っていたからである。

 人間というものは、新しい環境に対して信じられないくらいの適応能力を持っている。破壊的カルトは、この力を悪用する方法を知っているのである。その人の環境をコントロールし、ある行動には報いてやり、ほかの行動は抑圧するという「行動修正」を使い、催眠状態を誘発させて、彼らは本当に人の人格を組み変えてしまう。ひとたび「変革」してしまえば、その人は次の段階へ準備ができたのである。


再凍結

 もとの人格を壊されて新しい信念体系を教え込まれたら、その人はこんどは「新しい男」(または「新しい女」)としてふたたび作りあげられなければならない。自分の新しい人格を固めるため、彼は人生の新しい目的と新しい活動を与えられなければならない。最初のふたつの段階で使われたテクニックの多くが、再凍結の段階へも持ち込まれる。カルトのリーダーたちとしては、その人がこの直接的なカルトの環境(人格改造の場)を去るとき、新しいカルトの人格が強いものになっているという確信が持てないと困る。新しい価値と信念が、この新会員の内面のものとならなければならない。

 「新しい」人間の最初でもっとも重要な仕事は、以前の自分をさげすむことである。いちばんいけないのは、その人が自分らしく行動することである −その「自分」が、数か月後に完全に形成される新しいカルトの自分なら別だけれども。その人の記憶はゆがめられ、過去の良いことは極小に、罪や失敗や心の傷や最責感は極大に考えるようになる。特別な才能や興味や趣味や友人や家族は、もしそれが大義への献身と矛盾するのなら −なるべくみんなの前で、劇的な仕方で− 放棄しなければならない。告白が、その人の過去を抹殺して彼をカルトの中へ埋没させるもうひとつの方法となる。

 再凍結の間、新しい情報を伝えていくおもな方法は、「型にはめること modeling」である。新しいメンバーは、古いメンバー(新メソバーにコツを教えるのが彼らの任務)とペアを組まされる。「霊の子はあらゆる面で「霊の親」を見習うよう指導される。このテクニックもまた、いくつかの目的に役たつ。それは、「先輩」メンバー、自尊心を満足させながら最良の行動を持続させ、新メンバーには、将来自分の後輩メンバーを訓練できるような尊敬される模範になりたいという欲望をかきたてる。

 グループはいまや、メンバー同士の「真の」家族を形づくる。ほかのどんな家族も、時代遅れの「肉的」家族にすぎない。

 新しい人格の再凍結を促進するため、あるカルトはその人に新しい名前を与える。多くのカルトは、その人の服装のスタイル、ヘアカット、その他何であれ、彼に過去を思いださせるようなものは変えてしまう。前に述べたとおり、メソバーはしばしばそのグループ特有の専門語または特殊用語を話すようになる。

 ふつうメンバーは、銀行口座その他の所有物を引き渡すように、大きな圧力をかけられる。これは、カルトを豊かにするほかにも、ふたつの目的に役だつ。生涯の預金を献げることが、その人を新しい信念体系へ凍結させる。それが誤りだったと認めるのはあまりに苦痛だろうし、また、その人がグループを離れようと考えても、外の世界で経済的に生きながらえていくのはもっとたいへんだと思わせる役にたつのである。睡眠不足、プライバシーの欠如、食生活の変化は、ときに数か月またはそれ以上も続く。新メンバーをなじみ深い環境や影響源から引き離して、新しい町 −そこでは彼は新しいカルトの人間以外であったことはない− へ移転させることは、カルトの権威ある人物に対するいっそう全面的な依存状態を作りだす。典型的な場合、新メンバーはできるだけ早く人を勧誘する任務につかされる。社会心理学の研究が示したところによれば、自己の信念を他人へ売りこむ努力ほど、その人の信念を固めるものはない。新メンバーにそれをさせることが、カルトの人格を急速に結晶させるのである。

 二、三週間そとの世界で勧誘や資金集めをさせられたあと、メンバーは多くの場合再度の教え込みに送りかえされる。このサイクルは、数年間にわたって何十回もくりかえされることがある。「先輩」メンバーとじゅうぶんな時間を過ごしたのち、新会員はついに自分でほかの新会員を訓練することをまかされる日が来る。こうして被害者が加害者となり、破壊的システムを永続させるのである。


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