『統一協会 マインド・コントロールのすべて』 郷路 征記
◆ 教団研究の今日的課題 ◆
【82Pより抜粋】
北海道大学大学院文学研究科社会システム科学講座
研究代表者 櫻 井 義 秀
本書は、「青春を返せ訴訟」第一号として札幌で始められた統一協会に対する違法伝道訴訟の原告側準備書面をもとにしている。統一教会の教育課程(ビデオセンター→2daysセミナー→ライフトレーニング→4daysセミナー→新生トレーニング→実践トレーニング→伝道機動隊・珍味マイクロ)を元信者との勉強会から克明に復元し、ハッサン氏のマインド・コントロール論、ロバート・B・チャルディーニ著、社会行動研究会訳『影響力の武器−人はなぜ動かされるのか』を参照して、1985年から1992年までの統一教会におけるマインド・コントロールを批判したものである。未信者に統一教会の教育畑スタッフがどのように働きかけ、入信・回心過程を促進しようとしているのかが明らかである。しかし、事例を典型的に記述しているために、信者の主観的世界の変容が画一的に把握され、信者個人個人が入信・回心を決意した時点、理由がリアルに記述されていないような構成になっている。つまり、信者の主観的世界を描くのであれば、バリエーションに欠くことが信憑性に疑念を抱かせるという点が一つ。もう一つの可能性は、まさに画一的な入信・回心過程がそこで発生していたのではないか、そのような操作の結果が表れたものとして典型例の記述を解釈することである。後者に注目するならば、確かに最終的に献身を決意したもの(させられたもの)は操作されてしまった、マインド・コントロール下にあったものといえる。しかし、マインドコントロールの過程で離脱したものが現に少なくないことから、この事例がマインドコントロールの強力さ、人を入信・回心に導く決定力を示すものでないこともまた明らかであろう。