『統一協会 マインド・コントロールのすべて』 郷路 征記

■ 統一教会の入信勧誘と説得・教化の事例 ■

東京大学教授 島 薗  進

 多くの被害者を出してきた宗教集団に統一教会がある。統一教会の入信勧誘と説得・教化の問題点について、近年はマインドコントロール論からのアプローチが多い。しかし、この稿で筆者はマインドコントロールという用語では、宗教集団の及ぼす害悪や危険性について十分な考察ができないのではないかと述べてきた。マインドコントロール論による批判には説得力が欠けていると筆者は考えている。だが、そのことは統一教会の入信勧誘と説得・教化の問題点について、有益な批判的記述がなされてこなかったということを意味するものではない。マインドコントロール論に依拠しようとしているにもかかわらず、統一教会の入信勧誘と説得・教化について優れた記述と批判がなされている書物がある。ここで取り上げようとする、郷路征記の『統一協会マインドコントロールのすべて』はその良い例である。
 この書物は統一教会の「教育過程」の正当性をめぐる札幌での裁判の準備書面をもとにして書かれたものである。80年代の後半から、統一教会の「教育過程」に巻き込まれることで多くの被害をこうむったと感じた人びと、151人が全国9か所で訴訟を起こした。著者の郷路征記は、この「青春を返せ訴訟」の札幌の原告を支援する弁護士の1人である。郷路は「教育過程」の問題性を詳細に分析するため、原告達に集まってもらい、1991年から1年半にわたって学習の会合を持った。ハッサンの『マインドコントロールの恐怖』を読むとともに、統一教会での各自の体験を語り合い、札幌および旭川でのある時期(1985年から92年まで)の統一教会の「教育過程」の全体像を再現した。それを通して元信徒らの被害経験を描き出し、統一教会側の責任を明らかにしようとしたのである。
 この本の中では、統一教会の「教育過程」について順を追って詳しく記述され、元信徒らが統一教会に傷つけられ、危害をこうむったと感じている理由が如実に語られており、その点で高い価値を持つ資料となっている。
<

【精神医学 第40巻 第11号 (1998.11.15発行)より】


【トップページへ戻る】 【著作紹介へ戻る】 【統一協会のマインド・コントロールに戻る】