消費者法ニュース 第49号 (2001年10月31日発行)

いわゆる「青春を返せ訴訟」札幌地裁判決

 統一協会の伝道が憲法の保証した思想信条の自由を侵害した違法行為であることを追求していた札幌の訴訟(いわゆる、青春を返せ訴訟)で札幌地方裁判所は、六月二九日、画期的な判決を言渡した。判決の特徴は以下の点にある。

憲法の思想信条の自由について

 宗教団体等の勧誘者側の権利について、被勧誘者である国民の思想信条の自由などによる内在的制約を認め、統一協会の勧誘行為が原告の思想信条の自由を侵害するおそれのある行為であったことを認めた。
 統一協会のように勧誘に際して、宗教団体であることを隠すことの重大性について、宗教的確信を懐くということの意味を深く分析して、素晴らしい判断をおこなった。「即ち、宗教的確信は、非合理的、超自然的事柄への信仰を中核とした確信であるから、後日、事実の相違等を指摘されても、自然科学的な事柄と違って、一旦真理として受け入れてしまった以上、その思想からの離脱が困難である・・。」したがって、統一協会が宗教団体であることを秘匿して勧誘することは、「その者の信仰の自由に対する重大な脅威と評価すべきものということができる。」
 また、宗教上の信仰の選択など内心の自由に対して不当な影響力を与えようとすることが、強度の違法性を持つことについて、次のように判断した。
 「宗教上の信仰の選択は、単なる一時的単発的な商品の購入、サービスの享受とは異なり、その者の人生そのものに決定的かつ不可逆的な影響力を及ぼす可能性を秘めた誠に重大なものであって、そのような内心の自由に関わる重大な意思決定に不当な影響力を行使しようとする行為は、自らの生き方を主体的に追求し決定する自由を妨げるものとして、許されないといわなければならない。」
 私はこの部分を読んで、オウム事件の「加害者」達のことを思い起こさざるを得なかった。まさしく、オウムヘの信仰の選択は、その人の人生に「決定的かつ不可逆的な影響力を」及ぼしたのである。
 また、私たちが、マインド・コントロールという言葉で説明しようとしたことは、判決のいう、「不当な影響力」の体系のことだったのである。

勧誘目的について

 統一協会の勧誘目的について、対象者の財産の収奪と無償の労役の享受及び原告らと同種の被害者となるべき協会員の再生産という不当な目的であると断じた。
 これも重要な判示である。この認定により、統一協会の商行為を防止する新しい手だてを講ずる可能性が開かれる。
 問題点としては、教育過程にいる間に救出されて実践活動をおこなっていなかった人について、慰謝料請求を否定したことがある。
 それと同じ問題だと思うが、慰謝料の認容金額は決して高くはないと思う。この訴訟は、金銭の獲得を目的としたものではない。統一協会の伝道が違法であることの確認を求め、そのことによってこのような被害の発生を防止することが目的である。これは我々の共通の確認である。したがって、慰謝料額の増額を求めて控訴はしないことにした。
 しかし、被害の実態については正確な認識を求めたいと考えている。我々は、統一協会の「教育」によって、その人がそれまでの人生をかけて形成してきたアイデンティティーとは別に、人工的なアイデンティティーが形成されたのだ、別な人格が植え付けられたのだと主張してきた。その後に起こる経済活動や伝道、祝福という合同結婚はすべて、その結果なのである。自己の人格が、操作されて変容させられたことの精神的苦痛は大きいものである。また、そのようなことを企てたものの責任が慰謝料の額に反映されるべきであるとも思う。そのことの実現は、また別な機会に追求したいと考えている。


【トップページに戻る】  【「青春を返せ」裁判情報に戻る】