札幌弁護士会所属 弁護士 郷路征記

青春を返せ札幌第2陣2次訴訟控訴審判決について


1 長い闘いによる成果
 青春を返せ訴訟札幌第2陣2次訴訟の控訴審判決も、一審判決の重要な以下の諸点をそのまま維持して、統一協会に対する元統一協会員原告(3名の、時効成立を認定された原告を除く)の請求を一審判決どおり認容した。

@ 統一協会による、ビデオセンターを始まりとする布教・教化課程は被勧誘者に対する違法な行為である。

A その間の、被勧誘者による任意の承諾は違法性を阻却しない。

B 統一協会への金銭の拠出(物品の購入も含む)は、個々の拠出の場面だけを切り取って観察すれば自発的に行われているが、違法な伝道・教化活動がされなければ、金銭の拠出がされなかったであろうから、これら金銭は信者の不法行為(布教・教化活動)と相当因果関係にたつ損害である。
 従って、因縁や地獄の恐怖で畏怖困惑させられたことは、個別の拠出の際、主張する必要もないし、立証も要しない。自発的に献金したということでいいのである。以上の理由によって、定着経済の被害が日本の裁判史上初めて原則的に損害として認められ、月例献金まで損害として認められた。

C 違法な伝道・教化活動に囚われたことにより、財産的損害の填補だけでは償えない深刻な精神的・肉体的苦痛を受けたことが明らかであり、その苦痛は慰藉料をもって償われるべきであるとの位置づけにより、1人最高額771万円余の慰藉料が維持された。

 以上のとおり、統一協会に対する損害賠償の請求方式として、青春を返せ訴訟方式が優れていることをあらためて確認することができた。
 これらの成果は、26年前に提起された青春を返せ訴訟札幌第1陣訴訟以来の闘いの蓄積があったから、控訴審裁判所にも認めさせることができたのではないかと考える。
 控訴審裁判所が、平成13年の第1陣訴訟の判決を書いていたら、あの画期的な原告勝訴判決は存在しているかどうか大きな疑問がある。その理由は以下に述べるとおりである。

2 控訴審判決批判

(1) 連絡協議会を実在するものと認定
 一審判決は「判決理由」が63頁から276頁まで215頁もある。そのうち「第1章 統一協会の信者による経済活動」が13頁、「第2章 統一協会の信者による伝道・教化活動」が26頁である。その合計39頁のうち、引用もれなど技術的な訂正を除いて、控訴審判決による、一番判決の内容を変える訂正は1カ所である。
 一審判決の71頁、「統一協会のブロックや支部」という判示の後に、括弧書きで(後記第4章第6で説示するとおり、連絡協議会または信徒会は、控訴人の一部を構成すると認められるものであり、ここでいう支部は連絡協議会等の組織における支部を指すものである。)という注釈が記載されたのが、それである。この括弧書による注釈部分は、連絡協議会あるいは信徒会が実在するのか、それとも統一協会の組織の一部に訴訟対策上名前を付けたものにすぎないかという争点について、控訴審判決が一審判決を大きく後退させたことを示している。
 上記のとおり控訴審判決は、連絡協議会又は信徒会が統一協会の一部を構成するものであると明確に認定している。この点では統一協会の主張と違う。統一協会は、統一協会とは法人格の異なる信者の任意の組織=別組織だと主張しているからである。しかし、控訴審判決の認定は、連絡協議会又は信徒会は実在せず、統一協会の組織の一部に訴訟対策上その名前を付けたものにすぎないという原告ら(被控訴人ら)の主張とは、根本的に異なっている。
 そのような判断をした根拠として控訴審判決は、「後記第4章第6で説示するとおり」と指摘している。「後記第4章第6」の部分は一審判決の268頁から272頁までの「第6伝道・教化活動の活動主体に関する被告の主張について」と題されているところである。控訴審判決はこの部分については、一審判決の誤字を1字指摘するのみで、全文変更することなく採用している。
 一審判決はその部分で、連絡協議会又は信徒会について「宗教団体である被告の組織とは別個独立に、連絡協議会又は信徒会という信徒団体が組織されていたとは到底認めることができず、被告が連絡協議会または信徒会として主張する組織は被告の一部を構成するものであって、第1章及び第2章において認定した信者の活動は、すべて被告の宗教活動として行われていた事実を左右すべき事情は何ら見当たらない。」と判示している(一審判決 272頁)。
 一審判決はその判断に至った理由として、@「連絡協議会が活動主体として対外的に表示されるのが自然であると考えられる場面において、実体不明の団体名が主体として現れている」こと、A神奈川統一運動史に関して「同冊子には、被告(統一協会)と連絡協議会・信徒会各々の部署や構成員が混在して記載されており、むしろ両者が同一組織であることを推認させる内容となっている」こと、B統一協会申請の証人として出廷した信者達が、そろって、自分が献身して活動している団体の正式名称を知らないというのはあまりに不自然であること等をあげている。
 以上の@〜Bの理由はいずれも連絡協議会や信徒会が存在しないことを示している。従って、「被告が連絡協議会又は信徒会として主張する組織は被告の一部を構成するものであって」という一審判決の認定は、連絡協議会又は信徒会が実在するのではなく、それらは被告が主張するだけで、現実にはそのような組織は存在していないという認定を示しているものなのである。
 以上のとおり、連絡協議会又は信徒会を統一協会の一部として、その存在を認めた控訴審判決の不当性は明らかである。連絡協議会が統一協会の一部であると言うのであれば、全国組織である連絡協議会の中央本部と統一協会本部との上下関係等について説明をしなければならないであろうし、ひとつの宗教団体の中に、上部から下部まで、とりわけ最上層部にまで、信徒団体がその宗教団体の一部として組織されていることの理由を説明しなければならないだろう。そのようなものであれば、当然統一協会の規約にも記載されていなければならないだろう。存在を示す何らかの文書がなければならない。ところがそのようなものは一切何も証拠として提出されていない。
 連絡協議会について、提出された証拠が第2陣訴訟よりも少なかった第1陣訴訟判決でも、「その存在自体極めて疑わしい」と判断しているのである。
 又、信徒会は統一協会の教域に対応して個別に組織されている、それは上部組織も下部組織も持たないものであると統一協会によって主張されている。信徒会の活動は伝道と経済、即ち、統一協会が救いのためと教えていることである。信徒会の組織以外に、具体性ある統一協会の教域の組織を、統一協会は何一つ立証できていない。従って、信徒会は実在せず、統一協会の教域の組織に訴訟対策上、信徒会という名前をつけて、別組織であると装っただけのものなのである。
 以上の事実は、普通の判断力を持っている者であれば、無理なく認定できるレベルにまで証拠は集積され、主張は尽くされていたと私は思い、その旨の主張もしていた。したがって、この点の認定をわざわざ後退させた控訴審裁判所の事実認定能力に、私としては、重大な疑問を抱かないわけにはいかない。

(2) 世界基督教統一神霊教会と認定
 一審判決の「第3章 原告らの入信及び脱会の経緯」は102頁から240頁まで138頁ある。そこで技術的な訂正を除いた意味ある訂正としては、原告らがライフトレーニングの最終の頃に、ビデオセンターからの教育課程を主催していたのは世界基督教統一神霊協会であると開示されたという認定に関するものがある。一審判決はその部分全てについて世界基督教統一神霊協会と開示されたと、当然の認定をしているのだが、控訴審判決はそれを全て世界基督教統一神霊教会に訂正しているのである。控訴人(被告)の正式名称は世界基督教統一神霊協会であり、判決の当事者目録にそう記載しているのに、ライフトレーニングの場では「教会」と開示されたという認定をしているのである。立証の過程で原告らはもちろん「協会」と開示されたと主張しているし、被告の申請した証人たちもこの部分について「教会」であるという証言を一切していないと記憶している。そもそも争点になっている記憶がない。
 従って、この訂正は、全く意味と根拠がわからない。この点の確認のために記録を全部チェックしてはいないから、断定はできないのだが、私にとっては、凡ミスによる誤った訂正と考える以外ないものである。

(3) 一審判決の優れた部分を削り、並の判決に変えた
 多くの変更があるのが「第4章 被告の損害賠償責任」の項である。これは一審判決の240頁から301頁まで61頁あって、一審判決の最も大きな特色と、群を抜いて優れた分析を示している部分である。控訴審判決によってどのように変えられたのかを端的に言えば、違法性の判断基準を平成13年6月に言い渡された青春を返せ訴訟札幌第1陣訴訟判決及びその後に言い渡された各地の青春を返せ訴訟判決のレベルに戻したということであろう。

ア 一審判決の違法性判断基準を削除
 一審判決は、「第4章 被告の損害賠償責任」のうちの「第1 宗教活動の自由の限界」の項で、統一協会の信仰が神秘に帰依するものであり、宗教的権威に自らを隷従させるという本質を持っていることを解明し、そのような本質を持っている宗教が布教活動を行うこと自体は信仰の自由によって保護されているが、他方、日本国憲法が個人の自由や幸福追求の権利を尊重し、何人も故なき奴隷的拘束を受けないことを保証していることは様々な法律解釈の根本理念となっているとして、神秘に帰依し、教義に隷属するとの選択は、あくまで個人の自由な意志決定によらなければならない、という原則を導き出している。その部分(一審判決 240頁から242頁)が全て抹消された。
 抹消した部分に控訴審判決が挿入してきたものが、「宗教活動が利益獲得等の不当な目的に基づく場合、あるいはその方法が、宗教団体であることを殊更に秘して勧誘し、いたずらに害悪を告知して相手方の不安をあおり困惑させるなど、相手方の自由意思を制約する不当なものである場合、さらに、その結果が、相手方の資産等に比して不当に高額な財産の出捐をさせる場合など、その目的、方法、結果が社会通念上相当な範囲を超える場合には、もはや正当な行為とはいえず、違法であり、不法行為が成立するというべきである。」という従来からの認定基準である。
 そのような基準に戻しているのだが、控訴審判決は一審判決が第2章で認定した統一協会の信者による伝道・教化活動について、実質何の変更も加えていないし、それらを基礎に一審判決が抽出した統一協会の伝道・教化活動の4つの特徴、@伝道における宗教性の秘匿、A入信後の宗教的実践内容の秘匿、B教化活動における隔離、C実践の不足が信仰の怠りとする教化活動については、ほとんどそのまま一審判決の認定を踏襲している(一審判決 242頁 第4章第2統一協会の伝道・教化活動の特徴)。
 一審判決は、上記4つの特徴をそのまま、統一協会の伝道・教化活動の違法性判断基準として用いているのだが(一審判決 256頁 第4章第4統一協会の信者の伝道・教化活動の違法性)、その部分が全て削除された。
 私自身の考え方としては、宗教団体の勧誘活動の違法性の判断基準は、目的、手段、結果が社会的相当性の範囲にあるかどうかとすることに賛成だが、一審判決の4つの基準は、手段の違法性についての判断基準を深化させたものであると考えていたので、その全てを削除してしまう控訴審判決の考え方には、全然納得できない。一審判決の基準が、組織に隷従させる他のカルト集団の勧誘活動に適用できる広い可能性を持っていただけに、まことに残念である。この点に関しては、控訴審判決による削除にかかわらず、一審判決の判示は生きており、今後の訴訟で主張・立証を継続することが必要だと思われる。

イ 正体を隠して勧誘することが許されない理由
 宗教団体の布教活動であることをいつの時点で明らかにするかは、信教の自由の範囲内のことだという統一協会の弁明に対して一審判決は、「宗教性を秘匿して人に信仰を植え付ける行為は、自由な選択に基づかない隷属を招くおそれが強い。特に、統一協会の場合、入信後の宗教的活動が極めて特異で収奪的なものであるから、宗教性の秘匿は許容し難いといわざるをえない。」と判示している。それに対して、控訴審判決は「統一協会による伝道が善意の下に行われているとすれば、そもそも、その教義を秘匿すべき必要性や合理性はないはずである。しかも、前記認定のとおり、統一協会による伝道は、単に宗教の伝道であることを消極的に秘匿するだけではなく、被控訴人らから、宗教活動ではないのかなどと尋ねられた際には、これを明確に否定し、あるいは巧妙にはぐらかすのであり、かかる態様の伝道が許されるものということはできない。」という認定に変えている。この認定は第1陣訴訟の控訴審判決に類似する内容である。この判示は正しいものではあるが・・・。ここでも一審判決の分析の鋭さは失われてしまっているといえる。

(4) その他の論点
ア 因縁は教義に含まれるか
 控訴審における大きな争点の一つとして、統一協会の教義に、因縁が含まれるかという点があった。というのは、第1陣訴訟の判決でも、統一協会の教義には因縁という概念はなく、罪の概念をわかりやすく説明するのに留まるものであるとの認定がされていた。これは誤った認定であると私は思うが、一審判決は、それをそのまま第2章で認定しつつ、第4章では、統一協会の教義には因縁が含まれると明確に述べているという矛盾があった。
 統一協会は控訴審でそのことを指摘してきたので、私は、統一協会の布教課程を詳細に分析し、受講ノートによって統一協会の布教課程では因縁が教義として教えられていること、清平で行われている役事や修練会は教義に基づいて行われている(と統一協会が主張している)が、そこでは因縁がまさしくテーマであること等を主張した。詳細な証拠に基づいているので、統一協会の教義に因縁が含まれるという認定が当然されると思ったのだが、控訴審判決はその認定をせず、「統一協会の伝道活動において先祖の罪は因縁として子孫に受け継がれると説明されている」という認定で片付けてしまった。
 この点からも、控訴審裁判所の事実認定能力に、私としては、重大な疑問を抱かざるを得ないのである。

イ 近親者原告について
 控訴審判決は、近親者原告(統一協会員となった原告らの両親、兄弟姉妹、友人等)の請求を全て棄却した。その棄却の理由は「近親者被控訴人らに対して、伝道・教化活動等を行っているものではなく、したがって、その自由な意思決定を阻害し、罪の清算や万物復帰の実践のために、献金をしたり、費用を支払ったり、物品を購入したりするという心理状態にさせた上で上記献金等をさせたものとは認められない。」というのである。
私は、近親者原告に対する統一協会の、主に物品販売行為について、それが近親者原告に対する不法行為になるという詳細な主張をしているのだが、それについては「社会通念上相当な範囲を超えた違法行為であるということはできない」という判示だけであった。もっとも、この点については、私は近親者原告を本人として尋問の申請をしていない。統一協会員に対する不法行為を認めさせるのに力を尽くさざるを得なかった状況の故に、私の立証活動が不十分であったことを認めないわけにはいかない。主張はしたが立証が十分ではなかったということである。
このことを独自に立証するような訴訟になった場合、裁判所が同じ判断をするかどうかはわからないと思っている。統一協会の、近親者原告からも金銭を収奪する行為が許されることだとは、やはり、私には思えないのである。十分な主張立証を前提にしても、このようなことを許されると考える裁判官がいることを、私としては信じたくないのである。

ウ 時効について
 控訴審判決は短期消滅時効が成立するとして、3人の統一協会員原告について、その請求を全て棄却した。脱会後3年以上経った後に訴訟を提起した原告は、統一協会員原告40名(1名、布教課程の者を含む)中38名になる(請求を棄却された3名を含む)。脱会時が時効の起算点であるということになれば、これらの原告全員について短期消滅時効の成立が認められた。その点については、「一般に、宗教団体の信者は,その団体の活動に疑問を抱いて脱会した後であっても、自らに対する信者の伝道・教化活動等が違法であって不法行為が成立し、入教関係費等の損害が発生していると認識することは極めて困難であるというべきであ」るから、38名の原告について、「損害及び加害者を知った時点は、特段の事情のない限り,多数の元信者について控訴人の使用者責任を認めた前回(第1陣)訴訟の判決確定時である平成15年10月10日と認めるのが相当である。」という判断になった。
 その上で、第1陣訴訟において、私の依頼によって証人になってくれた2人、詳細な陳述書を書いてくれた1人の合計3名について、損害及び加害者を知っていたことについて特段の事情があると認定し、時効の成立を認めたのである。その理由は、私から訴訟の内容の説明を当然受けていたであろうということと、証言や、陳述書で、統一協会による被害を受けた旨を述べている等ということである。
 しかし、この点は極めて不当な認定と言わざるを得ない。第1陣訴訟は、いわゆるパイオニア訴訟であり、統一協会の布教・教化活動が、勧誘をされる人に対する不法行為になるという認定を獲得することを目的にした訴訟であった。訴訟提起後に脱会した等の事情で、その訴訟に原告として参加せず、証人等としてその訴訟の勝利のために貢献した人の請求が、その貢献の故に認められないということになってしまったのである。
 当時、全国各地の青春を返せ訴訟は負けている、或いは和解で終結しているという状況であり、私はその人達に原告として裁判を行うことを提起をすることはできなかった。しかし、パイオニア訴訟で勝訴するためにその人たちの協力は不可欠であった。その時に私が言ったのは、この裁判に協力してほしい、そして力を合わせてこの裁判で勝利しよう、勝訴した判決を土台にしてあなたの請求をきっちりと獲得していこうということであった。
 そのような提起の仕方が当時可能な唯一の責任あるものであったと私は現在でも信じている。その場合に短期消滅時効が完成すると認定した控訴審判決は、このような訴訟における被害者に重大な困難を強いるものであって、まことに不当なものと言わないわけにはいかない。

3 控訴審判決の影響について

 控訴審判決が、元統一協会員が青春を返せ方式によって、統一協会に対して損害賠償請求することに悪影響を及ぼすことはない。

@ 連絡協議会を実在するものと認定しても、それは統一協会の一部であると判断しているのだから、連絡協議会の活動=統一協会の活動であり、統一協会は元信者に直接的責任を負うことになる。

A 一審判決の優れた部分を並の判決に変えられたところについては、私達が今後も一審判決の優れたところを主張していけばいいだけのことである。一審判決を理解してもらうためには我々の努力が必要だということが示されただけである。

B 因縁を教義として認めていないが、布教・教化課程で因縁が説明されていることは認めている。そうであれば、教義にもないことを利用して恐怖を煽っているということになるのだから、統一協会の布教・教化課程の悪質性を指摘する根拠となる。

C 短期消滅時効については、現在では、脱会後3年以内に訴訟提起が可能であるから、この認定による不利益は全く発生しない。

以上 



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