札幌弁護士会 弁護士 郷路征記

利息制限法違反の貸付、過払後の回収は不法行為
(すべて本からの引用です。表題等は郷路がつけました。)

1 目的
(1)基本姿勢
ア 金は腐らん。在庫なし、金が金を生むぼろい商売
 金融業の商品は金だけや。在庫を気にする必要もないし、いつまでにさばかないとだめになってしまうという期限もない。食品と違って売れ残っても腐らん。作った商品を保管しておく倉庫もいらん。金融業は金が金を生むぼろい商売なんや。うちは中小の金融会社と違って、資金調達がうまくいってるから、いくらでも貸す金は用意できる。だから、良質な客をみつけ良質な不動産を見つけ、ばんばん金を貸すんや。そうすれば自然と金が金を生む。どんどん利益は上がる(サラ金トップセールスマン物語 108頁)

イ 客は生かさず殺さず
 サラ金というのは実に単純な商売をしている。貸したお金に利息をかけ、それを受け取って、利益とする。つまり、貸したお金をすべて返されることは、利益の源泉となるものを失ってしまうことを意味し、サラ金にとっては好ましくないことになる。
・・・・・
 金融庁の事務ガイドラインでは、「返済拒否等により債務額の維持を図ることはしてはいけない」と記されており、「完済止め」という行為は明らかにそのガイドラインに違反することになるのだが、どの店もキャッシング達成率を維持するためには背に腹は代えられず、これを回避するためにあらゆる努力を傾けることになる。
・・・・
 「とりあえず50万円だけは受け取りますから、あとの50万円の枠だけは残してもらえませんか?のちのち御入用のこともあるかもしれませんので、50万円はそのままおもちください」
 カウンターの女性社員は、都合のいい言葉を次から次へと並べ立て、引き続きお客さんから利息を受け取れるように仕向けていくのだ(実録「取り立て屋」稼業 46〜47頁)
・・・・・
 サラ金にとっても金科玉条は、ずばり「客を生かさず殺さず」である。できるだけ多く貸し、完済を食らうのを抑制しながら利息入金だけをしっかりしてもらう。これがサラ金にとっての至上命題といえる(実録「取り立て屋」稼業 49頁)。

ウ 客はゾウキンだ。
 部長の演説のなかで特に印象に残っているのが、客をゾウキンにたとえた話だ。
 「簡単に融資を諦めたらいかん。客は言ってみればゾウキンのようなもんや。乾いたように見えるゾウキンでもな、キツくしぼればまだまだ水は出てくるもんや。ゾウキンに一滴でも水分が残っとるんやったら、一滴分だけ金を貸して、その分、搾り取るんやで」最後の一滴まで客から金を搾り取る。それが金融屋ということだ(金融屋 60〜61頁)。

(2)サラ金利用者はクレジット利用済みが多いのに、その債務が把握できない
ア クレジットカードで金銭感覚麻痺・キャッシングが債務負担を加重・不意の出費でジ・エンド
 たいして金遣いも荒くなく、普通に生活を送っている人が陥る可能性がもっとも高いのが、クレジットカード地獄である。クレジットカードを使って買い物すると、急に偉くなったような、そしてスマートで格好いい感じもするが、このトンデモない勘違いから地獄に落ちていく人間がいかに多いことか。しかもこのパターンの場合は、特に若い女性の多重債務者が目立つのである。
 若い女性で気をつけたいのが、百貨店系クレジットカードだ。洋服、アクセサリー、バッグなど、巷は若い女性の消費意欲を煽る商品であふれかえっている。流行の移り変わりも激しく、少し前のファッションをしていようものなら馬鹿にされるとの思いから、次々と新しい商品を買ってしまう。
 そんな時、手持ちに現金がなくてもボーナスや次の給料をあてにして、簡単にクレジットカードでショッピングローンを組んでしまう。軽いネーミングに流されてしまいがちだが、ショッピングカードローンの利率は10%以上、カード会社はボロもうけである。たった数日か、数週間、現金が入ってくるのを待てないという理由だけで1割もの利息を取られれば、じわじわと生活が苦しくなるのは時間の問題だ。
 クレジットカードは金銭感覚を麻痺させ、借金漬けを習慣化させる。支払いを続ければ、カード会社からいいカモと認定され、ショッピングローン枠が勝手に拡大する。それを自分のステイタスが上がったと勘違いして、使う金額がエスカレートしていく。
 もうこうなると、突然の出費が発生した途端に、ジ・エンドである。
 病気、結婚式や葬式といった冠婚葬祭の費用、転職、引越し、ボーナスの見込み違いなどなど、計算外の事態が訪れると、たちまちショッピングローンの返済が滞るようになる。そうするとどうなるか。クレジットカードのキャッシングで返すようになるのだ。
 言っておくが、クレジットカードのキャッシングほど、えげつない商売はない。サラ金が高金利だと批判されるが、サラ金と同じくらいの暴利をむさぼっているのがクレジットカードローンなのである。利率は多くの場合、20%以上、サラ金並みの高金利だ。10%のショッピングローンを返すために、20%の利率で借金をする。これで借金は3割方、膨れ上がる計算だ。
 利率10%の借金が返せないのに、さらに高利の借金をすれば、またまた返せなくなるに決まっている。今度はキャッシングの返済ができなくなるから、別のカードを作って、そこでキャッシングして返すようになる。こういうことを繰り返していくと、そのうちカード会社から借りられなくなるので、次はサラ金に手を出す。サラ金にとってみれば、若い女性は回収が見込めるいい客だから、バンバン貸し出す。気がついたときには、身動きが取れないほど莫大な借金を背負わされている。多分、自分のために使ったのは最初の数十万円程度で、あとの数百万円はすべて借金を返すために使ってしまったのではないだろうか(金融屋 32〜33頁)。

イ ロールオーバーしてボーナスでつじつま合わせ・収入減
 手取り月額で約20万円、もともと社交的で、職場の仲間や取引先から飲み会に誘われると、できるだけ参加するよう心がけていたという・
 東京でもそうしていたように、Wさんは月々の足りなくなった分の小遣いを主にクレジットカードのキャッシングでやりくりしていた。キャッシングというのは、麻薬そっくりだとWさんは力説する。仮に「毎月15日締め、25日払い」のクレジットカードを利用した場合、”締め日”の翌日には、新しくキャッシング枠ができる。そうやって毎月を借越していき、最後はボーナスでつじつまを合わせる。いわゆるロール・オーバーを繰り返していた。
 ところが大阪に転勤したこともあって、つい交際費がかさみ、気がつくとクレジットの利用枠も目一杯使いきっていた。
 仕方なくWさんは、大阪駅前ビルのアコムの無人店舗を訪れた。一昨年の夏、ボーナス前の頃のことらしい。
 「最初はサラ金からカネを借りるという状況に尻ごみしてしまい、店の前を行ったり来たりして、うろうろしていました。で、ようやくハラをきめ、専用ATMの前に座ったんです。最初は30万円を借りるつもりでした。でも、与信の審査をしてもらったところ、50万円の枠が用意できると言われて……、年利は29パーセント。少し迷いましたが、ボーナスで精算するつもりで、その50万円をそっくり借りたんです」
 いざ、まとまったキャッシュを手にすると、気持ちが大きくなるのが人間だ。Wさんもそのご多分に漏れず、それまで控えていたちょっとした買い物をしたり、外食を増やしたりしたため、また出費がかさんだ。そして借りた50万円は、ひと月でものの見事になくなった。
 Wさんは次に信販会社のローンを申し込み、100万円を借りた。年利は20パーセント。月々の返済だけで、すでに26万円が消えていったが、まだ何とかなると甘く考えていたという。
 もちろん自分なりに出費を抑えるようには努めていた。
 だが、ほどなくレイクからも30万円を借りた。もうこの時点で、月々の決済に追われて完全に首がまわらなくなっていた。
 困り果てたWさんは、消費者金融としては3件目となるアイフルを訪れる。
 アイフルでは有人カウンターの方へまわされ、女性2人が応対した。
 規定の用紙に必要事項を書きこみ、10万円の貸付けを申し込むと、その場で了承されたという。借りた10万円はすぐに返済にまわされ、右から左へと消えていった(下流喰い 92〜93頁)。

ウ 三業界で情報の共有がない
 多重債務者が増える原因の最も大きな一つで、未だ改善されていないのが、これである。三業界でいくら借りているかという情報を共有しないことだ。
 たとえば同じサラ金業界同士なら、どこでいくら借りているか、申し込みの際にわかる。武富士から50万円、アコムから30万円つまんでるなと。ところが、信販系、銀行系からいくら借り入れしているかはまったくわからない。だからいつまでたっても多重債務者が増えてしまうのだ。
 業界同士が互いに反目しあい、情報をいつまでたっても共有しない。唯一ブラック情報だけは互いに照会しあえるが、たとえばクレジットカードで300万円もの借金があっても、返済に遅れがなく、サラ金で1社も借りていなければ、お客さんが本当のことを言わない限り、サラ金は300万円の借金があることがわからず、借金が1円もない優良顧客と判断してしまう。
 こんな業界の縄張り意識のせいで、多重債務者が増え、過酷な取り立てをせざるを得ない温床になっている(アイフル元社員の激白 121頁)。

(3)貸付けの態様から推認される目的
ア 精密なスコアリングシステムの非人間性
(ア)スコアリングシステム

 そのシステムの名は、スコアリングシステム。サラ金の繁栄を支える秘密兵器である。スコアリングシステムの使い方はこうだ。
 まず、借金希望者に年齢、性別、職業、年収などで構成された十数項目の質問に答えてもらう。回答が終わったら、各項目をコンピューターに入力する。すると瞬時に客の借入能力を数値化したスコアと呼ばれるものが算出され、貸し出し可能な金額をコンピューターが答えてくれる。融資担当者は、その結果をもとに融資をするだけでいい(金融屋 106頁)。

(イ)サラ金が培ってきたノウハウが集約されている
 街金はこのシステムを携え、全国にチェーン展開をはじめた。数多くのサンプルを得たことでシステムの精度はますます上昇し、街金のふところに入る金は莫大になる。ここまでくれば、もはや街金の呼称はふさわしくない。大手消費者金融、その誕生の瞬間だ。
 スコアリングシステムはいわばサラ金の頭脳である。
 これまでサラ金が培ってきた過去のノウハウがすべて集約されており、さまざまな要因を高度に分析し、綿密な融資額を割り出している(金融屋 107頁)。

(ウ)若い女性に多く金が貸されている。
 いま私の手元に、JCFA金銭管理カウンセリング事業団がまとめた「多重債務者の平均像」という資料がある。その資料によると、
@多重債務者の借入目的の筆頭は「生活費補填」で、女性の割合が高い。一般に女性は男性に較べて年収は低いうえに、債務件数も男性を上回る傾向がある。
A年収の平均は現在240万円で、借入時よりも20万円程度減収している。
B債務件数は8件で、現在の債務残高は約335万円。
Cひと月あたりの返済額は14万円(下流喰い 90〜91頁)。

(エ)無職でも若い女は保証人価値があるんや
 「あの、もし連帯保証人とかっていわれた場合、あてはありますか?」
 「働いてないけど妻ならいいですけど。もう少ししたらパートはじめる予定なんですけど」
 そこで店長に相談してみた。
 「いいよ。できれば勤め人の方がありがたいけど、奥さんが入れば督促しやすいし。取れるものはすべて取りましょう。奥さんも保証人になれば別れることもできなくなるだろうしね」
・・・・・
 「いざとなったら男なんかより女の方が稼げるから」今、収入がなくとも若い女性ならそれだけで返済能力があるということか。もし返せなくなったら、奥さんが一番苦しむのだろうな(サラ金トップセールスマン物語 168〜169頁)。

(オ)体という担保を持っている
 サラ金から強要することはないが、支払いができなくなった際、そのような場所で働き始めるのはよくあることだ。若い女性ほど、サラ金にとっていい客はいない。この客もエゲツない言い方だが、マンションのほかに、体という担保を持っている。ある意味では二重に保全が効いているのである(金融屋 132頁)。

(カ)紹介業者がフロに沈める分にはサラ金は関係ない
 「それにしても女はバカですよ。きっと『名義だけ貸してくれれば、俺が払うから問題ない』なんて言ってハンコつかせたんでしょうけど、まあ時間の問題ですね。支払いが遅れたらうちに連絡ください。そちらに迷惑をかけないよう、フロに沈める役はこっちでやりますんで」
 うちは大手サラ金という立場上、こうしたこととは表面的に関わらないようにしている。
 紹介業者がやる分にはうちには関係がない。紹介業者も、自社で融資した客に風俗で働くことを強要すれば問題になるが、今回はあくまで紹介しただけの客である。脅迫的な手段に訴えない限り、別になにを言おうが、法律的には問題ないわけだ(金融屋 133頁)。

(キ)いざとなったら水商売で稼げる
 銀行やノンバンクが相手にしないBさんのような属性の人でも、サラ金にとっては実にいい客だ。その理由は3つある。
@家は現金一括で購入したため他に借金がない
Aまだ若い女性なのでいざとなったら水商売で稼げる
B1000万円の不動産評価に対して融資額は350万円なのでリスクが低い
 勤続年数も給与も関係がない。たかだか350万円ぐらいならまずとりっぱぐれがないという判断だ。
 こんないい客はめったにいない。その証拠に店長や審査部から「もっと貸せ」「500万円でもすぐに決裁を出せる」と強烈なプレッシャーがかかってきた(金融屋 148〜149頁)。

(ク)返済の為に風俗で
 典型的な買い物依存症だ。他社も合わせて、計280万円の借金を抱えていた。
 返済困難に陥った月は一切携帯電話にも出ないし、通知督促にも応じない。彼女は中堅専門商社でOLをしていたので、応答を得られないときには勤務先に電話するほかなかった。
 「勤務先には連絡してこないでください。きちんとお支払いしますから」
 「では、いつお支払いしていただけるんですか?」
 「それは……」
 Eさんは言葉を詰まらせている。
 「返済について真剣にお考えいただけないのでしたら仕方がないですね。あなたの給料を差押えさせていただきます」
 そこまでやるつもりはなかったが、懲らしめるために少し脅してみた。
 「それは困ります!会社にバレたらクビになってしまいます。近日中に何とかお金を作りますから」
 Eさんは今にも泣きそうだった。
 「でしたらEさん、どうやってお金を工面されるのですか?あたなたの給料では返済できないでしょう?」
 すると、Eさんは驚くようなことを口にした。
 「実は、OLのほかに夜の仕事もしています」
 「何のお仕事ですか?」
 夜の仕事と聞いて、これも下世話な好奇心が湧いてきて、思わず尋ねてしまう。
 「それは……」
 「きちんとお話していただけないのでしたら、法的手続きに入ります」
 こちらもしつこく嫌がらせをする。
 「風俗です。渋谷のファッション・ヘルスで働いています」
 「今週末にいくらかお金が入るので、それまで待ってください」
 彼女が風俗で働いているとわかった途端、さらなる興味が出てきてしまった。借金返済のために風俗で働いている女性は多いのだ(実録「取り立て屋」稼業 105〜107頁)。

イ 貸付け方法の特徴
(ア) サラ金CMは青少年をターゲット

 CMの多くは、若者へのアピールを中心に宣伝効果をあげるよう親しみやすく制作されており、音楽は幼児が覚えて口ずさむほどリズミカルに作られている。こうした点から、これらのCMによって青少年が容易に影響を受けるのではないかと懸念される。
 なお、新規顧客に関する統計は、20代の若者が約半数(45.6%)を占めていることを示している(出典:消費者金融連絡会2002年3月期)。(消費者法ニュース55号 45頁)

(イ) 無人機・清潔な店内・美人な女の子・銀行と変わらない
 無担保ローン店に僕ははじめて入った。お店の脇には無人貸出機「ナルシスくん」が置いてあった。そりゃ、みんな無人機の方が抵抗なく借りれるよな。しかし店に入ると驚いた。後ろ暗さはなく、「サラ金」というイメージもない。銀行の窓口みたいなのである。自分の会社の店に入って驚くというのもなんだが、全然サラ金という感じがしないのだ。
 カウンターには二十代のかわいい女の子が並び、お客さんの相手をしている。脇にはドリンク入れが置いてあり、そこからジュースやコーヒーなど、自由にお客さんはもらえるようになっている。カウンター席以外にも待つための席があり、そこには雑誌や新聞がきれいに並べられている。店のあちこちにうちのキャラクターである「ナルシスくん」グッズが置いてあり、サラ金というイメージには程遠い。ポスターにはうちの制服を着たかわいい女性が、「あなたのお手伝いをしてあげたいの」と言っている。これなら銀行と変わりない。違うのは外観と利率だけだ。(サラ金トップセールスマン物語 116〜117頁)

(ウ) 人間心理を研究したビジネス・それがサラ金
 昔のサラ金は良くも悪くも、やましさと背中合わせだった。だからこそ、それが借金の歯止めになっていたともいえる。怖そうなサラ金から借りるなんて、とためらう気持ちが抑止力になっていたのだ。
 ところが、いまやサラ金は借金癖のある人々にとって、恥も後ろ暗さとも無縁の気分よく金を借りられる場所に変わった。だから、徐々に金銭感覚が麻痺して、借金漬けの罠にはまり込んでいくのである。
 実際にサラ金の店舗に行ってみれば分かるが、そこはまるで銀行のような場所である。
カウンターには若く美しい女性が、揃いの制服を着て並んでいる。待合スペースには何冊もの雑誌が整然と置かれ、カウンター脇にある冷蔵庫の缶ジュースは自由に飲んでいいことになっている。そこは、もう銀行そのものなのである。
 ただ唯一違うのは、金利が桁違いに高いということだ。銀行のように見えても、金利はその数倍、このギャップに気がつかないと、銀行気分で借りたが最後、多額の利息負担に押しつぶされることになる。
 人間心理をよく研究したビジネス、それがサラ金なのである(金融屋 80〜81頁)。

(エ) いい客には目一杯借りさせる
 銀行やノンバンクが相手にしないBさんのような属性の人でも、サラ金にとっては実にいい客だ。・・・
 勤続年数も給与も関係がない。たかだか350万円ぐらいならまずとりっばぐれがないという判断だ。
 こんないい客はめったにいない。その証拠に店長や審査部から「もっと貸せ」「500万円でもすぐに決裁を出せる」と強烈なプレッシャーがかかってきた。
 サラ金には部、店、個人ごとに融資額のノルマがある。できるだけ融資額を伸ばすことが営業成績につながり、それが会社の利益の源に、そして出世の原動力になる。そのために目一杯貸したいのはやまやまなのだが、実際に店舗にくる客は属性が悪く、ろくな不動産も持っていないので、どうしても貸せる額は少ない。だから、Bさんのような優良顧客がくると、もっと貸せ、もっと貸せと圧力がかかる。営業成績を伸ばす、またとないチャンスだからだ。
 もちろん、私にとっても悪い話ではない。そこでBさんに提案してみることにした。
 「おめでとうございます。いま審査部の決裁が出て、500万円までならお貸しすることができます。どうです、350万円でなく、500万円で契約しませんか」
 Bさんはきっぱりと言った。
 「必要な分しかいりません。借金が増えたら生活が苦しくなるだけですから」
 私は驚いて目を丸くした。今まで増額融資の提案を断られたことはなかった。借金をする者は1円でも多く借りたいと思うのが常だからだ(金融屋 148〜149頁)。

(オ) カモリスト
 お客さんのなかには給料前の急な出費のために、短期の借入をする人たちもいる。こうした人たちは、利息がかさむ前に返済してしまうので、サラ金にとってはうまみのあるお客さんではない。
 ところが、そうしたお客さんでも一度サラ金からお金を借りてしまうと取引履歴が残り、その人の名前は‘カモリスト’に記録されてしまう。普段なら、あまりうまみのないお客さんということになるのだが、月末になってもキャッシング達成率がクリアできていない場合は、こうした‘カモ’も決してないがしろにはできない存在となる。そこで、取引履歴のある‘カモ’にも片っ端から営業をかけていった(実録「取り立て屋」稼業 51頁)。

(カ) 再融資や追加融資の営業電話
 サラ金の主な営業活動は再融資や追加融資の営業電話です。
 完済後、しばらく融資のなかったお客様や、返済が進んできてだいぶ融資枠に余裕ができてきたお客様、取引が長くなったので信用があがって融資枠が広がったり利率が下がったりしたお客様に、社員の個人名で営業の電話を入れるのです。
・・・・
 お金に困っている人は本当に本当に困っているので、枠が空けば1万でも2万でも余分に借りたいのが人情?らしいのです(サラ金嬢のないしょ話 67〜68頁)。
・・・・
 支店業務のサラ金嬢は管理(取り立て)成績より営業成績のほうをより厳しく締め付けられていることが多いです。結果、何とか貸そうと、あの手この手で営業します。それはそうでしょう。お金のない人間、逃げ回っている人間から無理やり取り立てるより、お金に困っている人間、お金が欲しくてたまらない人間に融資するほうがよっぽど簡単です。目標(実はノルマ)が厳しければ、融資枠があと一万でも二万でも営業電話をかけまくります(サラ金嬢のないしょ話 70頁)。
・・・
 こんな風に、営業電話でご融資のお約束をいただくと、ものすごく嬉しいです。でも時折、冷静になってサラ金嬢としてでなく、個人として考えると、何だか怖いような気持ちになります。
 自分が営業しておいてこんなことをいえた義理ではないですが、義理で借りるお客様も、嬉々として借りるお客様も、サラ金と長くつきあいのあるお客様は、常に過剰融資です。延々と高い利息を払わされている状態に慣れすぎている彼らは、この長い借金生活から抜け出そうという気持ちもなくなっているのではないでしょうか。払わされる高い利子よりも、目先の、今貸してもらえる一万円、二万円が嬉しくて仕方ないのです(サラ金嬢のないしょ話 71頁)。

(キ) 押し貸しの方法
 印象深いのが、武富士でとくに際立っていたという「押し貸し」に関するくだりだった。「月末になると、きちんと返済している客に電話して、「50万円の枠でお貸ししておりますが、返済が順調に進んでいます。3万円の枠が残っていますので、振込み料は当方でもちますから、すぐにお振込みいたしましようか。どうか私の顔をたてると思って、お付き合いいただけませんかね」とプッシュする。だいたいの客は3万円とか5万円くらいなら、まァ、いいかってなるんですよ」
 その元従業員の男性は皮肉な笑いを浮かべ、さらに話を続けた。
「2回くらいきちんと返済してきた客には、次に来店したときに「あなたは優良なお客さんだから」と、ポンと100万円に増枠しちゃうこともある。で、その場で残りの50万円の現金を目の前に差し出して、「使われないのなら、すぐにATMで返してくださっても結構ですよ」と。だいたいの客は、その50万円を持って帰りましたね」(下流喰い 39頁)

(ク) 安易に借りさせ、後で痛い目に遭わせる
a 取立は纏めてセンターで
「無担保ローン店で大声張り上げていたら、客がビビって借りなくなっちゃうだろう。だから取り立てはまとめて取り立てセンターでやってるんだ。貸す時は若いおねーちゃんを窓口にさせ、その管理は若い男性店長がやり、取り立ては熟練の社員がやる。よくできてるよ」(サラ金トップセールスマン物語 116〜118頁)。

b 「金を貸すならエビス顔、取り立てするならエンマ顔」
 すでに紹介した、この道30年のベテラン金融屋、長島部長のお言葉だ。
 融資する際はにっこり微笑み、取り立ての際は鬼の形相で行なう。サラ金の真実をこれほど端的に物語っている言葉はない(金融屋 152頁)。

ウ 目一杯持たせて使わせて、借金を習慣化する
(ア)借金の常習化・習慣化
a 金はいくらあってもいい。だからコワイ
 金ってのは本当に恐い。なぜならいくらあってもいいからだ。たとえばいくら車好きでも100万台くれるといってもいらないというだろう。このように物欲にはある程度の限度がある。
 しかし、金欲には限度がない。10万円欲しい。100万円欲しい。1000万円欲しい。1億欲しい。10億欲しい……。金はいくらあっても困らない。みんなあればあっただけいくらでももらいたい。そこが金の最大の恐怖なのだ。
・・・・・
 借金しはじめたらキリがない。よほどしっかりした人以外は、ついつい金を借りる額が増えてくる。ほんのちょっとだけなら、という借金の誘惑が、後々取り返しのつかないことになる、はじめの一歩なのである(アイフル元社員の激白 59頁)。

b 借金には常習性が潜んでいる
 借金をしてしまうというのは、過食症とか浪費癖とかギャンブル依存症とか麻薬依存症とか、そういう病気とほぼ同じ症状が見られる。
 はまると抜けられない。しないではいられない。必要ないのにしなければ気がすまない。することでストレス発散になり、気分が良くなる。いつのまにかこれなしではやっていけなくなる。
 借金をする行為はこうした常習性が潜んでいる。こうしたデメリットを知らずに、気軽な気持ちで借りたが最後。どんどん深みにはまり、抜き差しならなくなってしまう(アイフル元社員の激白 54頁)。

c 軽い気持ちで手を出したらあっけなく借りられた。それが癖になる
 搾り出すようにして話す山岸さんを前にしながら、私は内心、よくある話だと思っていた。軽い気持ちで手を出したら、思いのほかあっけなく借りられた。だから、また困ったときには利用してみようと考える。最初は小額の借金だったとしても、何度か借りるうちに、感覚は麻痺していく。サラ金やクレジットカード会社が、あたかも無制限に引き出せる私設銀行であるかのように錯覚してしまうのである(金融屋 16〜17頁)。

(イ)サラ金の顧客層の弁済余力の分析
 貸金業者は銀行から借りられない層(従業員数30人以下の企業の従業員・年収200万から600万・武富士社内報「竹の子」174号14〜15頁、182号3頁)を顧客層と認識しています。貸金業者の顧客層の家計を総務省の統計(ホームページ)で見るならば、下から10分の1の一般の家計の月あたり平均可処分所得24万4375円(うち黒字は3万9721円)の層もしくは、下から5分の1(月平均可処分所得27万3241円、うち黒字は5万0464円)の層です。月4万〜5万を返済にあてることが、平均的家計(食費、住居費、光熱費、衣料費、保険医療費、通信交通費、教育費、教養娯楽費、理美容費、交際費)を圧迫しない限界であることが読みとれます(柴田昌彦消費者法ニュース63号46頁)。2003年版消費者金融白書によれば、消費者金融の利用者は平均約3社利用し、借入金額の平均は140万円とされ、「これだけで破綻を招く貸し過ぎ」と指摘されています(溝口敦「武富士 サラ金の帝王」)。高金利の負担は返し続ける中で生活を圧迫します(消費者法ニュース64号 118頁)。

(ウ)2〜3件以上の借入は元本の返済はできていない
 武富士では、社内教育で「お客様はきちっと回っているのは(借入先が)2件、3件まで(の場合)で、それ以上(の業者から借りている場合に)は、隔月毎の入金か利息のみの入金で回転させているんだ」と教えられます。仮に貸し付けの基準には合っていたとしても、モラルという観点から考えると、そんなギリギリの人に貸し付けたり、返せないと分かっている人に貸し付けてはいけないはずです。今がギリギリの人が、さらに借り入れて返せるわけがありません。
 ところが武富士は、情報センター件数(借り入れ件数)の多い人をめがけて電話していくのです。よそで借りていない人には、嫌われないようにあまり電話しないのです。「一度融資してお金を持たせると、今はいらなくても持っていれば使ってしまうから、出せるだけ目いっぱい出せ」と指示されていました(消費者法ニュース62号 13頁)。

(エ)自己申告だけで100万円を貸す
 武富士では1998年以降、年収証明書なしに客が自己申告した年収額だけで審査をして、100万円を貸し出すという暴挙に出た。結果として実際には100万円も年収がない人に100万円を貸すということになってしまった。当然こちらから、申し込みの書類に年収を××円と書けと具体的な金額を言えないので、「年収××万円以上じゃないとお貸しできません」と言ってから「年収はいくらですか?」と聞いて、書かせるのである。当然お金がほしい客はその金額を記入する。だから誰でも100万円を借りることができるのである(武富士の闇を暴く 88頁)。

(オ)国保の扶養者にも100万貸すという武富士の基準
◎マイプラン三の貸付基準について(27.375%)
現行基準に該当する顧客は−限度100万OKで新たに追加条件として
・取り引き2年〜5年未満は限度額〜80万
・取り引き5年以上は−限度額〜100万
・他社借入件数4件以内(社保・国保)
・勤務年数2カ月以上でOKとする。
◎国保の扶養は高額商品OKとする。
 また年収申告書は再度OKで高額商品OKとする。
 営業において、また、本部長にご心労をお掛け、会長決裁をいただいた!
(国保の扶養というのは、無職か、年収50万円から100万円未満のパート収入しかないと思われるが、それでも、高額商品(100万円)の融資が認められていることとなる。なんで、こんなに収入の少ない人に100万円も貸すの?と思っていたことの疑問が溶けた)(消費者法ニュース56号 90頁)。

(カ)ほとんどの借金は金利を返す為だけのもの
 サラ金から金を借りたことのない多くの人は、このような疑問を持つ。「なぜ、そんなに借金が増えてしまうのか理解できない」実は借金している本人ですら、よく分かっていないことが多い。実際に、私が担当して数百万の借金を借り換えさせた客が、改めて自分の契約金額を見て、ため息混じりにこう言ったことがある。
 「なんでこんなに借金が増えてしまったんでしょう?私はほとんど使っていないのに……」
 一度、クレジットカードやサラ金に手を出したが最後、借金は雪だるま式にあっという間に増えていく。この客のように、自分のために使ったのはほんのわずかで、ほとんどの借金は、他の借金を返すために借りたに過ぎないのである。金を返すためにまた借りるという自転車操業にひとたび陥ってしまったら、もがけばもがくほど沈むアリ地獄のように決して抜け出すことはできないのだ(金融屋 31頁)。

(キ)借金を借金で返すようになったら人間終わり。それがサラ金の客
 しかし、なぜスピードが重要なのだろうか。
 「それはな、借りにくる輩がみんな火の車やからや」
 「火の車?」
 「そうや。客はひいひいもんの借金抱えて、あちこちからバンバン取り立てを受けとる。一刻も早く返さないかんけどそれだけの収入がないもんやから、またどこかから金は引っ張ってこなあかん。借金を借金で返すようになったら人間も終わりやが、その終わった人間がサラ金の客なんや。だからな、スピード融資の特別サービス料として高い金利を請求しても、客は『ありがとうございました』とお礼を言うわけや」(金融屋 66〜67頁)

エ 自己破滅を加速し、その過程で収奪する
(ア)人間の暗部が肥大化することになると知りながら
 サラ金は、尋常ではない事情を抱えた人にお金を貸している場合が多い。なかには生活費の補填をするためにやむを得ずという人もいるが、目先の現金がほしい人だったり、そのほか、さまざまなトラブルを抱えている人が大多数なのだ。
 たとえば男性だったらギャンブルや女にはまっているケースが多く、それが原因で借金まみれになっている。女性の場合は、エステや買い物に浸かってしまった人をはじめ、マルチ、資格、ダイエット商法、ねずみ講などに引っかかった人が多い。悪質商法のなかには、契約者が支払いに詰まると、「サラ金で借りて来い」と脅迫まがいのことをするところもある。
 ホストに貢ぐために借りにくる人もいる。さらに、多重債務のためにすでに融資不可となっている内縁の夫や彼氏から、「おまえ、借りてこい」といわれてやってくる女性も多い。貢ぐことが男性に対する愛の証だと考える女性は、世の中にたくさん存在している。性別にかかわらず、薬物中毒者というお客さんも多い(実録「取り立て屋」稼業 30〜31頁)。

(イ) 客がギャンブルで身を持ち崩してもかまわない
a ギャンブル好きはサラ金にとってリピーター

 サラ金とギャンブルは切っても切れない関係だ。建前上、ギャンブル資金は貸さないことになっているが、サラ金のウリは資金使途自由。客が借りた金をどう使おうが私には分からない、というのが正直なところだ。それにギャンブルは借金と同じで、一度ハマると抜け出せない構造になっている。ギャンブル好きは、サラ金にとって高金利で何度も借りてくれるリピーターなのである(金融屋 143頁)。

b サラ金から借りること自体、まっとうな金なんてあり得ない
 建て前は「資金使途自由」。しかし審査部門は資金使途をしっかりチェックしている。「ギャンブルで借りたい」なんて当たり前だけど絶対にダメ。「政治資金で借ります」ってのも、絶対に審査は通らない。政治も選挙もギャンブルと変わらないからだ。
 かといって他に借金がないので借り換えともいえないケースもある。このような場合、上司から、資金使途を作文するようにと指示を受けた。
 「息子が社長をやっている会社が大変なことになっていて、そこに資金援助を行うため」・・・・
 みたいな、作文をよく作った。
 サラ金から金を借りること自体、まっとうな金なんてほぼあり得ないといっていいんだろな(アイフル元社員の激白 126〜127頁)。

(ウ) 客が死んでもかまわない
a 借金返す為に自殺する客はいる
 「まさかとは思いますが、客が死んだり、なんてことありませんよね」
・・・・・
 「入社したばかりの君に、こんな話をしてどうかと思うが、聞かれたんやから、まあ、しゃあない。自殺する客がおるかどうかって質問やと思うが、答えはイエス、借金返すために自殺する客はおるで」(金融屋 123頁)

b 金融屋にとって大事なのは、死んで返せと直接言わないことだけ
 「あのな、金を貸す側にしてみれば、死んで金返そうが、働いて金返そうが、一緒なんやで。ようは決められた契約にのっとって、決められた額をきちんと返してもらえれば、それがどんな金であろうと関係ないんや。金に色はついておらんのやから、働いて返した金がきれいとか、死んで返したから汚いなんて、そんなの知ったこっちゃない。サラ金にとってみれば、単なる数字でしかないんやから」
・・・・
 「金融屋にとって大事なのは、『死んで返せ』って直接言わんことだけや。借りたヤツが死ななきゃ返せないと勝手に死んだことに対して、サラ金が批判されるのはおかしな話やで。」(金融屋 125頁)

c 死んでくれると喜ぶ
 この保険が、リボルビング団信と呼ばれる「消費者信用団体生命保険」というもので、債務者が死亡すると債務をカバーしてくれるのだ。
 1週間後、娘さんから死亡診断書が届いた。死亡確認ができた瞬間に、私は「やった!」と声を上げ、「さんざん、悪態ついてきた奴から回収することができたぜ」と同僚たちに自慢した。同僚たちも「お前の粘り勝ちだよ」と賞賛の言葉を投げてくれた。
 死んだお客さんのことは班長に報告しなくてはならない。そのときの私は意気揚々と、「この人、死んじゃいました」と報告した。すると班長は、「おっ、やっとこいつくたばったか。やっぱり、人様にさんざん迷惑かけてきた奴は死ぬんだな。やったじゃないか、杉本。これで90万円回収だよ。90万は大きいぞ」と大喜びの様子だった。
 私は、死亡診断書と共に、「死亡」が明記された住民票と契約書、取引履歴を合わせて償却センターへ移管した。これでまた私たちのグループの回収率がアップしたのだった(実録「取り立て屋」稼業 128〜129頁)。

(エ) 客が犯罪を犯せば回収率があがる
 「お金がないのはあなたの都合でしょう。お金がないからといって返済できないというのは理由にはならないでしょう」
 月末の回収ノルマが達成できていなかった私は、かなり苛立っていた。
 「本当にお金がない。精いっぱいなんだ。食費もない」
 「じゃあ金策してください。それがあなたの務めでしょう」
 「もうあてがないんですよ」
 悪びれもせず、むしろ開き直った彼の態度に私はムカムカしていた。
 「Oさん、返済する意思があるのかないのか、はっきりしなさい」
 「じゃあ、どうすればいいんだ。強盗でもしないと金がないんだぞ」
 Oさんも段々興奮してきている。
 「Oさん、あなたに強盗をする勇気なんかあるわけないでしょう?」
 私は彼をからかい、そして挑発した。
 「わかったよ。今、強盗してくるから待ってろ!」
 彼の声は怒鳴り声になっている
 「どうぞどうぞ、ご自由に。Oさん、やれるもんならやってごらんなさいよ」
 私がこういうと、Oさんはガチャンと電話を切ってしまった。すぐに電話をかけ直し、さらなる追い込みをしようとするが、相手はもう電話に出てこない。それでもしつこく自宅にオートコールしつづけたが、何の応答もなかった。
 数日後のこと、何気なく新聞の社会面を読んでいると、なんとOさんがコンビニに強盗に入ったということが記事になっていた。私が最後にいい放ったセリフが、Oさんを強盗に走らせてしまったに違いないと感じ、このときばかりは罪悪感を抱かざるをえなかった。
 ところが、同じ班の同僚たちから、「お前の冷酷な捨てゼリフが実ったな。やったじゃないか、これで89万円分のノルマ達成だよ」と感謝された。すると、私も次第に嬉しくなり、彼らと一緒に喜びを分かち合ったのだった。
 なぜ、Oさんが強盗をしただけでノルマ達成になってしまうのか。実は、私の会社のシステムでは、会員が罪を犯して警察に逮捕・勾留されると、本人が抱えていた債権が自動的に勾留債権となり、償却センターへ移管されることになるからだ。そうなると移管された分は処理されたとみなされ、回収率が上がるのだ。そのため、債務者が逮捕・勾留されると、社員たちは声高々に喜び、笑い合うのが常態となっていた(実録「取り立て屋」稼業 108〜110頁)。

(オ) 家庭が崩壊してもかまわない
a 家庭崩壊とは父や母を失うこと

 サラ金業者は契約を結ぶとき必ず家族に内緒であるかどうかを尋ねます。家族に内緒だと、発覚することを恐れ無理してでも返済してくれます。しかし、家族に分かったときに家庭は崩壊の危機にさらされます。家出、離婚、などにより路上生活を強いられたり、子供たちは、お父さんやお母さんを失ったりすることにもなりかねません(消費者法ニュース69号 64頁)。

b 借金内緒は夫婦別れの可能性あり
 配偶者や同居家族を保証人にしない場合でも、借金を家族に内緒にしているかどうか、必ず申し込み時に聞く。それは、自宅に電話を掛ける際、社名を名乗っても大丈夫かどうかという確認だけでなく、もう一つの意味が隠されていた。それは夫婦仲(家族仲)を推測することだ。
 配偶者を保証人にしないとしても、借金を内緒にしないというのは、夫婦仲が円満であり、借金した使途がやましいものでなく、いざとなれば配偶者が借金返済に協力してくれる可能性を示している。
 一方、配偶者に借金のことを内緒にしているというのは、配偶者に知られてはまずい使途であること(たとえばギャンブル、愛人、投機など)、夫婦仲がいずれ破綻する可能性が高いことなどが考えられる(アイフル元社員の激白 147〜148頁)。

オ 再度貸付け
(ア)武富士で残高を増やす方法

 武富士では具体的にどのようなノルマがあるかというと、営業面では貸付残高のノルマがメインである。つまりたくさん貸し付けろということ(武富士の闇を暴く 84頁)。

 話がそれたが、貸付ノルマは通常業務ではほぼ達成させることができない。ではどうやって達成させるのか。
 武富士で残高を増やす方法は大きく分けて、@既存客に貸し付ける、A一度取引が終わった客に再度貸付ける、B新規に借りにくる客の三通りある(武富士の闇を暴く 85頁)。

(イ)武富士は「再の掘り起こし」が営業
 武富士の伝統、歴史の営業姿勢は、『配布』「接客』『再の掘り起こし』である。基準に頼った残元伸長ではなかった。今こそ見直しをかけるべきである。再度、『配布』『接客』『再の掘り起こし』この三項目に対し、具体的な行動をとる(武富士に一度家族が完済して、もう貸さないでくれと言ったのに、また、勧誘の電話が入って、借りさせられた、というようなことをよく聞かされていたので、「なるほど」と合点がいった)(消費者法ニュース56号 90頁)。

2 手段
(1)利息制限法違反金利の不法性
ア 金利の怖さ・知られていない

 その男性の借入れ総額をキリのよい数字で、仮に「1社・200万円」だったとしよう。男性は完済を目指して消費者金融に対し、総額で月々4万5000円を返済することを固く決心し、そのまま滞りなく支払い続けた。
 まず年18パーセントの利息で支払った場合だと、どうなるのか。計算上では完済まで約6年かかり、支払い回数もトータル73回である。次が取引実績のある顧客に対する大手の一般的な利息、年29.2パーセントではなく、若干、引き下げられた年27パーセントで支払った場合だ。
 前者(利息制限法の上限金利)が6年で完済できたのに較べ、年27パーセントという現行のグレーゾーン金利帯で返済を続けようとすると、月々の4万5000円の支払いは、実は利息だけを払ったことにしかならないのだ。
 そう、つまり永遠に借金総額は増えていくのみである。その利用者がいずれ定年を迎えようが、のべ数千万円を支払った形になろうが、それでもなお27パーセントの支払いから逃れることはできないわけである。
 この「6年で完済」と「永遠に完済できず」の違いは、年利でたかだか10パーセント前後の差から生じるものだ。これこそが「グレーゾーン金利」の悪魔的なトリックだということが、読者の皆さんにもお分かりいただけたのではないか(下流喰い 88〜89頁)。

イ 利息によっては、いくら支払っても、借金は一生
 200万円を借りて月々4万5000円を返す例を考えます。銀行金利1.8%で借りた場合には、返済は47回(約4年)、支払利息は計7万1132円で終ります。利息制限法18%の場合には、返済は73回(6年余)、支払利息は計221万5529円となります(返済期間がかかるので利率が10倍でも、支払利息は18.5倍です)。更に、27%の金利の場合には、4万5000円(年54万円)が、利息そのものですので、いつまでも利息の返済が終りません。10年経って、540万円支払っても元本は200万円そのまま残り、40年(20才で借りて60才の時)経って、利息を2160万円返しても、元本は200万円がそのまま残り、永遠に、高金利の返済から脱出できません。このようにして、18%と27%との問には無限の開きがあるのです(消費者法ニュース64号 118〜119頁)。

ウ 利息の元本化が行われるのだ
 次に、200万円を29.2%の金利で借り、金利を借入によって支払い続けると、8年後に2010万円になります(宇都宮健児「多重債務者救済の実務」11頁)。貸金業者B社から借りて、A社に返し、C社から借りてA社B社に返すだけで、10倍以上の「元本」に化けていくのです。終期のない、完済の見通しの立たない「リボルビングローン」ないし「オープンエンド」の貸付は、返済能力の低い人に貸付をする程、貸金業者が複利で元本を増殖させる巧妙悪質な仕組です。貧者の生活費果ては命を削って、富豪の永続的な利益を確保させる構造です(消費者法ニュース64号 119頁)。

(2) 回収
ア 審査はコンピューター化できても、取立はできない

 ただ、どうしてもコンピュータ化できない仕事がある。それが取り立てだ。たとえばオートコールシステムやメールソフトを使って、機械的に返済遅れのお客さんに電話や連絡をとったところで、返してくれる率は極めて低いだろう。
 どんなに時代が進歩しても、金を返さないお客さんから金を取り戻すためには、人間による取り立て行為が必要になる。そこに人が介在する以上、根本的に強い口調になってしまいがち(アイフル元社員の激白 110〜111頁)。

イ 同業他社から借り入れできる客は貸せる余地がある
 まだ同業他社から借り入れる余力があるお客さんは、貸せる余地がある。こちらの支払いがしんどくなったら、こちらからは絶対にそのような言葉はいわないが、他社から借りて返済してもらえれば、元金も利息も回収できるからだ。
 だから常に同業他社同士、自分の融資が最後にならないよう、ババを引く番にならないよう、手持ちカードがいっぱいあるうちに、多重債務者というババの引き合いをやっている。そのゲームの間に取れるものを取ろうというのが、サラ金業界の構図なのである(アイフル元社員の激白 122頁)。

ウ 他者より先に返させなければババをひく
 債務者のほとんどが、他の借金があるので、他社より先に金を返してほしい。だから、取り立ては厳しくなる。
 A銀行から住宅ローンを借り、Bクレジットからキャッシングし、C消費者金融会社からもつまみ、D消費者金融からもつまんでいる。このような状態で、あちこちから取り立ての電話が掛かってきた時、どこの返済を優先させるか。
@毎日電話してきて、何度も返すようにいう業者
A時々しか電話を掛けてこない業者
 特別な事情がない限り、答えは明白。@の何度もしつこく電話を掛けてくる業者から優先して支払いに回すわけだ。
 さらに、
@担当者が恐そうなおっさんだった
A担当者が若いやさしそうな女性だった
 これもよほどひねくれた人でない限り、実際に恐いかどうかは別にして恐そうなおっさんのいる業者から返す。これが人間の心理ってもの。
 返してもらうお金は他社との熾烈な競争になる(アイフル元社員の激白 135〜136頁)。

エ 恐怖による取立
(ア)法に触れない範囲でどれだけ客をビビらせておくかが回収の極意
 「客になめられたら金は返ってこない。法に触れない範囲でどれだけ客をビビらせておくか。それが回収の極意なんやで」そんなことがあって以来、毎朝のように響き渡る門田先輩の怒声は気にならなくなった。あそこまでやらなければ、貸した金は取り返すことのできないものなのだ。
 「客は怖そうな会社から金を返していく」
 取り立ての極意を一つ教わった(金融屋 86〜92頁)。

(イ)課長の口調激しい・抑圧移譲の原理
 しかし、消費者金融業界ならではの特徴は、店ごとの営業成績を管理し、叱咤激励する課長クラスの人間の口調が、取り立ての追い込みに近いものがある、ということである。目標達成しない店舗に電話を掛けまくる課長の姿。
「なんでこの一件ができんのや!何が何でも月末までに突っ込め!!」
 その口調は、金を返さないお客さんへの取り立ての電話そっくりである。なんせ長年鍛え上げた電話回収力があるから、確かに一般企業より営業の檄の飛ばし方は激しいかもしれない。
 しかしこの課長も営業成績が目標に達せなければ、部長から怒られる。こうして怒りの矛先の「抑圧移譲の論理」が行われる。部長→課長へ、課長→店長へ、店長→末端社員へ。そして時にその怒りの矛先が、金を返さない取り立て電話へ移譲していく。末端社員は延滞客に怒り、そのストレスを発散させる。だから取り立てが過剰になりがちで、時に問題になる(アイフル元社員の激白 34〜35頁)。

(ウ)取立の肉声
 それは連日の厳しい取立てで消耗しきっていた58歳(当時)の女性にかわって、対策会議のボランティア・スタッフの男性が電話口に出、アイフルの回収担当者の男性とやりあう一部始終を録音したテープだった。
 被害者の女性は、当時、熊本県下に在住。夫(当時62歳)が脳梗塞で倒れ、パートで生計を支えていたが、その女性自身も病気になり完全に収入が途絶えてしまったという。
 電話のやりとりがあった03年当時の負債総額は約320万円。返済額は月に14万円にまで膨れあがり、男性スタッフが自己破産を勧めている最中の出来事だった。

アイフル社員(以下、省略)「……だからさァ、破産を撤回するというね、文書を送ってほしいんだよ」
−いや、破産を撤回するって何を……。
「とにかく!本人(債務者の女性)を電話口に出してよ。電話させてよ」
−それは間違いだよ、アイフルさん。
「撤回する文書を出せ!そっちから」
−ずいぶん乱暴だね。アイフルっていうのは、もっと……。
「カンケーねえだろっ」
−いや、もっと紳士的な会社だと思ってたよ。
「サラ金なんだから。あーっ、しょせんサラ金。だいたいあんたたちにね、間に入る筋合いはないの、うちには」
−いや、筋とかじゃないの。だから間に入ってるわけでもないんですよ。こっちへいらっしゃいよ。ちゃんと説明してあげるから。
「ああーっ?おたくから来いよ」
−なんで私が行かなくちゃいけないわけ?
「お前が来いよ!」
−お前が来いよとかさ、さっきからあなた、失礼な話ばっかりだけど……。
「だから、おたくが立ち入る権利がないってんだよ」
−撤回とか何を言ってるのよ。
「人をバカにすんじゃねえよ!ばかたれーっ」
−そんな感情的になんなさんなよ。
「感情的にしてるのは、おたくだろうがーっ。アタマにくんだよ、ほんとうに」
 アイフル社員の男は苛立ちを隠せない様子だった。
しばし細かなやりとりが続いた後、再び男は高い声でがなりたて始めた。
「うるせえ、おめえ!撤回しろったら撤回しろよっ。何回言わせたら気がすむんだ、アホたれっ」
−あのね、アイフルさん。あなた方はね、一部上場企業の社員でしょう。
「一部上場だろうが、借金取りに変わりはないんですよ!」
−あれだけテレビで宣伝をやってんのに。
「(絶叫口調になって)聞けよ!爺ィ。一部だろうが二部だろうが、借金取りに変わりはねえんだ、この野郎っ」
−ああ、そう。じゃあ、このテープをね、金融監督庁に提出しとくよ。
「……この野郎。ふざけんじゃねえ!ばかたれ!ばかたれ!」
−あのね、もう金融監督庁と話し合うから。
「金融監督庁でも何でも行ってこーい!野球の監督でも連れて来いっ。バカたれーっ」(下流喰い 29〜31頁)

オ 嫌がらせをして払わせるのが取立
(ア)嫌がらせ・しつこさ・ねばり強さ

 取り立てのための極意その1−嫌がらせ
1、 携帯電話に電話をするのではなく、勤務先に電話し、できるだけ長く話せ
1、 同居家族には、消費者金融からの督促であることを臭わせながら伝言を残せ
1、 仮に相手が電話に出なくとも、すぐに切らずにできるだけ長くコールしろ
 取り立てのための極意その2−しつこさ
1、 勤務先に電話する場合、会員が不在でも電話口に出てくるまで繰り返し架電しろ
1、 入金不履行を繰り返すような支払いがルーズな会員には、「何時何分、どこで入金するのか」という細かいところまで執拗に問い詰めろ
1、 不渡り会員が携帯電話に出るまで架電しろ
 取り立てのための極意その3−粘り強さ
1、 「ない袖は振れない」「煮るなり、焼くなり好きなようにしろ」「裁判でも何でもやってみろ」などといって開き直る会員には、飴とムチの原理で時には厳しく、時にはソフトに何度でもアタックしろ(実録「取り立て屋」稼業 96頁)

(イ)会社への、個人名での電話でも毎日なので、サラ金と判る
 平成16年8月頃から返済が滞るようになり、督促状や督促の電話が入るようになりました。その電話は厳しく私を精神的に追い込む一番の原因でした。
 電話は毎日のように会社や自宅に掛かってきました。特に会社へは他の人に知られたくないのに毎日のように催促の電話があり、私は外に出ている時間が多いので会社のロッカーに伝言として張り紙が張られるのです。個人名で電話があるのですが、毎日の様に掛かってくるので、何となく皆には分かっていたと思います。そんな日が何日か続いたので、後ろめたい雰囲気になり出勤するのも本当につらかったです。毎朝出勤の時間になるとこのままどこかへ行ってしまった方が楽になるとか、このまま事故で死んでしまえば保険金で妻と子供は幸せに暮らしていけるのではないかなど悪い方向にばかり考えるようになっていました(消費者法ニュース69号 58頁)。

(ウ)勤務先は毎日かける。自宅にも。社名は言わなくても察してくれるものだ
 一時期、サラ金は勤務先にまで電話をかけるとマスコミが問題にしたことがあったが、勤務先にかける場合、社名は明かさないのが原則だ。個人名でかけ、本人が出てから初めてサラ金であることを告げる。なかには個人名の電話をつないでくれないような会社もあるが、そんなときは「東京の笠虎といってもらえば分かります」などと地名をつけたり、知人や親戚の振りをすることもある。よっぽど愚かな担当者でない限り、自ら社名を名乗り出ることはない。
 家に電話する場合も同様である。家族が保証人でないならば、社名を告げると借金を明かすことにつながるため、個人名でかける。ただ、しつこく電話をしていれば、家族もそのうちサラ金であることをなんとなく察する。
 「ひょっとして、消費者金融の方ですか?」と聞いてきたらしめたもの、それに乗じて社名を名乗り、家族にプレッシャーをかけて支払わせることも多い。その際に気をつけているのが、直接、家族に支払うように言わないことだ。先に述べたように保証人関係にない家族に、直接督促するのは違法行為にあたる。
 「旦那さんの支払いが遅れて困ってるんで、早く払うように言っておいてもらえますか。でないと、財産差し押さえたりすることになりますから」とあくまで婉曲的な言いまわしをする。そうしておけば、家族にプレッシャーをかけられるし、直接返済を迫ったわけではないので、法に触れないのである(金融屋 49〜50頁)。

(エ)債務者への嫌がらせの為に出す被害届
 どうせそんな勇気もないだろうと思っていたのだが、私は泥酔した相手を見くびり過ぎていたようだ。なんと目の前の相手が、「てめえ、ぶっ殺してやる!」といって、包丁を振り上げながら襲いかかってきたのだ。
 ところが幸い、彼は酔っていた。しかも、腰を悪くしているから動きがスローモーションのように遅い。私は急いで靴を引っ掛けると、家の外に出ることができた。玄関を振り返ってみると、包丁を握り締めた彼が、靴も履かずに懸命になって追かけてくるところだった。
 彼のアパートは、商店街のはずれにあった。私は商店街に向かって走りながら、「やめてください。○○さん、どうして包丁をもって追いかけてくるんですか!」
 と、大げさな叫び声を上げた。相手は足腰の調子が悪く、さらに酔っぱらっている。絶対に追いつかれるはずがないという確信があった。
 包丁を振りかざし、「ぶっ殺してやる」といって私を追いかける男を見て、商店街にいた人がすぐに110番通報してくれた。果物屋さんや八百屋さんだけでなく、クリーニング店の人たちまでもが表に出てきてくれて、一瞬にして債務者を取り押さえた。しばらくしてお巡りさんがやってくると、彼は殺人未遂の現行犯であっさりと逮捕されてしまったのだった。
 お巡りさんに「大丈夫か?」と聞かれた私は、「大丈夫ですけど、怖かったです」とだけ答えた。
 会社に電話して事情を話すと、班長が「うちの社員がご迷惑おかけしました。実は貸金回収で向かわせていました」とお巡りさんに説明した。お巡りさんは急に訳知り顔になり、「そういうことだったのか」というと、班長に被害届を出すかどうか尋ねている。
 会社側ではこういうときには必ず被害届を出すことにしていた。しかしこれは、私が遭遇した被害を重くみて出されるのではなく、債務者に対して嫌がらせをするためだった。なぜなら、被害届を出すことによって家族が驚き、代わりに借金を払ってくれる可能性が高まるからだ。こうした冷酷なまでの対応は、「借金を回収するためならどんな手段でも利用する」といったサラ金の情け容赦ない姿勢が如実に表れている例ではないだろうか(実録「取り立て屋」稼業 118〜119頁)。

(オ)近所への聞き込みは債務者を追いつめるため
 渉外を行うようになって判ったことは、隣人の家庭不和やトラブルを面白がっている人たちが世間には実に多いということだ。大抵の人が好奇心をむき出しにして、詳しいことを聞きたがり、それと引き換えに自分の知っていることをペラペラとよくしゃべる。
 特におばさんたちというものは詮索好きで、「サラ金の者です」と私が告げると、何ともいえない笑い方をする人が多かった。彼女たちの笑い方というのは、下世話な好奇心をむき出しにしたものばかりだった。
 いずれにせよ、隣近所に噂話が広がることは債務者に対して大きなプレッシャーになる。貸金回収につながるのであれば、近所のおばさんたちがどんな顔をしてようが私には関係ない。
 この日も右隣の家を訪問後、左隣の家、さらに向かいの家を訪れ、自分がサラ金の取り立てに来ているということを触れ回った。今後、この債務者の家は近所からますます面白がられることになる。そして「あの家はサラ金地獄に陥っている」というレッテルが貼られていくのだ。
 大抵の場合、好奇心の対象となった家は、周囲の目に耐えられなくなる。いつ再び訪問者が来て、近所に借金のことをいいふらされるかわからないという恐怖に陥り、そうなると何がなんでも金策し、借金を返そうとする。
 実際、このときの訪問の数日後にも債務者から入金があった。当時の私は「ヨッシャー!」と叫び、この仕事の醍醐味、面白さをつくづく実感したものだった(実録「取り立て屋」稼業 124〜125頁)。

ケ 身内の情を悪用
(ア)親に尻ぬぐいさせるから、サラ金は成功した

 極めつけは「会長」の次のような言葉です。「消費者金融がなぜ日本で成功したかは、日本が島国で、子どもの失敗を親が、また親の失敗を子どもが尻拭いする、西洋にはない風習があるからだ。だから成功したんだ」(消費者法ニュース62号 13頁)

(イ)武富士の伝達画面
 武富士が、業務の一貫として恒常的に法律上支払義務のない第三者に対して支払請求をしていることは、歴然たる事実であることを伝達画面が如実に示していると考える(消費者法ニュース56号 91頁)。

(ウ)家族にわんさか電話がかかる
 保証人、連帯保証人になっていない家族や配偶者に、取り立てを行うのは明らかな違法行為だし、支払う義務も一切ない。でも現状として、債務者本人が逃げてしまったり、支払えなくなった時、家族に「払え」といわないまでも、それとなく、家族が代わりに払えみたいな電話は、きっとわんさか掛かってくるだろう(それも違法なんだけど)。
 ただそこで、一回でも代わりに払ってあげるような素振りを見せたり、実際に支払ってしまう家族や配偶者がいる。これは絶対にダメだ。なぜなら、サラ金の思うツボだから。一回でも支払ったが最後、代わりに返済してくれるものと思い、契約者でもないのにバンバン取り立てされる(アイフル元社員の激白 45頁)。

(エ)家族との「話し合い」という名の回収
 サラ金側から保証人でない家族に取り立てをしないのが原則だ。ただし家族の側からサラ金に相談を持ちかけてきた場合は別だ。家族との「話し合い」という名の取り立てが行なわれることになる。
 いまだに日本では「契約」という概念が弱い。契約書があまり顧みられない代わりに、義理人情や口約束といったものがやけに重宝される傾向がある。
だからなのか、債務者の家族は、契約書上の保証人でもないのに、身内の借金は家族が返さなければならないと思い込む。サラ金はそこにつけ込むのである。払えるかどうか分からない債務者に追い込みをかけるより、金を持っていて、しかも払いたがっている家族と話をする方が手っ取り早い。かなりグレーな取り立てではあるが、違法ではないとも考えられる。
 サラ金からしてみれば、家族が払いたいというから受け取っただけ、という建前だ(金融屋 48〜49頁)。

(オ)「親展」手紙は回収の武器
 しかしこの不思議な「親展」を利用して、私はわざと電話督促ではなく書面督促を多用した。大抵債務者は家族に借金していることを内緒にしている。それがばれると大変なことになるが、借金していることが身内に知れれば、取り立てが非常にしやすくなる。たとえ身内であろうと本人以外に督促することはできないが、家族に借金していることがばれると、身内で代払いしてくれる可能性が非常に高くなるからだ。
 そこでこの「親展」督促状を、私は借金取り立てのテクニックとして使っていた。もし「親展」と書かれていなければ、家族はそんな手紙を開きもしないかもしれないが、「親展」と書かれていれば、かえって注目を引く結果となる。
 もちろん封筒には社名は一切書かず個人名で出す。しかし身内からみれば、知らない個人から目立つように赤で「親展」などと書かれていたら、開けたくなるのが世の常である。これでこちら側に非はなく、家族に内緒にしていた借金を間接的にばらし、取り立てをしやすくして回収率を上げていくのである(アイフル元社員の激白 149〜150頁)。

キ 取立は辛い。誰もしたくない
(ア)取立をする側も辛い。だから社員が辞めていく

 サラ金問題というと過剰な取り立てを受けた「被害者」ばかりに目がいきがちだが、取り立てをする側もかなり辛い。はっきりいってこんな嫌な仕事、誰もしたくない。
 私もはじめて取り立ての電話をした時、気分が悪くなったし、その日中ずっと精神的に参ってしまった。金を返さないお客さんに金を返せという電話を掛けることの辛さは、掛けた人間にしかわからないだろう。・・・
 取り立ての電話をするの、ほんと辛いですよ。基本的に相手はこちらからの電話を嫌がっている。嫌がっているけど、返済が遅れているわけだから、なんとか説得しなければならない。逆ギレする人、聞いているんだか聞いていないんだかわからない人、ちょっと頭がおかしくなってしまっていて何を言っても理解できない人、ただ毎日すみませんと謝るだけで一向に支払ってくれない人、人を殺す気かと脅す人、親が病気だと嘘をつく人、親戚の不幸があったと毎月言う人、すぐ電話を切ってしまう人……。
 こういうどうしようもない人間たちに、なんとか金を返してもらうように、毎日何人も電話していたら、ほんとこっちが精神的におかしくなってしまう。・・・
 だから大勢の社員は辞めていくし、残った社員は過剰な取り立てをせざるを得ない状況に追い込まれていく。きちんと期日に金を返してくれるお客さんばかりだったら、どんなに社員も楽なことか(アイフル元社員の激白 176〜177頁)。

(イ)素のまんまではなく、役になりきる
「いいか、殺人犯や凶悪犯の役をやる役者が、素の自分でやっていたら罪悪感にさいなまれて嫌になっちゃうだろう。取り立ても同じ。素の自分で取り立てしていたら嫌になるのは当たり前。ドラマだと思って、こわもての取り立て役になったつもりで演技するんだよ。そうすれば、舞台(仕事)の上でどんなにえぐい取り立てやっても、その舞台が終われば、そこで起こったこととは関係のない、自分に戻れる。仕事とプライベートをしっかり分けてやれば、取り立てで辛い思いはしなくなるぞ」
先輩のアドバイスはわかったようなわからないような。でも返済遅れのお客さんに電話する前に、役者になるんだと言い聞かせて掛けると、だんだん嫌にならなくなった。取り立てしている自分は舞台で演技している別人なのだから(アイフル元社員の激白 178頁)。

(ウ)ゲームの世界と思いこみ、回収率を追求する
 管理センターに異動になった当初、パソコンの画面に映る顧客情報を眺めながら一日中オートコールをしつづける生活が本当に嫌だった。しかし、班長から取り立てる際のコツを教えてもらい、実際に回収の実績を上げていくうちに、仕事が徐々に楽しくなってきた。私にとって架電回収業務は、債務者を上手に追い込みながら回収率という‘スコア’を獲得していく楽しいゲームになってしまっていたのだ。
 ゲームだと思えば、相手の痛みなどまったく伝わってこない。会社のマニュアルでは、携帯電話への架電は一日3回、自宅へは2回、勤務先へは1回までと決められていたが、そんなルールも守らなかった。特にプレッシャーになる勤務先への架電は一日に何度でも繰り返した。
 家族のいる自宅に架電することも、プレッシャーをかけるための有効手段だった。
 返済する気などまったくない若い債務者の両親に対し、「ろくでもない息子さんですねえ。いったいどういった教育をなさってきたんですか?」といった嫌みをいい残して電話を切る。すると、頭に血がのぼった親が私に成り代わって借金の返済を子どもに迫ることになる。債務者本人に対する残酷なプレッシャーのかけ方だった。
 ああいってきたら、こういい返す。相手を黙らせて、こっちのペースにもっていき、うまく攻略する。自分はロールプレイングゲームの世界に入り込んでしまっていた。
 うまくいけば成績が上がり、回収率というスコアが上がっていく。私はこうした精神状態に陥りながら毎日を送るようになっていたのだ(実録「取り立て屋」稼業 110〜111頁)。

ク サラ金の減額和解の意味
 取引が6〜7年もあれば、過払いになっている人たちが多くなる。これについては後ほど詳しく説明するが、いずれにしてもこの時点で債権者が弁護士や司法書士に相談すれば債務をゼロにすることができ、さらにはこれまで払いすぎた利息分を取り返すことも可能なのだ。
 しかし、こうした対策を取られたら、サラ金側の儲けがなくなってしまう。したがって、債務者にそういうことは一切知らせない。本当だったら過払いの可能性もあり、債務者はお金を払うどころか、返金を受けられる立場にあるかもしれないのに、サラ金業者はいとも善良な姿を装って借金の減額を申し出るのだ。こうした方法を使って、きっちりとお金を回収していく。
 私たちが行っていたのは、どんなに遅れているお客さんであろうと、まず債務総額を100万円に設定することだった。そのうえ、今後の利息をカットする。そうなると、お客さんは決まって「ありがたい」といった。
 今まで100万円以上に膨れ上がっていた借金が100万円になり、27%前後の利息のほかに遅延損害金利率である29.2%も免除され、今後は利息なしの月々1万円、100回払いにするといえば、ほとんどの人が「それでお願いします」と飛びついてくる(実録「取り立て屋」稼業 94頁)。

3 結果
(1)サラ金の貸付け10兆円
 2004年の経済、生活苦による自殺者数は7947人に上っており、その大半は借金苦による自殺者である。現在、返済困難に陥っている多重債務者は、少なく見積もっても150〜200万人は存在するといわれている。
 現在、サラ金の利用者は1931万人、クレジットカードの発行枚数は2億6362万枚(2004年3月末現在)となっている。2003年におけるサラ金業界の貸付残高は10兆1755億円となっている。また、同年におけるクレジットカードのキャッシングの貸付残高は3兆3551億円となっている。サラ金とクレジットカードのキャッシングの貸付残高は、合計すると13兆5306億円にも上る。
 サラ金から100万円を年29.2%で借り入れ、3年で元利金を返済するとすれば、毎月の返済額は約4万2000円となる。また、サラ金から200万円を年29.2%で借り入れ、3年で元利金を返済するとすれば、毎月の返済額は約8万4000円となる。これでは、低所得者層はサラ金を利用すればすぐに生活が破綻してしまうことになる(消費者法ニュース64号 116頁)。

(2)多重債務者の数
 多重債務者が200万人以上(全情連によるとサラ金の利用者は1400万人うち5社以上借り入れ、借入残の平均が200万円を超えている人が230万人、延滞情報として登録されている人267万人)、経済生活苦で自殺をする人が年間約8000人など深刻な状況を踏まえ、政府の責務として多重債務対策を行うものであり・・・・・(消費者法ニュース70号 64頁)。

(3)自殺を考え、家出をし、離婚をして、子供へ影響
 多重債務による支払困難によって、自殺を考えたこどが「何度もある」は16%、「ときどきある」は40%で、両者を合計すると過半数になり、自殺未遂をしたことが「ある」としたのも7%に達した。同様に、家出を考えたことが「何度もある」としたのが16%、「ときどきある」が25%で、実際に家出したことが「ある」としたのも16%であった。さらに、ささいなことで家族を怒るようになったかどうかについて「大変そう思う」が19%、「少しそう思う」が38%で、これを合計すると過半数に達し、ささいなことで子どもや配偶者に暴力を振るうようになったかどうかについて「大変そう思う」が2%、「少しそう思う」も12%であった。
 離婚を経験したとするのも26%、窃盗、強盗、横領等の犯罪に走ろうと思ったことが「何度もある」としたのが3%、「ときどきある」も10%に達した。
 その他の影響としても、「借金の問題でイライラした家族から暴行を受けた」が5%、「自分や家族に税金の滞納がある」が39%、「公共料金の滞納がある」が27%であり、「電気・ガス・水道を停められたことがある」も17%に達した。また、「子どもの学費の滞納がある」が7%で、その他、子どもの進路希望の変更、課外活動の断念など、子どもの学業への影響も見られた(消費者法ニュース67号 45頁)。

4 損害
(1)母を自殺させたアイフルに死亡診断書を提出する苦悩

 「死亡原因縊死」と書かれた死亡診断書を思い起こすこと、それを母を苦しめた債権者の一つのアイフルに提出を求められることは私には言い表せないほど辛いものでした。一瞬その辛さから逃れるために「診断書出したら……それで終わる。出したら楽になる?」。そんな思いが過りました。しかし、長年、多重債務問題に係わってきた私がそれでいいのかとも思いました。「消費者信用団体生命保険?
 これって、家を買うときに入るものでしょ。消費者金融がなぜ生命保険を?」「お母ちゃんの借金って本当にあるの?」。そんな思いもあり、司法書士事務所で補助者をしている主人の協力も得ながらアイフルに、母の取引履歴の開示を求め、主人が利息制限法に基づき計算しました。わずかばかりではありますが母の借金は過払いになっていたのです。アイフルからの送付された書類には、母には50万近くの残債があるように記載されており、本当は債務は払い終わっているのになおも保険金を受け取ろうとしていたのです(消費者法ニュース69号 56頁)。

(2)ホームレスとサラ金債務
 03年厚生労働省が調査した結果、全国の野宿者(ホームレス、路上生活者)は2万5296人いることがわかった。そして、ホームレス生活者の多くが借金の問題を抱えている。人は誰しも、ホームレスになりたくないと必死にもがく、親類縁者や消費者金融から借り入れ、それでも生活困窮を脱しきれず、取り立てに背中を押されるようにホームレス化していく。一般的に、まじめな方が多い野宿生活者は、負い目という数字以上の高利を残す。それが、生活保護申請時の扶養義務者への照会や自立としての就労活動のための住民登録に深刻な影響を与え重大な自立への阻害要因となる(消費者法ニュース60号 92頁)。

(3)失職とサラ金とホームレス
 人的関係の薄さと不安定雇用による常時の経済的困窮状態を抱えた人にとって、失職で生活資金が不足した際に頼りになるのはサラ金だけである。しかし、このような状態での借入は明日の生活資金が金利として吸い上げられることを意味し、短期間で支払不能となり野宿生活に至る。これが野宿生活となった人の「2、3社・100万」の相談となって現れているのではいか。野宿生活のリスクのある生活困窮者への貸付は、健康的で最低限度の生活を「年29.2パーセントの割合」で奪い取り続ける行為といえないだろうか(消費者法ニュース60号 93頁)。

(4)定住が立ち直りの条件だが住民登録する恐怖
 就労に関する有効な施策がない今、事実上、都の行う自立支援事業としての施設入所からスタートしなければならない。施設に入所し、一定の援助を受けながら求職活動を行うのであるが、ここで住民登録をすることとなり、否応なしに自らの過去と向かい合うこととなる。一般的には決して多額ではない借金であるが、生活保護すら受けられない(ここが問題なのだが)当事者にとっては、とてつもなく大きな借金と感じている。それ以上にそもそも追い込まれて野宿に至った当事者は、そのとき感じた恐怖と同じ戦いをしなければならないのである。事実、施設にいる最長4ヵ月の期間に大抵の債権者からの催告書が届く。
それに絶望し、また路上に戻ってしまう当事者も少なくない(消費者法ニュース60号 92頁)。

(5)自己破産の最も多い年齢は30、40代
 バブル崩壊直後5年間と、小泉政権5年間の自己破産者数等を見た。10年前の5.22倍、消費者金融利用者の53%、自己破産者の40%は給与生活者(ろうきんの顧客対象)、そして最近は破産理由の過半を「生活苦」「失業・転職」「給与の減少」などが占めている。自己破産の最も多い年代は30、40代(51.64%の児童養育年代!理由の中でギャンブル・浪費型は5%に過ぎない。4、5万円あれば、金利がこんなに高くなければ、急場がしのげる……消費生活者の多くがこんな場面に出くわす。多重債務の入り口はごく身近な日常の中にある(消費者法ニュース68号 127頁)。

(6)返済の度にプライドはずたずた
 多重債務者の多くが口にすることだが、完済まで程遠い借金を返すときほど、つらいことはないらしい。返済のたびにプライドはズタズタ、一向に減っていかない借金の大きさを知り、もしもこの金が自由に使えたらと、入金用の金を握り締めることもあるという(金融屋 19頁)。

(7)家族に内緒のストレス・取立の恐怖
 二十数年間、業務を通し給与生活者の多重債務相談・解決に関わってきた。サラ金からの借金は、親子・夫婦の問でも内緒ごとが多い。そのことからくる精神的なストレスは大変なもの、取立ての恐怖感から延滞しまいと、さらに借入れを増やし繰り返す。そして泥沼化し家庭の調和は徐々に崩れる。今、現在も多重債務者や悪質商法による被害者は不安の毎日を送っている。誰にも打ち明けられないストレスを抱え、取立の恐怖におびえながら!自らの精神状態をコントロールできなくなると夜逃げ→自殺→犯罪→最悪→犯罪までいたる。大半の人は多重債務に陥らないと思っている。しかし犯罪行為に巻き込まれない保障は誰にもない。人ごとではなく自分も家族も、いつどこでも起こり得る問題なのだ(消費者法ニュース68号−2 128頁)。

(8)ギャンブル依存症と買い物依存症
 多重債務者には、明らかに依存症と思われる人がいる。男性に関していえば、多いのは何といってもギャンブル依存症だ。
 パチンコやスロット、競馬などに日夜のめり込み、借金まみれで首が回らなくなってしまった人がひっきりなしに相談会にやってくる。
 私の地元でも、パチンコ・スロット、競馬場、競艇場が身近にあり、まさに「ギャンブル天国」といっても過言ではない。
 「ギャンブルで身を崩すのは本人が弱いせいだ」と考えるのが、ごく一般的な意見なのかもしれない。しかし、自分をコントロールできないほどギャンブルにふけってしまうのは、意志の弱さのせいでなく、「ギャンブル依存症」という病気のせいである(実録「取り立て屋」稼業 180〜181頁)。

 一方で、女性に多く見られる依存症として、買い物依存症がある。強迫買い物症と呼ばれることもあり、こちらもれっきとした心の病である。20〜30代の女性に特に多く、買い物でストレスを発散しては、反動で気分が落ち込むということを繰り返す(実録「取り立て屋」稼業 181頁)。
・・・・・
 さら問題なのは、高揚感と落ち込み感を繰り返すうちに自責の念にとらわれるようになり、うつ病を併発してしまう人もいることだ。こうなると精神的により不安定になり、自殺の危険性も生じてくる。たかが買い物依存症と甘く見ていると、取り返しのつかない事態を招きかねない(実録「取り立て屋」稼業 182頁)。
・・・・・

(9)ギャンブラー自尊心の喪失・罪悪感にさいなまれる
 強迫的ギャンブラーはギャンブルをやることによってさまざまなものを喪失しています。目に見えるものとしてはお金がありますが、目には見えないところで自尊心を喪失します。ギャンブルで失敗を繰り返す自分はダメ人間だと半ば自暴自棄になっている人もいますし、反対に自尊心が持てないことを隠すために、「やればできる、ギャンブルなどやめようと思えばいつでもやめられる。ギャンブルさえやらなければ大物だ」というように偽りの自分をつくり上げている人もいます。どちらの場合も、このような考え方を持ったままでは社会の中で健康的な人間関係を構築することは難しいといえます。また、自尊心の喪失と同じくらい問題なのが、罪悪感です。家族をないがしろにし、社会的な責任を放棄してまでギャンブルをしてきた罪悪感は深い傷として心に刻まれています。ときには、罪悪感にさいなまれて、自ら命を絶ってしまう人もいます。つまり、強迫的ギャンブラーは、ギャンブルにのめり込んできた結果抱えてきた重荷を背負って生きているのです。この重荷をごまかすためにさらにはギャンブルが必要となることで、悲劇が繰り返されるわけです(消費者法ニュース63号 76頁)。

5 みなし弁済規定は違法性を阻却するか
(1)みなし弁済規定の効果
 平成12年5月までの貸付に関しては、現在でも利息制限法をこえて40.004%弱の高利の約定のとおりの支払を(厳格な要件のもととはいえ)有効とみなすのが、43条です(その後の貸付については29.2%までの約定利息の支払を有効とみなします)。その結果、借主が懸命に返済し、利息制限法の計算による利息及び元本以上に返した場合でも、貸金業者が43条を主張する場合、未だに多額の残金が残っている計算のもとに、物的担保、人的担保、公正証書、手形等が強制的取立てのために使用されてきました(消費者法ニュース59号 80頁)。

(2)みなし弁済規定は貸金業規制法の立法目的に違背する憲法違反の法律
 「貸金業規制法の最終的立法目的は、資金需要者即ち借主の保護にありますが、43条は、借主を犠牲にして専ら貸金業者の利益を図るものという他なく、そもそも、貸金業規制法の立法目的に違背します。そして、43条は、最高裁判所が利息制限法の元本充当法理を徹底し、高利から債務者を速やかに解放して、基本的人権を保障する判例を築いたことに対する、違法な挑戦というべきです。
 43条独自の立法目的を支える社会的事実は存在しません。
また、43条の存在が、適正な業務を推進するどころか、逆に、不適正な業務、違法な業務による人権侵害を、単にカモフラージュするだけとなっていることは、現実の被害事例が示すとおりです。43条の存在そのものが、借主、保証人の命を縮め、生活基盤を破壊しつくしてきました。43条の超過利息の弁済を有効とみなす手段は、適正な業務と借主保護という目的のための合理的手段ということはできません。」
「自己破産も生活保護もあるわが国で、経済的に再出発することができるのに、このように経済的理由で自殺まで追いつめられる理由は、経済の実情にあわない高金利によって、保証人とその家族の生活基盤まで破壊される絶望、借主にとっては保証人を巻き込む自責の念、苦しさからであって、商工ローンが大きな要因となっています。そして、貸金業規制法43条は高利から脱出することを妨害し、人命を損ない、健康で文化的な最低限度の生活もできなくするものであって、憲法25条に違反しています」(消費者法ニュース59号 82頁)。

(3)43条問題は命がかかっている
 裁判官!事業者といっても、中小零細事業者は生きた人間であることを忘れないで下さい。小売店、町工場などで懸命に働いて実経済を支え、家族、従業員の生活を支え、サラリーマンより不安定な収入で、不況の中、必死で事業を続けようとして商工ファンドから借りているのです。
 多数の人々の命が、明日からの生活と家族の将来が、そして人間の尊厳がかかっている43条の問題性、違憲性を、最高裁判所が正面から見極め、勇気ある判断をされることが、今、最も求められています。このことを人権の最後の守り手たる最高裁裁判官に心から訴えて、私達の弁論を終ります」(消費者法ニュース59号 83頁)。

(4)最高裁判決を無視する業者達
 2004年2月20日、最高裁第二小法廷は、商工ファンド(現SFCG)に関する上告事件で、利息制限法の例外である貸金業規制法43条の「みなし弁済規定」が適用される要件は厳格に解釈すべきであるとし、経済的弱者を高金利から守る利息制限法があくまで大原則であることを再確認する判決を言渡しました。しかしながら、この最高裁判決後においてもわが国のクレジット・サラ金・商工ローン業者は、利息制限法を全く遵守せず、利息制限法違反の高金利による営業を続けています。利息制限法に罰則がないからです(消費者法ニュース63号 50頁)。


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