準備書面(7)定着経済の違法性

平成16年(ワ)第1440号
損害賠償請求事件
原  告  ○○○○ 外51名
被  告  世界基督教統一神霊協会

準 備 書 面(7)

平成18年6月21日

札幌地方裁判所
     民事3部合議係 御中

原告ら訴訟代理人             
弁 護 士   郷   路   征   記
弁 護 士   内   田   信   也

目         次

1 はじめに
2 違法性判断の枠組みについて
 (1)霊感商法に関する判例
 (2)定着経済もその性格は霊感商法と同じである
 (3)伝道の端緒としての性格
 (4)定着経済にについての判例
 (5)結論
3 定着経済の違法性
 (1)宗教法人法違反
 (2)違法性要件の検討
  ア 目的
  イ 手段
  ウ 結果
  エ 違法性は阻却されない
  (ア)札幌地裁の判決
  (イ)札幌高裁の判決

1 はじめに
 この準備書面は、定着経済のゲストに対する統一協会の物品販売行為が、ゲストに対する不法行為であることを明らかにすることを目的としている。
 まず、定着経済と同じ統一協会の物品の販売行為である霊感商法について、判例が、目的、手段、結果の社会的相当性という枠組みで、その違法性を判断していることを示す。そして、定着経済が伝道の端緒としての性格を持っていることを明らかにして、青春を返せ訴訟で伝道の端緒であるビデオセンターの受講料が、同様の枠組みで違法であると認められていることを示す。以上を論拠に、定着経済についても、目的、手段、結果の社会的相当性という枠組みで、その違法性を判断すべきであると主張する。
 さらに、定着経済の目的、手段、結果について、その社会的に不相当である所以を解明している。

2 違法性判断の枠組みについて

(1)霊感商法に関する判例
 統一協会による霊感商法は物品(壺や多宝塔など)の販売行為である。ゲストにとっては法形式上売買である。ゲストは統一協会がその主体であることを知らされていないし、統一協会に対して献金する意思など全くない。
 しかし、霊感商法に関する下記の判例は、物品販売行為である霊感商法を統一協会の側から観察して、それが実質的には献金勧誘行為であるとして、その行為の違法性について、目的、手段、結果の社会的相当性の観点から検討している。

 前記事実によれば、被告統一教会の信者による原告甲野及び原告乙山に対する物品販売は、伝道活動の費用や同被告本部への納入金等を獲得するための実質的な献金勧誘行為であるということができる。そして、特定の宗教団体の信者が、宗教活動の一環として、これに付随して、実質的には献金勧誘行為である物品販売を行うことは、その方法、態様及び金額等が社会的に相当なものである限りは、違法ということはできない。
 しかしながら、右行為が、宗教活動に藉口して専ら利益獲得を目的とし、勧誘された者の不安を増大させたり困惑を引き起こすような態様で行われ、社会的地位や資産等に照らして分不相応な多額の金員を支出させるなど、社会通念上相当と認められる範囲を著しく逸脱するものである場合には、右行為は違法となるというべきである(福岡地方裁判所平成11年12月16日判決 判例時報1717号128頁)

(2)定着経済もその性格は霊感商法と同じである。
 定着経済も、ゲストの側からすれば、霊感商法と同じく物の売買である。しかし、統一協会の側からすれば、それは上記の判例と同じく「伝道活動の費用や同被告本部への納入金を獲得するという」目的で行われているものである。この判例が認定した「前記事実」は、全国しあわせサークル連絡協議会の存在を当然のことのように認めてしまっている点を除けば、本件の事実関係と異なること、矛盾することは何もない(上記判例参照)。
 そうすると、定着経済も、この判例の判断からすると、実質的には、献金勧誘行為なのであり、その違法性の判断基準は、目的、手段、結果の社会的相当性如何ということになる。

(3)伝道の端緒としての性格
 定着経済には伝道の端緒としての性格もある。
 壮婦(有夫の婦人のこと。)は、伝道の端緒であると教えられ、そのとおり信じている。天に条件を積む、霊界を喜ばせる、先祖の霊を救うことになり、その霊は善霊として統一協会員に協助してくれるようになり、夫を、友人を統一協会員にすることが進むはずと信じているのである。
 「CB展においてすべての人が万物復帰を条件として、神様の前にかえっていくことができますように・・・」(甲B第379号証・原告TのCB展に向けた蕩減条件用紙)という「祈り」は、明らかに上記の目的を表しているものである。その「祈り」の根拠には、万物より堕落した人間が、神様のもとに帰っていく(復帰する=統一協会員になる=救われる)ためには、万物を通してでなければならない、即ち、万物を神様に捧げることを通してしか、神様のもとに帰っていくことはできないという統一協会の教義がある。定着経済において万物を授けること(統一協会の商材を買わせること)はその人を統一協会に導くための決定的に重要な条件、基礎、土台と考えられているのである。
 そのとおりの教育も受けている。原告Fの受講ノート(甲B第359号証)の43頁下から2段目に、物販→ハガキ→訪問→ブルー展→アフター→エーデルワイス(中級コース)と記載されている。ブルー展(定着経済の展示会)で物を買わせて、その後の接触、働きかけによって、壮婦用ビデオセンターであるエーデルワイスに誘って壮婦の教育課程である「中級コース」を受講させるという意味なのである。
 その上と下に記載されている方法も、統一協会員へ勧誘する道筋を示しているものである。原告Tは下に記載されている道筋で統一協会員となった。
 統一協会員は、統一協会の教えによって、夫、親、兄弟をぜひとも統一協会に入会させ、救いたいと思っている。そうすることによって、死後、いっしょに天国でしあわせに永久に生きることができると信じているのである(入会させる=夫を救うため、必死の努力を重ねる〔ものを買うことや統一協会の活動をすることなのだが〕原告Tや同Hの心の中を考えていただきたい。甲B第223号証、甲B第438号証、甲B第439号証の1ないし5、甲B第381号証36頁ないし44頁。)。
 青年の統一協会員にとっても、救いの条件となると信じていることは、変わらない。万物を通して神の元に返らなければならない堕落人間である両親などが、万物(統一協会の商材)を買うことによって、み言葉が聞けるようになる(統一原理を学び、信ずるようになる。)可能性が高まると信じて行為しているのである。

 青年などの伝道では、その端緒は、ビデオセンターへの勧誘である。ビデオセンターの新規ゲストに、新規トーカーがトークをして受講を決断させる。ゲストに求められるのは、当面、ビデオセンターと2ディズの受講決定だけである。その対価は3万5000円である。その際には因縁トークなどはもちいられない。畏怖困惑の要素はないのであるし、若干高額かと考えられるが、社会的に不相当な対価も求められない。
 受講決定は、外形的には、ビデオ受講というサービスの提供とそれに対する対価の支払いという形になる。統一協会にとっては布教活動という宗教活動そのものなのだが、ゲストにとっては、自己啓発セミナーなどと同種のサービスの購入にすぎないのである。
 その最初の受講料について、青春を返せ訴訟札幌では元統一協会員らの損害として認めている。その行為の目的、手段、結果の社会的相当性の如何が判断基準となった。
 青春を返せ訴訟札幌の原告らは統一協会員になった人達であるが、途中でやめることによって、統一協会員にはならなかった人が沢山いる。ビデオセンターの受講中に、受講決定をした75パーセントの人たちがやめる。その人たちに対しても受講料相当の損害賠償請求が認められなければバランスを失することになる。訴訟外では、統一協会員にならなかった人の受講料は、請求すると、すぐ統一協会は返還してくる。
 以上のとおり定着経済から統一協会のビデオセンターを経て統一協会員になって、その後脱退した場合、定着経済による物品の販売が違法であると判断されることは疑いないだろう、その場合の判断基準も統一協会の行為の目的、手段、結果の社会的相当性如何である。定着経済の被害だけの人について損害賠償請求が認められなければ、バランスを失することになる。伝道の端緒としての性格からいっても、定着経済のゲストに対する物品販売が違法であるかどうかは、その行為の目的、手段、結果の社会的相当性如何という点から判断されるべきなのである。

(4)定着経済にについての判例
 定着経済について、唯一の判例は仙台地方裁判所平成11年3月23日の判決である(後出甲第5号証)。
 この判例も「物品の購入を求める」行為の判断基準として、目的、手段、結果が社会適合上相当と認められる範囲を著しく逸脱する場合は違法との評価を受けさるを得ないとしている(149〜150頁)。
 この判例の考え方、結論は青春を返せ訴訟札幌の到着点からみて、不充分なものが多いと原告らは考えているが、上記の判断の粋組み自体は正当であると考えられる。

(5)結論
 以上のとおり、定着経済が実質的には献金勧誘行為であること、伝道の端緒としての性格があることから、定着経済の違法性判断は、その行為の目的、手段、結果の社会的相当性如何という枠組みで行われるべきである。

 基本的には次のように考えている。
 本件は不法行為による損害賠償請求訴訟である。最終的に法的な形式として表現されている形態が物の売買であるからといって、それが一切不法行為にはならないということにはならないはずである。そのものの売買に関わっている、各当事者の目的や手段や結果によって、売り主の行為が不法行為になる場合があると考えられる。したがって、霊感商法や定着経済について、それを「実質的な献金勧誘行為」と捉えなくても、売買の形式をまとってはいるが、ゲストに対する関係では不法行為になると認定する方がシンプルであると考える。その場合の違法性判断の枠組みは、目的、手段、結果の社会的相当性如何である。

3 定着経済の違法性

(1)宗教法人法違反
 統一協会の物品販売活動が宗教法人法違反であることは、平成18年4月11付け原告ら準備書面(5)で詳細に解明したとおりである。
 ビデオセンターを開設して布教活動を行うことすら、ビデオセンター入会時に会費を取ることが、規模が大きすぎて、宗教法人の収益活動として相当でないと指導されたというのであるから、定着経済が宗教法人法違反であることはあきらかである。
 法違反の行為であるから、統一協会は定着経済の際も、自己を開示して売ることができないのである。統一協会だと名のって、毛皮や宝石を販売するなどしたら、世論の袋だたきにあうばかりではなく、宗教法人法上の制裁を覚悟しなければならない。
 宗教法人法違反の点は、定着経済の違法性判断のために重視しなければならない点であると考える。

(2)違法性要件の検討

 ア 目的
 ゲストに対して統一協会が定着経済の商品を販売する目的は、全財産の収奪と無償の労役の享受を目的として勧誘した統一協会員の家族や友人などから、可能な限り経済的な収奪をすることである。この目的が社会的に見て不当なものであることはあきらかである(平成17年7月14日付け準備書面(3) 以下「準備書面(3)」という。 7〜11頁参照)。
 このような不当な目的で行われている行為については、その手段と結果の不当性が、ほとんどないというような場合以外、その行為の違法性を否定することはできないと考えられるし、否定すべきではないと考える。

 本件被害は、統一協会という巨大な宗教団体が、全国的規模で展開している日本国民に対する経済的収奪活動の一環である。例えば、1億円以上も高麗人参茶を売ったケースが証言されている(甲C第28号証の275〜78頁)。信じられないような高額である。1本8万円であるから1250個もの高麗人参液が一挙に売られたのである。このような巨額な売買の存在は、統一協会の行っていることが、国民に対する経済的収奪行為にほかならないことを示すものである。
 過去にあったにすぎないというのではない。聖本の摂理(これも本という物品の売買である。)では、北海道だけで104冊、31億2000万円が目標である(甲B第470号証・聖本の獲得の項参照)。北海道の経済規模から考えて、全国では最低でもこの10倍、300億を超える目標と推定される。以上のように、統一協会の日本国民に対する経済的収奪行為は一貫しているのである。

 定着経済は、エバ国家として文鮮明を支えるために行っていることである。文鮮明の個人的欲望(それが「地上天国」を作ることであったとしても、文鮮明の個人的な欲望にすぎない。地上天国とは、全国民が、中心=文鮮明に侍る生活をさせられるようになることだと考えると、それが個人的欲望であることが分かりやすい。)のために利用されているにすぎないのである。脱税が組織的に組み込まれていたこと(甲B第4号証、甲B第6号証、甲A第35号証の1ないし2、甲A第36号証、甲A第30ないし40号証)、現在もそうであると推認されること(甲A第43号証、甲B第285号証1枚目参照。2月3日の欄に「F,Lより給料分」として88万4860円が入金になっている。甲B第287号証4枚目にも「F,Lより給料入金」148万円と記載されている。F,Lとは有限会社フレッシュライフ(甲B第289号証)のことで、統一協会岩見沢教会のダミーとしての役割を果たす法人組織であるが、そこで従業員として登録されてる統一協会の献身者に、給料を支払ったとしてその全額が、統一協会の会計に入金となったのである。統一協会は税務申告などはしない。他方、(有)フレッシュライフの側ではその金額が経費として計上され、フレッシュライフの収益がその分圧縮されて脱税されているのである。)は、以上の見方を裏付けているものである。
 通常の経済活動であれば、それが、回り回って、国民経済を潤すものなのであるが、統一協会の場合はそうではない。あるのは、収奪だけである。

 青年が両親などを統一協会の定着経済の展示会に誘うことは、青年などを統一協会に勧誘したときから、継続的な教育によって追求されているのであり、その意味で、本件被害は統一協会にとって当初から予定していたものなのである(準備書面(3) 11頁〜19頁)。
 壮婦についても、この点は同じである。

 この訴訟において、「ゲストに対しては、可能な限りその財産を収奪するための手段である。」(準備書面(3) 8頁)と主張したのは、定着経済のゲストから統一協会に勧誘することの客観的困難性を考えて、定着経済の目的を評価したからであり、統一協会や統一協会員の目的に定着経済に「入会勧誘のための端緒」としての目的があることは、すでに述べたとおり、疑いない。

 イ 手段

 最も重要なことであるが、売主が統一協会であることが隠されている。この商法が統一協会の国民収奪の手段であることが判っていれば、誰も買わない。絶対に。特に、息子・娘、妻・嫁が国民の経済的収奪行為にまさに乗り出そうとして、その一番最初に、行きがけの駄賃的に、最もやりやすい親や夫の収奪を手がけさせられているということが判れば、買う者がいるであろうか?いるわけがない。
 そうすると、この点は、購入の意思決定のために、最も重要な、他のどの様な情報にも代わることができない、情報であると考えられる。
 統一協会に息子・娘が加入していることは、親にとって、実に恐ろしい、重要な情報である。帰っても来なくなる(甲B第224号証・帰省希望書を提出し、アベルの許可を得なければ、自宅にも帰れない。場合によっては巡回師、対策(反対牧師対策と称して、統一協会からの脱会を妨害することを専門にしている統一協会の部署)の承認も必要とされている。家族には、自分のやってることについて嘘をついていることが記載されている。嘘をつかせているから、従前の親への説明内容をわざわざ帰省希望書に記載させるのである。息子・娘が、嘘をついて物を売っている、あるいは嘘をついて物を売るように人を教育しているということが親に分かれば、親は何とかしてその子をそのような境遇から救出したいと思うだろう。その外に、この文章から、この文章を記載した統一協会員もこれを見たアベルも、ビデオセンターを運営しているのが統一協会であることが当然の前提となっていることが判る。「連絡協議会」などという嘘は、統一協会の体質が訴訟の場でも発揮されていることのあらわれなのである。)。
 帰ってくるときには、疲れ果てて眠っている。親や親族とのつき合いが全くなくなる。やっていることは、嘘をついての物売りであり、新しい犠牲者である統一協会員の勧誘である。どんな犠牲を払っても救い出さなければならないと考えるようになる。本件訴訟における統一協会員である原告らは、そのような犠牲の結果、救い出された子供達なのである。他方で、救い出されていない子供達が沢山いる。本件の統一協会員であった原告たちも、そうなる可能性もあったのである。
 そのようなことが判っていれば、どうして、統一協会の商材を買うはずがあろうか?そのようなことを知らせないで、知るチャンスも与えないようにして、物を売りつけ財産を収奪していったのであるから、統一協会であることを開示しないという手段の不当性は、あまりにあきらかである。

 定着経済における売買の手段の社会的不相当性については準備書面(3)の20頁〜29頁に詳細に解明してある。社会心理学の諸手段を利用しているが、特に、紹介者というヨハネ役が自分の子供であることや友人であることは大きな、決定的というべき、影響力を持っている。

 地区経済のうち、中心である人参茶の販売方法は次のとおりである。
 いきいき健康フェアに対象者を勧誘するためのビラがある(後出甲B第432号証・欠番だったものである)。快汗コーナーは、統一協会の商材であるサウナ・商品名アセデールに体験入浴させて販売につなげる目的である。試食コーナーは協会員が作って持ち寄ったものを食べさせて高麗人参の販売につなげる目的である。水の実験コーナーは浄水器ミネクールの販売を目的にしたコーナーである。
 健康講演会の勧誘のためのビラがある(後出甲B第430号証)。講師と紹介されているが、Tは北翔クレインの担当者にすぎない。
 店舗おりじなるマインドを紹介するリーフレットがある(後出甲B第431号証)。サウナの体験入浴ができるようになっている。その前と後にノイロメーターチェックを行う。ノイロメーターとはその結果を用いて健康に関する不安を喚起するための小道具である。
 自律神経のバランスチェックをすると称して教義とはなんの関係もないノイロメーターというインチキな道具で体の表面の計測をして、その計測結果をサウナ入浴の前と後に測定専用グラフという表に記載し(甲B第428号証の1〜2)、手足の各6カ所の測定部位における電流量の病的に多い場合、病的に少ない場合に分けて症状を良導絡症候群として指摘する(甲B第428号証の3)、ゲストの健康への不安を増加させるのである。甲B第428号証のゲストの場合、ノイロメーターチェックの過程で、21〜22歳の頃、胃潰瘍を患っていたことを告白し、統一協会にその事実が把握されている。
 そのようなゲストに対して、ノミネート表(甲B第430号証)が作られる。健康展に誘う人をリストアップし、アベル(上司)に報告し、指示を受けるためのものである。冒頭左側の「Mの摂理」のMはマナ=高麗人参の統一協会内用語である。各人の氏名、信頼度、決定権などが査定されている。決定権が重要なのは夫に無断で買い物ができるかが、販売できるかどうかのポイントだからである。ランクは、既に把握しているゲストの経済的状況に照らして、何個売るかという目標を持たせるためのものである。12個セットが原則である。ニード欄には前記のような手法で把握した、各人の健康に関する不安などが記載されている。このノミネート表により、アベルの指示に従いトークを駆使して動員がけを行うのである。
 健康展に来てくれた人に対する最後の仕上げは体質改善トークである(甲B第159号証)。これは高麗人参の効用を論理的に体系だてて詳細に説明して、ゲストにその有用性を信じさせ、大量の購入を決意させるために工夫されたものである。今までの努力は、この体質改善トークに結びつくようになっている。
 一番最初は心情交流である。心を開かせなければ説得することはできない。その為にスキンシップを行い、賛美する。次いでニードを指摘する。動員カード、ノミネート表から、カウンセラーと称する統一協会員(ゲストにとって、肉親や友人の統一協会員ではない)は、事前に、ゲストの健康上の不安や、希望を把握しているので、知らないふりをしながらそれをピシッと指摘して信頼感を高めるという手法をとる。ここでゲストに病人という自覚を持たせることが必要であると指摘されている。ゲストの具体的な症状、病状を聞き、何を一番治したいかを知り、それをA4の紙に赤いペンや黒いペンで記載していく。解決しなければならないこととして、購入の決断まで、ゲストに意識させるためである。肩こり、便秘、腰痛、冷症、貧血等は血液の循環が悪いという所につなげることができるので大事なポイントとされている。そして、これは多かれ少なかれ誰にでもあることなので、利用しやすいのである。
 次にデモンストレーションが行われる。人体を木にたとえ、様々な症状がどうして発生するのか説明していく。肩こりなどの症状は木の葉や幹である。原因は別のところ、木の根の部分にある。原因は、血液の汚れ=酸性体質であるとする。酸性体質の原因はストレスや食品公害や薬品公害だと説明する。酸性体質が症状の原因であり、その原因が現在の社会の問題点であることを指摘することによってリアリティを与え、酸性体質の改善が課題であると自覚させるのである。
 酸性体質の改善のためには対処療法ではなく根本療法=東洋医学でなければダメであり、東洋医学には食事療法、物理療法、断食療法、漢方療法と4つの方法があるが、漢方療法が一番良いというところに導いていく。その漢方には上薬、中薬、下薬があり、上薬である高麗人参がソフトで穏やかであり、上薬の他のものはコスト面などで高くつく等の理由から、高麗人参が最高であるというところにもっていく。そして高麗人参について、有効成分がサポニン、各種ビタミン、ミネラル、アミノ酸等であり、高麗人参は慢性病の原因である“血液の汚れ”に対して効果を発揮する掃除屋なのだとその効用を「科学的根拠」を示して説得し、高麗人参で病気が治った例を報道した新聞記事などで社会的リアリティを示して説得する。赤血球の寿命が4ヵ月であり3回赤血球が変わる期間飲み続けることによって体質改善ができると、1年分12個一括して買うように勧める。96万円である。高麗人参漢方の王様という表題の販売トークがある(甲B第159号証)。以上述べてきたことを全てまとめたような内容である。

 健康を目的とした商材としては遠赤外線サウナ、商品名アセデールがある。これも汗を出す、老廃物を出すということから健康に結びつけてその商品の特性を様々に説明をして購入を説得をする。低温で体に負担が少ないというのがウリである。
 ミネクールというのは水道水から有害物質を除去する装置であるという。水道水についてトリハロメタン(発ガン物質とされている)含有の問題などを指摘して、ミネクールでそれらを除去するとアルカリ性の水になり、それを飲むことによってアルカリ体質になるという流れでその商品の有用性を説明しているのである。

 統一協会が教義とはいささかも関係ない高麗人参茶を売却するのは、それが、韓国の統一協会系企業の製造したものであるからである(大理石の壺についても同様である。購入代金が結局韓国統一協会の収益となり、アダム国家・文鮮明を支えることになると信じているからである。)。
 畏怖困惑させて物を売りつけることが、手段として社会的相当性を欠いていることは、以下の判例の判断に照らしても、あきらかである。

 加えて、控訴人の協会員がその勧誘に当たって用いた姓名判断や家系図鑑定等及びいわゆる因縁トークは、先に見たとおり、組織的体系的目的的な勧誘の方法の一環として、被勧誘者の心理的弱みを突き不安を煽るなどして畏怖困惑させ、宗教的救いを希求させるための手段として用いられているものであって、その真実性の裏付けはないし、それが行われる目的が正当なものであるとは言い難いのであって、上記主張は採用できない。」(青春を返せ訴訟札幌控訴審判決 甲第2号証 21〜22頁)

 ウ 結果
 意思決定の自由が阻害されたのである。意思決定の自由が阻害されたのは、売主が統一協会であること、統一協会の物品販売の目的が開示されないことを最も重要な条件として、ゲストの基礎のうえに、余人を排して統一協会員がゲストを取り囲むようにして、子供や友人などゲストの意思決定に重大なかつ決定的な影響力を有する人を、統一協会員であるのにそれを隠して配置することやその他の社会心理学的諸技術を用いることによってである。ゲストは自分で買い物を選択するのではない。タワー長が決定した物を買わされるのである。

 エ 違法性は阻却されない
 意思決定の自由が阻害された場合に、購入の承諾が、違法性阻却事由にならないことは、次の判例に照らしてあきらかである。

 (ア)札幌地裁の判決
 なお,原告らの中には,アンケートや友人の誘いに応じて,何の畏怖困惑を覚えることなく入教関係費や献金の出捐に応じた者がいるけれども,前記のとおり,人数関係費は,協会員の上記のような組織的体系的目的的な違法行為に基づく結果の実現のために不可欠というべき被告協会への入会の端緒となる費用なのであり,献金は,その金額の多寡に関わりなく,もともと被告教会の教義の名の下での当初から予定された経済的な収奪目的に従って徴したもので,原告らの出捐の時期態様からみて,協会員からの陰に陽にの慫慂に基づくものと推認されるから,それらを出損させてこれを収受する行為も,違法性を帯びるものといわなければならない。いずれの原告においても,協会員の不当な目的をしっていてもなおその出損等に応じ,被告教会に入会したと認められるような事情はない(青春を返せ札幌一審判決 甲第1号証 504頁〜505頁)

 (イ)札幌高裁の判決
 しかも、本件における被控訴人らに対する勧誘は、先に見たとおり、上記組織的体系的目的的な勧誘の方法に基づいて行われ、単に宗教的な伝道であることを消極的に秘匿するだけではなく、宗教教義に関する伝道ではないかと等と尋ねられてもこれを否定したり巧妙に答えをはぐらかしたりし、その一方で親族らに話をしないよう言葉巧みに指導するなどして被勧誘者と外部との接触を困難にさせ、正常な判断ができない状況を作出して、教義に傾倒させ、これを断ち切り難い状態にまで強めさせようとするものであって、このような方法による勧誘を受けた者が外形的には個々の行為に承諾を与えたようなことがあったとしても、それは自由な意思決定を妨げられた結果にすぎず、そのような承諾があることによって違法性が阻却されることにはならないというべきである(青春を返せ訴訟札幌控訴審判決 甲第2号証 20頁)。

 また、被控訴人らが献金等の出捐をしたのは、先に見たとおり、自由な意思決定を妨げられた結果であり(内心の状態自体を庫接証明することは不可能であり、これは外形的に認められる当該行為に至るまでの関係者の言動を中心とした間接事実等に基づいて判断するほかはないから、このことをもって恣意的な認定判断であるとか、信者の信仰の自由を無視するものであって憲法に違反するとする控訴人の主張は失当である。)、これによって財産を収受することが正当化される根拠はない(青春を返せ訴訟札幌控訴審判決 甲第2号証 22頁)。

以上


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