準備書面(3)ゲストへの違法性

平成16年(ワ)第1440号
損害賠償請求事件
原  告  ○○○○ 外51名
被  告  世界基督教統一神霊協会

準 備 書 面 (3)

平成17年7月14日

札幌地方裁判所
     民事3部合議係 御中

原告ら訴訟代理人             
弁 護 士   郷   路   征   記
弁 護 士   内   田   信   也

目         次

1 この準備書面の目的
2 霊感商法後の商法の特徴
  (1)定着経済
  (2)その他の経済
  (3)過大なノルマ
  (4)定着経済の顧客獲得方法
  (5)地区経済の顧客獲得方法
3 目的の不当性
  (1)青春を返せ訴訟札幌判決の認定
  (2)定着経済の目的も経済的収奪
   ア 統一協会員とゲスト
   イ 青年と壮婦
  (3)当初から予定していた収奪
   ア はじめに
   イ 教育の具体例
    (ア)因縁・ビデオセンター
    (イ)氏族のメシア・2ディズ
    (ウ)遺伝罪・ライフトレーニング
    (エ)信仰生活講座・新生トレーニング
    (オ)万物復帰の意義と価値・新生トレーニング
   ウ 実践のための教育
    (ア)トータル健康法・新生トレーニング
    (イ)展示会思想・実践トレーニング
   エ 実践の開始
    (ア)対象者のリストアップ
    (イ)実践例
   オ 結論
4 手段の不当性
  (1)入念な宗教的準備・高度な組織性、系統性
  (2)五大トークの意味
  (3)決めるのはタワー長
  (4)自由な意思形成を抑圧する仕組み
   ア 定型化された「説得」
   イ 社会心理学的分析
   ウ 不安による販売
  (5)担当者の役割
5 結果
1 この準備書面の目的
 この準備書面の目的は、(2)記載の原告らへの行為の違法性についての仮定主張(訴状 181頁)を詳細に展開することである。
 分析の対象を定着経済と高麗人参の販売を主体とするそれ以外の商法に分けてある。いままでは同一に扱っていたのだが、細かく分析してみると、販売方法に明確な相違があるので、分けた方がいいと考えた。
 違法性のメルクマールは目的、手段、及び結果の社会的相当性の有無であると考えていて、その順に分析している。目的の不当性のところで、ゲストに対する経済的収奪が、ゲストの子供などが統一協会に勧誘された最初から予定されているものであることを解明した。
 手段については絵画展の販売方法を例に、その方法を社会心理学的に分析した。この点が、この準備書面の中心であり、かつ、いままで全く論じられていなかった点であると思う。高麗人参の販売については、不安の喚起、増大という側面から分析している。

2 霊感商法後の商法の特徴
 霊感商法はそのあまりのあくどさに広範な批判を受け、統一協会はそれを行うことができなくなった。その結果、霊的力があると偽って、壷・多宝塔といった商品を「霊場」としてしつらえた場所で販売することはできなくなった。霊感商法の対象者は統一協会員ではなかった。訪問販売で印鑑などを販売して歩き、そのなかでめぼしい人たちを誘うことが主要な勧誘方法であった。霊感商法が社会的に問題となった理由のひとつは統一協会員でない人たちに売ったからである。その人たちは統一協会員でないから、「霊場」で因縁などで脅され一時の恐怖によって100万円もする壺や1000万円近い多宝塔を買ってしまっても、その場から解放され数日も経てば被害にあったと気がつく人たちが出てくるのである。統一協会は、そのことを防ぐために、売った直後から、統一原理の学習に顧客を誘導し、統一協会員にしてしまおうとするのであるが、そうはすべてが上手くいくわけではないから、霊感商法を、被害者として告発する人が生まれたのである。

(1)定着経済
 その後、統一協会は統一協会員にしてしまううことを、経済的収奪よりも先にするようになった。統一協会員にしてしまえば、その人たちは統一協会の商品を購入したり献金することは救いのためと固く信じさせられているので、問題化することはほとんどないからである。そして、統一協会員にしてからの経済的収奪のために用いられた商品が着物、宝石、毛皮、絵画などであり、統一協会ではそのような商法を定着経済(ブルーともいう)と言ったのである。
 定着経済の商品は国内の一般的な業者から株式会社ハッピー・ワールド(統一協会の商品の輸入・販売を担当している、統一協会の販社)が全国一括で仕入れて、それを北海道の場合には株式会社北翔クレイン(北海道地域の販社)に卸し、株式会社北翔クレインが地区の統一協会組織と一体となって、展示会を開催して販売した。
 統一協会の地区にとっては展示会の売り上げが直接すぐ地区の実績(売り上げ)になるわけではない。2〜3ヶ月後に地区にリベートとして売上の一部が還流してくる仕組みである。

(2)その他の経済
 定着経済の商品の外に、霊感商法の時代から統一協会の重要な商材であった高麗人参茶(濃縮液)や印鑑、念珠、その後商品として付け加えられたサウナ、男女美化粧品などがある。この内、人参茶は韓国の一和製薬株式会社(韓国統一協会の企業である)が生産し、これをハッピーワールドが一括して輸入し、株式会社北翔クレインに卸してくる。これらの商品については地区の統一協会組織そのものが株式会社北翔クレインから仕入れる。したがって、売上はそのまま統一協会の地区の収入となる。その代わり地区には仕入れ代金の支払い債務が発生する。そして、それらを統一協会の地区が「健康展」を開催して販売する。サウナなどの高額商品で販売元を明示しなければならないような場合には「おりじなるマインド」という屋号を用いていた有限会社一誠が販売元となった(以下、この商法を「地区経済」という)。

(3)過大なノルマ
 統一協会の地区組織には上部からノルマがかけられている。日本の統一協会には過大なノルマがかけられているため、地区組織のノルマも極めて過大である。統一協会の地区ではノルマ達成のために統一協会員を煽り、使命感、切迫感に火をつけて、過酷な販売活動や献金活動等に従事させるのである。

(4)定着経済の顧客獲得方法
 定着経済の展示会に顧客を動員し、展示会の場で販社の人間がなるコンサルタント(あるいはアドバイザー・研修を経て地区の統一協会員がなることもある。霊感商法の場合の霊能師役、ビデオセンターへの勧誘の場合の新規トーカー役と同じ役割)と一体になって霊感商法でいうヨハネ役(ビデオ・センターへの勧誘の際に紹介者が果たす役・人が決断を迫られる時、みじかな他人の意見に従う傾向が強いことを利用した役割)を務め、場合によっては商品の配送から集金までも担当するのが地区の統一協会員である。販社は展示会の宣伝を社会に対して行うことはない。販社も商品も社会的な認知を求めようともしていないのである。
 従って顧客は、統一協会員が形成してきた人間関係を利用して、統一協会が統一協会員の家族、親族、友人、知人の中から対象者を選別し、個別に、統一協会員に、招待制だといって展示会に誘わせることによって獲得するのである。

(5)地区経済の顧客獲得方法
 地区経済の場合には、定着経済と同じ方法に加えて、ビラのポスティング、整体(指圧、マッサージのこと)をするなどと言って訪問したり、健康講演会を開催するなど多様な手法が用いられている。このような活動で結びついた人を定着経済の展示会に勧誘することもあった。

3 目的の不当性
(1)青春を返せ訴訟札幌判決の認定
 前件訴訟の札幌地裁判決は被告統一協会の信者勧誘目的について、「その勧誘の目的は、被告協会の信者となる協会員の獲得であることは明かである。問題は、その獲得した協会員の行う活動にある。協会員は、上記のような不公正な手段を駆使してでも、さらに新たな協会員の獲得のために活動することが求められる一方、万物復帰を始めとした宗教教義の名の下では抗い難い献金や出捐が間断なく、また時には、自らの資産や収入から考えると不相当というべき献金が求められるだけでなく、その修行過程のプログラムとして、それ自体が被告協会の教義とは直接の関連性があるとは認められない各種商品(印鑑、宝石、毛皮、絵画、茶、化粧品、サウナ設備、浄水器、珍味)の販売活動や目的を偽った募金活動などに従事することが組み入れられ、その積極的な活動が執拗に求められることである。そして、その販売活動に当たっては、常に客観的にみても達成が困難と考えられるような販売目標を、それも動員人数と売上金額を各人ごとに定めることになっており、その目標の到達のために、極端な例としてはキャラバン隊にみられるような肉体的精神的限界を極め、あらゆる手段を尽くすことが求められる一方、そのような労役の提供に見合うような対価の支払は一切ないに等しいばかりか、原告らの多くは、自ら購買者となって、その売上げに協力することが求められ、また、一連の活動の過程においては法規に触れることも厭わないものとされ、その目標の成就すなわち集金活動の成功こそが信仰のあかしとさえ受けとられるような体系に組み入れられている。このような経済活動が一時的偶然的なものではなく、また、特定の宗教上の必要に迫られたものあるいは宗教教義そのものの現実化とみるべき事情もなく、むしろ、これを外形的客観的に見る限り、経済的利得のために、宗教教義の名を冠して、労働法規を始めとする強行法規を潜脱しようとしていたものといわざるを得ない。・・・・・
 いずれにせよ、被告協会の協会員が、協会員となった原告らに求め、あるいは求めようとしていたものは、上記のような勧誘、献金及び経済活動なのであって、これを外形的客観的に観察して直截に表現すれば、原告らの財産の収奪と無償の労役の享受及び原告らと同種の被害者となるべき協会員の再生産という不当な目的にあったということになる。」と認定している(同判決502〜504頁)。

(2)定着経済の目的も経済的収奪
ア 統一協会員とゲスト
 統一協会員に対しては、その全財産を収奪するための手段のひとつである。教義の浸透度などから献金によって収奪することが困難である場合、物品の販売という形態で金銭を収奪するのである。商品と金銭の交換である売買は等価交換が基本であるからその取引形態からは経済的収奪には馴染まないが、競争が存在しない状態となる統一協会と信者間の「売買」で、その商品には「天の物」という特殊な「付加価値」がつけられているため、価格などはほとんど問題にならない状態が形成されている。だから、極めて高い価格で売却されることになる。
 前件訴訟で証人として出廷した全国しあわせサークル連絡協議会(以下,「連絡協議会」という。原告の解明によれば、これは統一協会の非公然部分=統一協会の本体部分=に対して訴訟対策上つけた名前にすぎない。)の副責任者であったと称する小柳定夫は、壺、多宝塔の価格について、原価の4〜5倍であったと証言しているが、昭和47年の壺の輸入価格は19ドル(当時のレートで6840円)程度であり、韓国での平均販売価格が3万円であった(朝日ジャーナルの調査)ことや、統一協会の広報誌である世界日報の編集局長であった福島嘉和が昭和59年7月号の文藝春秋で、壺の原価5000円、それを200万円、原価の400倍で販売していると内部告発している事実に対比して信用できない。霊感商法の商材について、前記のような価格設定が行われている事実は、定着経済の商品の価格が極めて高価な価格に設定されていることを推認させる資料のひとつである。また、一般市民にとって価格の評価が困難な商品が商材として選択されている。宝石、毛皮、絵画、着物などは高級品や奢侈品があって、一般市民は価格があってないような印象を抱いているものであり、勧められている商品がどのような値段であれば妥当なのか、専門的知識と経験がなければまず判断できない。そのことを利用して、統一協会は極めて高額な値段で商品を販売している。
 したがって、定着経済は統一協会員の財産の収奪の手段として用いることができるのである。
 ゲストに対しては、可能な限りその財産を収奪するための手段である。
 第1に、ゲストは、結果において、統一協会員と身近な人間関係が形成されているものに概ね限られる。統一協会員が形成してきた人間関係を利用して、統一協会が統一協会員の家族、親族、友人、知人の中からゲストを選別し、個別に、統一協会員に展示会に誘わせるのである。その人達に対してもそうそう多数回買わせることは難しいと思われる。
 第2に、宗教団体が、毛皮や宝石など、定着経済に扱われている商品を販売する理由は全くない。統一協会の教義上その販売が要求されていることもない。
 第3に、通常の物品販売活動は、販売主体を明示して良好な商品を妥当な価格で販売して販売主体と商品に対する顧客の信頼を形成し、長期にわたる取引の継続によって利益を得ていこうとするものである。ところが、統一協会の定着経済では販売主体が隠されている。上記のとおり取引の継続も考えられない。
 第4に、既に述べたとおり、定着経済の物品の価格が極めて高いということである。統一協会員に対する価格は前述した理由で極めて高くなるのであるが、統一協会員に対する価格とゲストに対する価格は同じなのである。

イ 青年と壮婦
 統一協会員となった人が青年であるか壮婦であるかによって次のような相違がある。
 統一協会に入ったばかりの青年の親を着物の展示会に勧誘して購入させたとする。次に開催される展示会で別の商品を購入させる。何度もしないうちに親の方で疑問を持つ。物を買ってくれとねだるような子ではなかったのにと思うのである。この疑問は子供の行っている活動が統一協会の活動であると親が認識する契機となりうる。そうすると親による救出活動が開始される可能性が高まるのである。
 他方、親を勧誘させた直後、青年は献身させてしまう。会社を辞めさせ、統一協会の信仰を持っていることを表明させ、統一協会系企業に転職することなどと言う(虚偽であるが)のであるから、親との間に深刻な軋轢が発生する。したがって、統一協会がその後その親に物を売ることは多くの場合不可能であるし、その親がビデオ受講にすすむことも多くの場合あり得ない。
 青年の友人には青年が多く、お金を持っていないことが一般的であるから、定着経済に勧誘するのではなく、ビデオセンターに勧誘することが普通である。そのような経過をたどるのであるから、統一協会によるゲストに対する定着経済の商品の販売は、青年で統一協会員になった場合、統一協会員にした青年の全財産の収奪と無償労働の享受に付随して、その近しい親族を可能な限り経済的に収奪することを目的とするものだということができる。
 壮婦については献身がない。離婚になったり親子の関係が完全に破綻するまで夫、両親、兄弟、親族や友人からの収奪を継続させる。それでは足りずに、サラ金などから金を借りさせて献金させるなどの過酷な経済的収奪を行う(原告Oの例など)。定着経済はその手段のひとつなのであるが、ゲストの範囲は青年の場合より広い。壮婦の友人は既婚であることが多いので、ビデオセンターに誘うよりもまず定着経済へということになるのである。地区経済への関与も広い。したがって、壮婦の場合の定着経済の目的は、その壮婦の全財産の収奪と無償労働の享受とともに、その親族及び親しい友人などを可能な限り経済的に収奪することを目的にするものなのである。
 以上のとおり、ゲストに対して統一協会が定着経済の商品を販売する目的は、全財産の収奪と無償の労役の享受を目的として勧誘した統一協会員の家族や友人などから、可能な限り経済的な収奪をすることである。この目的が社会的に見て不当なものであることはあきらかである。

(3)当初から予定していた収奪

ア はじめに
 統一協会が不法な手段によって人の思想信条の自由を侵害し、統一協会のアイデンティティを形成させ、そのアイデンティティによって、自発的意志によるかのような外観を形成して、献金や定着経済などの手段で統一協会員の全財産を収奪していくものであることを主張立証することは、この訴訟の目的であり、そのために詳細な主張をすでにしているところである。
 その教育の中に包摂されているのであるが、統一協会員となった場合、統一協会員がその親族などに対してそれがその人の救いのためだと信じて、経済的収奪行為を行うようにさせるための周到な教育が、教育課程の当初から周到に積み重ねられ、それが実践活動に直結している。この事実は、統一協会は当初から、統一協会員になった人の親族などに対する経済的収奪をも予定していることを示している。
 以下、訴状の記載の中から、一部訂正などして、このことを示している部分を指摘する。

イ 教育の具体例
(ア)因縁・ビデオセンター
 因縁のビデオを見せる。
 堕落論が入らなかった人については先祖の因縁の話を別のビデオ(「因縁と罪」)を見せて、注入する。先祖の因縁の話は罪の根たる原罪を認識させるものではないが、遺伝罪を認識させ、先祖に殺人者(武家)や色情狂を想定させることによって、罪の血統を自覚させることができる。
 堕落論のビデオを見せた後家系図を書かせる。家系図を書かせることによって、ゲストの意識を家庭、氏族というレベルにまで上げることを目的にしている。3代程度の家系図を書かせてみれば問題のない家族はない。離婚、早死、癌、不仲、子どもがいない等々。みんな堕落人間なのだ。天国に行けない先祖の因縁がこんなに現れているんだという説明をされる。
 その家系の中であなたが因縁をはらす立場にある人であると指摘する。責任感が呼び起こされる。本人が責任を果たさなければ悪い因縁が子供や孫や関係者に及んでしまうと脅される。これは恐怖である。

(イ)氏族のメシア・2ディズ
 受講生たちの祖先は、肉身時代に「善」を行う機会がなかった。統一協会に誘われず、その実践活動をしていないので、その人たちの霊人体は完成していない。したがって、すでに死んでしまった祖先は天国に行けていない。しかも肉身がすでにないのであるから霊人体を完成させることができない。
 既に死亡してしまっている祖先を救うにはどうしたらよいのか。「霊界にいる霊人たちは、肉身生活をしている地上人に協助することによって、地上人の肉身を通して自己の霊人体の完成を成し遂げなければならない」とされる。すなわち、地上で「善」を行っている地上人を霊的に助けることによって、死人・祖先の霊人体は完成して天国に行けるようになるのである。だから、1人1人の受講生は「氏族のメシア」であると位置づけされる。自分につながるすべての祖先の救い主とされるのである。強い使命感が与えられる。何万人いるのか判らないが、自分の先祖を救うのは今真理を知りつつある自分の使命だったのである。
 既に死んでしまった人の救いの責任を持たされることによって、その責任を無限のものにすることが可能になるし、死後の世界で霊たちに責められることを考えるから、現世でその責任を果たさないことの恐ろしさがひびいてくる。

(ウ)遺伝罪・ライフトレーニング
 他人の罪をわが罪として自覚させるために統一協会は木をたとえにして多様な罪の体系とその贖罪の方法を教えこむ。
 自分が犯した罪、自犯罪は罪の葉である。これは刑罰を受けたり、公的な生活(公的な生活とは、統一協会の指し示す生活のことであるが、この段階ではまだ、その具体的内容はあきらかにされていない)をすることによって、贖罪することができる。人が通常考えている罪はこれだけである。
 連帯的に負わなければならない罪があると統一協会は主張する。連帯罪と言いこれは罪の枝に当たる。例えば、日本民族は日清戦争以来のアジア侵略に対して連帯して責任を負わなければならない。イエスの十字架での犠牲に対しては人類として神に対してイエスを不信した責任を負わなければならない。この罪の贖罪の方法も「公的な生活」を送ることである。
 先祖の犯した罪に対しても責任があると統一協会は教える。遺伝罪といい罪の幹に当たる。遺伝罪のことを因縁ともいう。この罪の贖罪の方法は信仰を持つこと、先祖供養をすることであると教える。
 最後の罪がアダムとエバの罪、原罪である。これを罪の根という。遺伝罪までは自己の努力で贖罪することができるが、原罪は罪の根であるから幹まで整理しても地中に深く残ってしまう。残った罪の根から新しい罪が生まれるのだと教えられる(論理的説明でないことは明らかである)。罪の根を取り除くためには人はメシアを信じ、メシアに侍らなければならない。ここにメシアの必要性が存在するのである。これが根本的な贖罪の道なのである。

(エ)信仰生活講座・新生トレーニング
 人生の三大目的の一つとされてきた万物主管の意味が大きく拡大される。本来は全てのものが神のもので、それがサタンに奪われている。万物主管とはそれを奪い返さなければならないという意味に拡げられる。これが経済活動の理論的な根拠になる。
 万物の象徴であるお金の使い方について次のように教えられる。お金の使い方にはサタン的出費がある。これは非原理的な目的に使うことであり、たとえば非原理的な雑誌を買うとか映画を見る、遊び、酒などのために使うことで、このような使い方をした場合は天法にひっかかる。神的な出費がある。神的な出費には2つあって、カイン的出費とアベル的出費があると教えられる。カイン的出費とは自己の目的のために使うもの、衣食住などに用いるもので、アベル的出費とは全体目的のため、献金や伝道や奉仕などのために使うことをいう。アベル的な使い方がもっとも立派なお金の使い方として勧められる。統一協会に対する献金や献品は世界を地上天国に変える目的や伝道を維持するために使われると教える。したがって献金や献品する人の気持ちは、神の救いの恵みに対する感謝、神のみ言葉を勧めたいというという願い、そのような願いをこめて心から感謝してささげることが必要なのだと教えられる。そのような気持ちをもって献金することで、万物に支配された人生から神に支配された人生に変わっていくのだと教えられる。

(オ)万物復帰の意義と価値・新生トレーニング
 この講義では、自分の血と汗と涙の結晶を喜びと感謝をもって神の前に捧げることが必要であると教える。原罪によって万物以下に堕落した人間は、万物を神に捧げることよってしか神の元に復帰することができないのである。堕落人間が現在堕ちている無原理圏から神の間接主管圏に入るためには絶対に供物が必要なのである、とその意義を説明する。献金などをする時には自分自身が神様に召される代わりに物を捧げるという気持ちが必要なのだ、従って感謝の気持ちで捧げなければならない。
 万物復帰の意義と価値についてはさらに摂理的観点から、次のような教えがある。現在の日本はエバ国家である。韓国がアダム国家である。韓国がアダム国家である理由は思想を韓国が確立し提供していることに示されている。統一思想、勝共理論、統一原理を発見した文鮮明の祖国が韓国である。日本がエバ国家である理由は敗戦国であり資源が乏しいアジアの小さな国であるにもかかわらず、戦後40年でGNP世界第2位の国になったことに示されている。これはまことのお父様である文鮮明が神に日本の罪をとりなしてくれて、エバ国家として神に認めさせてくれたからなのである。そしてエバ国家の使命は摂理のための経済、人材の提供である。
 エバは一番最初に堕落したから罪が重い。天使と淫行した後、アダムを誘惑して罪を拡大したのであるから、エバの罪は二重に重い。したがって罪滅ぼしの基準も高い。神やメシアからみ言葉を受けていなくても(統一原理を知らなくてもという意味。すなわち普通の日本人でも)、神とアダムに命懸けで従うという厳しさが求められていると要求する。
 エバは妻である。妻としてはアダムと一体をなしこれを支えなければならない使命がある。文鮮明と一体化し支えきるのがエバたる日本人の責任である。
 エバは母である。母としては子女の教育のため、すなわち全世界のまだ原理を知らない人達にそれを伝えるために、神と文鮮明の心を我が心として全世界に出ていかなければならない。
 以上のとおり、金と人材の両面で韓国と全世界の統一協会を支えることが日本の責任なのだ。日本人の多くを統一協会員とし、その人たちを日本から全世界に送りだしていくこと、日本で統一協会が莫大な金を稼いでそれを全世界に供給していくこと、それがエバ国家としての日本の使命であると教えるのである。

ウ 実践のための教育
(ア)トータル健康法・新生トレーニング
 トータル健康法についてと題する講義もある。
 この講義は高麗人参濃縮液(内部では、マナという。)と遠赤外線サウナ(商品名アセデールという統一協会の商材である)を販売することの意義を学ばせるものである。
 健康は幸福実現の基礎であるという目的を与え、健康に関する現状は北海でアザラシが多数死んだとか、アトピー性皮膚炎でなやむ人が増えていると例を示して恐怖を与え、トータルな健康法は正しい心が基礎にあり栄養と運動と休養と排泄の4つのバランスが大事なのだと健康法を提示する。栄養の側面では動物性タンパク質の取り過ぎによる血液の酸性化が現在の大問題である。したがって健康のためにはアルカリ食品である野菜をたくさん摂取しなければならない。その中でも特に高麗人参はアルカリミネラルが多いと目的の物を押し出し、人参は血管に溜まった余分なコレステロールなどを取ってくれる。根が土の中に6年間も入っているので抗癌作用が強いとか整腸作用をもっているのだという説明をする。
 排泄も問題である。尿や便よりも汗による排泄の方がはるかに解毒効果があると説明する。汗を出させて体内に摂取してしまった毒物を排泄するためには遠赤外線サウナがもっとも有効なのであると説明する。そしてトレーニング生やその家族に高麗人参濃縮液とアセデールを売りつけるのである。

(イ)展示会思想・実践トレーニング
 講義ではまず展示会をなぜするのかと目的が教えられる。そこで今まで教えこんできた思想をベースにして、「展示会はエバ国家である日本の使命である。展示会で勝利したお金は世界の摂理のために使用される。お金を出した人は世界の為に尽くしたことになり、義人、聖人となる。ゲスト個人にとっては本人はわからなくても背後の霊界の救いになるのだ」と教える。ゲストが買うとその霊界の救いになる。だから、その霊界、霊人達がゲストに買わせるために必死なのだという。このように教えられるから統一協会員は必死になって定着経済に邁進するのである。

エ 実践の開始
(ア)対象者のリストアップ
 実践トレーニングで教育を受けた後、トレーニング生は伝道の対象として120名をリストアップすることが要求される。勿論、最初にリストアップされるのが、親、兄弟、親族である。霊界で永久に生きるとき、夫婦、家族が共に過ごすことができるかどうかは、配偶者や子供達が統一協会に入るかどうかで決まってくる。親族全体が「救われて」霊界の天国で、共に永久に生きることが統一協会員にとって、夢、希望、願いとなる。そのために現世的利益をすべて捨てた人生を送ることを決意しているのである。リストアップされた人たちに対してアベルが工作の方向性を指示する。ビデオ受講を誘うか、万物を授けるか、そもそも何も工作しないか(学校の元担任の先生などをリストアップしても工作の対象とされない)などである。
 万物を授けることを先行させる人については、その人の趣味趣向などから適切と考えられる展示会に誘うことを指示する。アベルが横について電話かけをさせる。当時、青年が統一協会員となった場合、原則として親や親族などはビデオ受講に誘うのではなく(未婚の兄弟や友人などはビデオ受講に誘う)、万物を授けることが選択された。
 その結果、次のとおりの実践をするようになる。

(イ)実践例
 栄光在天、CB(宝石・毛皮の展示会)の動員路程頑張ってますね。明るく、元気な姿は神と人をなぐさめると思います。
 氏族動員(おばあちゃんとよっちゃん)は、霊界に強く命令して本当に決意して臨みましょう。展示会では結果しかでませんから、連れていくその時までの歩み、斗いが全てを決めていくのですよ!気を抜かずに最後まで頑張りましょう。

 今の1番の悩みごとはなんですか?家のことですか?何をやっているかは、まだまだ明かせませんが、何もこそこそやる必要はないし善をなしているわけですから心配する事はありません。AP(アパート)の事やCBのこと沢山気になることがあるでしょう。オモちゃんなにか怯えてみ旨を歩んでないかい?悪いことを隠すかのように、こそこそしたり。神様のみ旨から見てどうなのか考えるのだからね。私もね、家の事ではいろいろあったよ。やっぱり母に万物を捧げたいと思うでしょう?だから人間的に考えたら戦ったけれど、動員して高額のものを勧めたりしたよ。それは老後は1人だからと言って貯めたお金だもの。それを出させるのは私も日本にいないだろうし心配だけど、もうね背後が押し出すのよ本当に。私が本当に大丈夫かなっと思うくらいのものを気に入ってしまって授かっちゃたりとか。私の力じゃないの本当に(いずれも、霊の親から実践を開始し始めた霊の子に宛てた手紙)。

 この手紙には、統一協会員の中に統一協会員としてのアイデンティティと、その人本来のアイデンティティがあること、定着経済の商品を親などに販売するために活動するとき、その両者が葛藤するのだが、結局、統一協会的アイデンティティがその人本来のアイデンティティの意思形成を抑圧してしまうことが、示されている。

オ 結論
 以上のとおり、本件において統一協会員にならなかった原告らに生じた被害は、統一協会員であった原告が統一協会に勧誘されたときから、統一協会が予定していたものだと認められるのである。

4 手段の不当性
(1)入念な宗教的準備・高度な組織性、系統性
 定着経済の展示会の最初の取り組みは統一協会の地区の責任者と販社の営業部長クラスの人間とのスタッフ会議である。
 スタッフ会議の終了の後、地区の各部署毎に日程を決め、販社の営業部長が地区の統一協会員に対して啓蒙活動を行う機会が設けられる。統一協会員にとって、商品を販売するのは、その商品が優れたものであるという認識とともに、それが「摂理」(地上天国実現=統一協会の目的実現ための運動やその節目のことなどを言う)のためであるからであり、ゲスト本人は知らなくても堕落人間であるその人にとって救いの条件になるからであり(天に宝を積むとか、霊界が喜ぶとか、霊界の水準が上がるとか教えられ、そのとおり信じている)、そのことを契機にビデオ受講に誘い、統一協会員にしていく(その人が救われることになるのだと信じている)ために必ず必要なことと教えられているからである。堕落人間は万物を通してでなければ、神の前に立つことはできないと教えられているので、展示会で万物を授けること(商品を買わせること)によって、ビデオ受講に導くこと(統一協会に入る道であるので、神の前にいく道と考えるのである)ができるようになるのだと信じているのである。そして、統一協会員にとってはそれは自分自身の救いのためにも必要なことなのである。そのような統一協会員の認識と展示会の開催とが矛盾することなく結びつかなければならない。そのために販社の営業部長は開催される展示会の宗教的意義や摂理的意義を力説する。それまでの教育とそのような説明によって、単なる着物などが、救いのためのものという特別な価値をもったものに、とらえられ方が変わったり強められたりするわけであるし、切迫感がかきたてられるのである。商品知識の理解も必要である。そのものが一般的にも素晴らしいものであると認識していることもゲストへの販売のためには必要なのである。
 定着経済への取り組みの課程で、啓蒙活動の終了とともに統一協会員は客のリスト・アップをさせられる(ノミネート表の作成)。統一協会員がリスト・アップした動員対象者についてチェッカーがついて1人1人検討をおこなう。そのなかで特に重要な客(高額を見込める客)については特別な動員体制をとる。
 リスト・アップした客にダイレクト・メールを発送する。メールの発送後、地区で動員決断式を行う。総決起集会である。全体の勢いをつけるためである。決起集会の後は動員路程となる。電話、訪問などの手段で客を勧誘し、展示会への参加を約束させる。毎日日報体制を取り、電話で報告をとって各部署の動員決定人数の統計をとる。動員目標を達成するまで詰める。
 展示会前日にコンサルタント研修を行う。マニュアルに従った商品知識の修得と、マニュアルにしたがった販売方法の修得である。着物展についてはプロのコンサルタントを外部に頼む。
 展示会が終了したら反省会が開催される。展示会の目標に照らして、実績がどうであったかが問い直される。そのなかで今後使えるいい体験や全体を高揚させるような体験があった場合にはファックスで各部署にその体験が報告される。
 納品と集金が行われ、次回の展示会に向けて、再販を見込める客についてのアフターを行う。また、伝道できそうな人についてはビデオ・センターを紹介するなどして、「教育過程」に勧誘する工作も展開する。

(2)五大トークの意味
 統一協会員には勧誘の際のトークが教えられる。5大トークという。「招待制であること、2時間位はかかること、コンサルタントの方がつくこと、私も買ったこと、あなたも買って」ということを内容とするトークである。心情交流などはその場の状況に対応して変化するのだが、これらのことは絶対にいわなければならないことであると指示される。
 招待制という意味は1人で展示会に来させるためである。1人のゲストをコンサルタントと紹介者、すなわち統一協会員のみで取り囲み、余人を入れないで購入を「説得」するためである。ゲストが友人などと一緒だとゲストの心理を操作し支配することができないからである。2時間くらいかかると事前にいうのは、充分な時間がなければ購入を決断させるほどの心理的な操作や支配ができないからであるのと、用事があるなどということを理由にしてゲストが「説得」の途中で帰ってしまうことを防止するためである。コンサルタントがつくというのは権威のルールの利用である。統一協会員にすぎない人間がコンサルタントと表現されることで、その商品について特別の知識をもった者になってしまう。私も買ったというのは、社会的証明のルールの利用である。だから、このことは嘘でも絶対に言わなければならないと指示されている。統一協会員になりたての頃はこの嘘をつくことに葛藤するのだが、次第に統一協会的アイデンティティが本来の自己を圧倒するようになり、平気になっていく。

(3)決めるのはタワー長
 展示会の度ごとに、責任者であるタワー長が配置される。2時間くらいかかる精緻に組み立てられた「説得」の過程で、コンサルタントは2度タワー長に報告し、その指示を受ける。担当者もタワー長に報告し指示を受ける。タワー長はその場における神の代身である。そこにゲストに関する全ての情報が集中する。なにがニード(希望、願いなど)か、経済力はどの位か、決定権(夫に無断で物を買えるか)があるのかなどなど。その情報とそのゲストに対して統一協会が事前の情報から定めた売上目標から、タワー長はゲストに購入させるものの最終的な指示を出す。買う物を決めるのはタワー長なのである。コンサルタントはそれをゲストに買わせるのである。通常の売買の場合、何を買うのかを決めるのは購入者であり、販売する側の関与はその意思決定を助け、援助することにあるのだが、統一協会の展示会ではそうではない。ゲストが何を買うべきかは各人毎に決められている販売目標金額などに照らしてタワー長が決定するのである。後は、購入の意思決定が本人の自発的なものであると本人が考えるような手段を用いて、その決定を本人に受け入れさせることなのである。そして、よほどひどい手段を取らない限り、人は自分のした決定を自発的なものと考えるのである。当然のことであるが、そのような特殊な体制を取っていることは絶対にゲストには知らせない。
 内部には祈祷室があるが、その存在も勿論ゲストには知らせない。

(4)自由な意思形成を抑圧する仕組み
ア 定型化された「説得」
 以下、絵画を例に「説得」方法を解説する。基本的なパターンは他の定着経済の商材についても同じである。
 まず、コンサルタントはゲストに会う前、タワー長の前で担当者と打ち合わせをする。ゲストについて担当者から情報を受け取る。統一協会員の関係者なのであるから、何に関心を持っているか、的確な情報の提供がある。
 会場に行ってゲストに会う。その時の態度は笑顔と賛美である。第一印象を重視するのは、統一協会のすべての商法に共通している。初めての場所で多かれ少なかれ緊張しているゲストの心を解かないと、ゲストがなかなか自分の意見を言わないからである。担当者はコンサルタントを知り合いの人などと証して安心させる。
 その後、ゲスト、担当者とともに会場を回る。その周り方も決まっている。だから、絵の配置方法も決まっている。最初に大きな絵とか高額な絵、ついで、売れ筋の絵、最後に版画や小さい絵の順番に見せる。コンサルタントと担当者がゲストを挟む体制で絵を見ていく。会場を回る20〜30分間の目的はコンサルタントとゲストとの間に心情関係(心が通ったと思わせる関係)を作ることである。そのため、コンサルタントはゲストの話を肯定的に、受容的に聞き、ゲストが好きだという絵を評価する。絵の説明は3点くらいに留める。目標は決まっているのであるから、たくさん説明する必要はない。
 会場内に椅子を配置してあるところが設えられている。ゲストとコーヒーを飲みながら、くつろいで話しをするところである。席を勧めた後、接待係にコーヒーを頼む。コーヒーが用意されている間、コンサルタントはタワー長に報告に行く。報告するのはゲストの様子と好きそうな絵についてである。戻ってきてコーヒーを飲みながら10〜15分間心情交流をする。さらに、ゲストの心を開かせる。また、この機会にゲストの関心事やライフスタイルなどを聞き出す。経済力なども推定する。
 絵を1〜3点ゲストに選択させ、持ってくる。場合によっては、ゲストが自分の好みの絵を選択できない場合がある。その場合は明るい風景か花の絵で金額がそのゲストへの販売目標に近い絵を勧めることになっている。統一協会にとってみれば絵画の販売は経済的収奪のための手段にすぎないのだから、売る絵はその人が気に入ったものでなくてもいいのである。
 持ってきたらすかさず次のとおり賛美する。まず、絵の賛美である。その上で、絵を通してその絵を選択したゲストの内面を賛美する。例えば、選ばれた絵にお人柄が出ていますねというように。そして、絵の効用を説明する。ここがポイントである。多様な、しかし、一面的な絵の効用が事前にコンサルタントには教え込まれている。また、担当者からゲストのニードを聞いているので、それに合わせたトークをする。例えば、絵の財産性について、「絵は社会、子孫に与える血の通った財産、心の財産として子に伝えたい親の信念や人生を絵に託して残していける」し「高価であっても車やワープロと違い、消耗品ではない半永久的な価値がある」と説明する。たくさんではなくても何かを子供達に残したいと考えている人にとっては有効なトークとなる。そのようなトークがいくつも用意されている。その後作家の説明をする。作家の説明が終わったらテストクロージングをする。買うことを意識させることをいってみるのである。「こんな絵がおうちにあったらどこに飾りたいですか?」などというように。テストクロージングへのゲストの反応が良くてもコンサルタントは自分の判断で契約にまで持って行くことができない。売る物を決めるのはタワー長だからである。テストクロージングが終わったら、コンサルタントは席を外してタワー長のところへ行く。テストクロージングの様子を報告して、どの絵でクロージングするのかタワー長の指示を受けるためである。コンサルタントはいよいよ、タワー長の指示を受けた絵をゲストに売り込むべく説得を開始する。金額を提示して支払方法などの説明をする。ローンなどが用いられる商品については月々の弁済額が少なくなることを強調する。
 ゲストが買えないという理由を潰していく。そのため話法のマニュアルがあり、訓練がされている。例えば、絵に対する価値観の転換が不充分なためにお金がないから買えないというゲストには、「車やオーディオやパソコンなどは高価でも消耗品です。いつかは買い換えなくてはなりません。絵は消耗品ではありません。むしろ長く持てば持つほど価値が出てきたりします。それに絵には見えない価値もあるんですよ」などという。本当にお金がなくて買えないゲストには、タワー長に報告して指示を受けるが、安い絵に変更することになる。「私のお勧めの絵があるのですがちょっと見ていただけますか」と言って勧めるのである。ゲストに統一協会の販売目標までのお金がなくても諦めない。そのゲストが支払える金の範囲で、どうしても、買わせるのである。

イ 社会心理学的分析
 以上のとおりの販売方法は定着経済の商品で商品の相違から生まれる部分を除けばほとんど共通である。この「説得」過程では、影響力の武器のうち、まず好意のルールが用いられている。賛美や受容は人為的にコンサルタントに好意を持たせるためのテクニックである。人は好意を持った人の意見を受け入れるのである。そして、一貫性のルールが重要である。挨拶の時の賛美で気持ちよくさせて、会場を回って絵を見せてそこで表明される絵に関する意見などを受容する。この意見表明がコミットメントである。コーヒーを飲ませるのはリラックスさせて心情交流をより深めるためである。そこでの意見表明がまたコミットメントとして働く。絵を選択させられるのは最も重要なコミットメントである。それは、その状況の中では、ゲストは意識はしないのだけれども、今まで自分が表明していた絵に関する意見を具体物として示したということにほかならない。ここまでコミットメントが積み重ねられると、その絵が嫌いだ、気に入らないと言える人はいない。今までの自分の意見表明と一貫していないことになるからである。そして、これらの理由は絵を買わないことを弁明するために一番有効で、かつ、好意を持った相手を傷つけない理由なのであるが、それが封じ込められてしまうのである。買うことを前提とはしないでここまですすませるのがテクニックだと思う。比較的気楽に選んでしまうのである。しかし、このようにして選ばされてしまえば、その絵を買わない理由はほとんどお金のことだけになる。そこまで持ってきた上でテストクロージングである。初めて絵をゲストが買うことを前提とした問いかけを発して、その反応を読む。その結果をタワー長に報告して売りつける絵を、統一協会が、その人に対する売り上げ目標に照らして選択して、最後のつめにかかるのである。コンサルタントは、ゲストにとって好意を持たされた人であり、権威であり、ゲストの意見表明を直接聞いていた人である。この絵はどうも・・・と言うことはできない。ゲストの逃げ道は限定されているので、それを塞ぐための応酬話法が有効に機能するのである。

ウ 不安による販売
 地区経済の場合は、統一協会が最も得意とする不安の植え付けと増大、そしてその解決という手法で物を売る。まずノイロメーターというインチキな小道具を使う。それによる検査結果を良導絡症候群という表に当てはめて健康状態への不安を覚醒させる。その不安をトークによって拡大させ、人参の購入にまで追い込むのである。
 いきいき健康フェアに対象者を勧誘するためのビラがある。快汗コーナーは、統一協会の商材であるサウナ・商品名アセデールに体験入浴させて販売につなげる目的である。試食コーナーは協会員が作って持ち寄ったものを食べさせて高麗人参の販売につなげる目的である。水の実験コーナーは浄水器ミネクールの販売を目的にしたコーナーである。
 健康講演会の勧誘のためのビラがある。講師と紹介されているが、摺木健一郎は北翔クレインの担当者にすぎない。
 店舗おりじなるマインドを紹介するリーフレットがある。サウナの体験入浴ができるようになっている。その前と後にノイロメーターチェックを行う。ノイロメーターとはその結果を用いて健康に関する不安を喚起するための小道具である。
 ノイロメーターによるチェック表がある。サウナ入浴の前と後のものである。基準からの離れ具合とサウナ入浴の前後での変化が問題とされる。基準が科学的なものなのか、サウナ入浴の前後での変化に科学的な意味があるのか不明なのに、良導絡症候群という表によって、ノイロメーターチェックの結果、どの様な症状があるかを指摘する。ゲストの健康への不安を増加させるのである。あるゲストの場合、ノイロメーターチェックの過程で、21〜22歳の頃、胃潰瘍を患っていたことを告白し、統一協会にその事実が把握されている。
 健康に関するアンケートは健康講演会の後でとられたものであるが、これにより、肩こり、便秘など本人の多様な症状が把握されている。講演会の感想を聞くのは、ゲストが、高麗人参の効用について、講演によってどの程度説得されたのかを把握するためである(あるゲストは、予想以上に効くのだと思ったと答えている)。
 そのようなゲストに対して、ノミネート表が作られる。健康展に誘う人をリストアップし、アベル(上司)に報告し、指示を受けるためのものである。各人の氏名、信頼度、決定権などが評価されている。決定権が重要なのは夫に無断で買い物ができるかが、販売できるかどうかのポイントだからである。ランクは、既に把握しているゲストの経済的状況に照らして、何個売るかという目標を持たせるためのものである。12個セットが原則である。ニード欄には前記のような手法で把握した、各人の健康に関する不安などが記載されている。このノミネート表により、アベルの指示に従いトークを駆使して動員がけを行うのである。
 健康展に来てくれた人に対する最後の仕上げは体質改善トークである。これは高麗人参の効用を詳細に説明して、ゲストに喚起され、増大された不安を解消させるためにはこれしかないと信じさせ、大量の購入を決意させるために工夫されたものである。今までの努力は、この体質改善トークに結びつくようになっている。
 一番最初は心情交流である。心を開かせなければ説得することはできない。その為にスキンシップを行い、賛美する。次いでニードを指摘する。動員カード、ノミネート表から、カウンセラーと称する統一協会員(ゲストにとって、肉親や友人の統一協会員ではない)は、事前に、ゲストの健康上の不安や、希望を把握しているので、知らないふりをしながらそれをピシッと指摘して信頼感を高めるという手法をとる。ここでゲストに病人という自覚を持たせることが必要であると指摘されている。ゲストの具体的な症状、病状を聞き、何を一番治したいかを知り、それをA4の紙に赤いペンや黒いペンで記載していく。解決しなければならない「不安」として、購入の決断まで、ゲストに意識させるためである。肩こり、便秘、腰痛、冷症、貧血等は血液の循環が悪いという所につなげることができるので大事なポイントとされている。そして、これは多かれ少なかれ誰にでもあることなので、利用しやすいのである。
 次にデモンストレーションが行われる。人体を木にたとえ、様々な症状がどうして発生するのか説明していく。肩こりなどの症状は木の葉や幹である。原因は別のところ、木の根の部分にある。原因は、血液の汚れ=酸性体質であるとする。酸性体質の原因はストレスや食品公害や薬品公害だと説明する。酸性体質が症状の原因であり、その原因が現在の社会の問題点であることを指摘することによってリアリティを与え、酸性体質の改善が課題であると自覚させるのである(医学的にはなにも根拠はないが)。
 酸性体質の改善のためには対処療法ではなく根本療法=東洋医学でなければダメであり、東洋医学には食事療法、物理療法、断食療法、漢方療法と4つの方法があるが、漢方療法が一番良いというところに導いていく。その漢方には上薬、中薬、下薬があり、上薬である高麗人参がソフトで穏やかであり、上薬の他のものはコスト面などで高くつく等の理由から、高麗人参が最高であるというところにもっていく。そして高麗人参について、有効成分がサポニン、各種ビタミン、ミネラル、アミノ酸等であり、高麗人参は慢性病の原因である“血液の汚れ”に対して効果を発揮する掃除屋なのだとその効用を「科学的根拠」を示して説得し、高麗人参で病気が治った例を報道した新聞記事などで社会的リアリティを示して説得する。赤血球の寿命が4ヵ月であり3回赤血球が変わる期間飲み続けることによって体質改善ができると、1年分12個一括して買うように勧める。96万円である。高麗人参漢方の王様という表題の販売トークがある。以上述べてきたことを全てまとめたような内容である。
 健康を目的とした商材としては遠赤外線サウナ、商品名アセデールがある。これも汗を出す、老廃物を出すということから健康に結びつけてその商品の特性を様々に説明をして購入を説得をする。低温で体に負担が少ないというのがウリである。
 ミネクールというのは水道水から有害物質を除去する装置であるという。水道水についてトリハロメタン(発ガン物質とされている)含有の問題などを指摘して、ミネクールでそれらを除去するとアルカリ性の水になり、それを飲むことによってアルカリ体質になるという流れでその商品の有用性を説明しているのである。

(5)担当者の役割
 以下に紹介するのは青森事件(統一協会員による霊感商法が恐喝罪に該当するとして霊能者役ら3名が起訴され有罪となった事件)によって警察に発見された「担当者の心構えと姿勢」と題するマニュアルである。統一協会の霊感商法において、ヨハネ役の役割を説明したものである。定着経済における統一協会員の役割を理解するために有用である。

 トーカーの先生(定着経済ではコンサルタント)は真のお父母様の代身であり、担当者(勧誘した統一協会員)はメシアを証すべき洗礼ヨハネの立場です。そして、お客様は救われるべき人々なのです。

クロージングにおける担当者の姿勢
 絶対に人情的にならないことが必要です。ツボを授かることによってお客様がお父母様を受け入れ、つながっているのだということを信じ、その救いの心情を持つことが大切です。このような天的な心情で臨みます。印鑑を20〜30万円で買い、又、100万のS(壷のこと)を勧めるということで、とても人情的になりやすいのですが、ここで自分自身の信仰観が試されます。天的に徹しきらなければなりません。

とりなし役(担当者の役割)の基本姿勢
 外的には(表面上は)お客様の味方になりながら、内的には(本心では)絶対的に、如何なる時も、天と先生の味方である。お客様の基準を如何にして、先生の基準まで引き上げるかの協力者である。
(担当者の心構えと姿勢)

 霊感商法のマニュアルに「ヨハネ・トーク」がある。それはその名のとおり、霊感商法における担当者の役割を詳細に解説したものである。その中で、クロージング時のヨハネの姿勢として次のとおり記載されている。
 紹介者がヨハネの立場を逸脱せず、絶対授けたいという心情、私が責任を持ちますという霊の親としての心情、涙で訴える心情が必要である。タワー長(神様)のもと、先生(イエス様)と一体となってお客様を生み直す心情で望むこと。

 コンサルタントの「説得」によって買わない理由がない状態に追い詰められ、しかし、その想定していなかった高額さに買うことなんかとてもとても、という苦悩のさなかにいるゲストの心に寄り添うふりをし、支えるふりをしながら、頑張って、頑張ってとプッシュして、決断させるのが担当者の役割なのである。親族や友人が勧めるのであるから、その影響力は極めて大きいのである。
 青年が自分の物を親に買ってもらう場合には、親子の情を利用してねだらせる。親は子に弱いことを最大限利用する。
 以上のとおり、統一協会の定着経済の販売方法は、社会心理学的な技術を多用して練りあげられているものであり、人の意思決定に重要な影響力を及ぼす程度に至っていることが明かであるから、社会的にみて不当な手段によるといわなければならない。

5 結果
 以上のとおり、人の意思決定に重要な影響力を与える程度に至った社会心理学的諸手段の意図的な使用や、不安の植え付けやその増大などの不当な手段を用いた上で、統一協会は販売主体であることを厳しく秘匿して、商品を販売している。統一協会の商売であることがわかったらゲストは誰も定着経済や地区経済の商品を絶対に買わない。統一協会が売主であることを明らかにするとその不当な目的がゲストにも社会にも明らかになるからである。
 すなわち、統一協会の作出した状況によって、ゲストはその自由な意思形成を阻害されて、本件各商品の購入をさせられたのであるから、統一協会の行為が違法なものであることはあきらかである。

以上


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